鷹の目
『ススムさん、トランシーバーは便利ですね。ススムさんの世界には、エクスフィアより高度な文明があるらしい』
トランシーバーで通信してきたヤハエは、危険が去ったことを確認した後続車が引き返しており、先刻合流したと報告してきた。
そんな報告は必要ないのだが、ヤハエは岩場に向かっている俺とトランシーバーで、ただ会話がしたかったのだろう。
ここがエクスフィアでなければ、敵の通信傍受を警戒して、無駄話を注意するところだが、俺の知る限り通信機の類は存在しない。
「ヤハエ、俺は岩に取り付いた。後続車と合流したのなら、弓矢の射程距離ギリギリまで隊商を近付けて、オークの注意を逸してくれ」
『解りました』
「頼んだぞ」
岩場の裏手に回り込めば、オークが乗り付けた兵員輸送の馬車が停められていた。
狙撃した悪魔とオークは、隊商から見えない位置から岩場を占拠して、ドラゴンから逃げてきた俺たちを弓で射抜く作戦だったのだろう。
「掃討作戦なら、まず逃走車両を破壊するのがセオリーだ。しかし岩場を占拠するオークの頭数が解らなければ、力の差を見せつけて逃げてもらった方が良さそうだな」
俺の作戦は、岩場に向かう隊商を囮にして、オークが弓を構えたところを端から各個撃破する。
隊商で陽動した後、横に広がって隊列を整えた弓隊を奇襲するシンプルな作戦だ。
「ヤハエ、こちらの準備は整った」
『では前進します』
隊商の車列が岩場に向かってくると、指揮官を失って狼狽していたオークも、それぞれ持ち場に戻って配置についた。
弓の弦を引くオークは、コンバットナイフを構えた俺が、まさか横腹を狙っているとは思わないだろう。
「敵は30匹、小隊規模なら問題ない」
オークの身長は人族と変わらなければ、豚のように肥え太った体躯は、ゴブリンのような貧弱さを感じない。
しかし人型の魔物であれば、傭兵部隊で学んだ近接格闘術で無力化できる。
「ぐふッ!」
俺は気配を殺すと、手前にいたオークの背後から近付いて、首に腕を回して首を禁扼、声を上げさせずに扼殺した。
絶命したオークを岩陰に引摺り込んで隠した俺は、スキルツリーを呼び出して−−
肉体Lv10→基礎Lv1 −腕力Lv3
−脚力Lv1
−素早さLv0
−全身硬化Lv5MAX
腕力Lv3まで引き上げた。
オークの首は太く、絞め落とすまで想像以上に苦戦したからだ。
「レベル17だった俺は、レベル20……21になったわけだ」
腕力を三段階向上して、どの程度パワーアップするのか、ザンザとの模擬戦を参考にすれば、俺の体は、腕力Lv3のザンザが放ったパンチの風圧で吹き飛ばされた。
腕力Lv3により、かなりのパワーアップが期待できる。
「うがーッ!」
一匹のオークが雄叫びを上げると、オークたちは立上り、岩場から射程外の隊商に向かって弓を放ち始めた。
人型のオークだが、低能な魔物である。
指揮官のいない奴らは、近付いてくる隊商に向けて、届かない矢を放ち続けている。
「オークは、ただの畜生か」
俺はコンバットナイフを握り締めると、横列しているオークたち横を駆け抜けながら、次々に首を刎ねた。
腕力Lv3、首に突き立てたコンバットナイフを横に振り抜いても、頸椎骨を物ともしないで斬り落とすのだから侮れない。
オークLv20〜30を10匹ほど狩ったとき、能力限界の閾値を超えてドックタグが金属音とともに光る。
俺のスキルアップは、オーク如きの魔力吸収では上がりづらくなっているらしい。
「ウガーっ、ウガガ!」
俺の奇襲に気付いたオークは、弓を向ける相手を変えた。
ベレッタ92に持ち替えた俺は、岩に身を隠しながら弓を構えるオークに、いちいち狙い定めなくても、固有能力【鷹の目】のおかげで弾道が可視化されている。
一匹を射殺する間に、次の標的を目で追えた。
「岩場の近接戦闘では、鷹の目が有効だな」
鷹の目で可視化される射程距離は、たかだか30mとはいえ、レーザーサイトのような固有能力を使えば、遮蔽物に身を隠しながら、襲ってくる魔物を確実にヘッドショットできる。
そして腕力Lv3にしたことで俺はレベル20を超えた、つまり総合レベルにより向上する固有能力【鷹の目Lv3】は−−
鷹の目Lv3※跳弾を可視化する。
銃口から直線に伸びた弾道は、岩に当たると、銃弾が跳ね返った先まで可視化されていた。
跳弾の可視化を利用すれば、岩で跳ね返った銃弾で、遮蔽物の裏側に隠れたオークも射撃できる。
跳弾を可視化した弾道では、三次元空間を使ったビリヤードのように、四方八方から敵を狙えた。
「ギャビーっ!」
オークには隠れる場所も無ければ、近接戦闘用の武器もない。
「これ以上、意地を張ると全滅だぞ」
「ブギャー!」
怖気づいたオークには、このまま俺に狩られて全滅するか、現場を投げ出して撤退するしか選択肢がない。
俺はオークが矢を打ち尽くしたところで、ベレッタ92の銃口を向けたまま、薄ら笑いを浮かべて正面に立った。
「ビギーっ! ビギーっ!」
生き残っているオークたちは、魔物の青い返り血に汚れた俺を見て、恐怖に打ち震えながら背を向ける。
どうやら勝ち目がないと悟ったオークは、乗り付けた馬車で敗走するようだ。
「これでは、どちらが本物の魔物なのか解らんな」
俺は振返り、死屍累々のオークを見て肩を竦めた。
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東堂進(Lv21)
称号:砂漠の殺戮者
身体能力:肉体Lv10(基礎Lv1/腕力lv3/脚力Lv1/全身硬化Lv5MAX)/五感Lv4(基礎Lv1/触覚Lv3/痛覚Lv-)
取得魔法:万能翻訳魔法Lv2MAX※永続/痛み緩和Lv1※永続/判定魔法Lv1
固有能力:鷹の目Lv3※跳弾を可視化する
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俺の称号は『砂漠の殺戮者』に、今回の戦闘で変化したようだ。
魔物を討伐して殺戮者と呼ばれるのは、筋違いなのだが、岩場の惨状を顧みれば仕方がないのだろう。
しかし称号が変化したおかげで、ザダール将軍の暗殺を問われる心配はなくなったのだから、贅沢は言えないと思った。
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