Mk15無双
(・∀・)〈ついに本領発揮だぞ!
車外に投げ出されたヤハエは、荷馬車の外側に積まれた樽に火を付けて、後続車や周囲の者に、ドラゴンと遭遇したことを知らせる狼煙を上げた。
「サンドキングは、こちらに引き付けておくのか」
「はい。アリアたちは、今朝きた岩場に引き返したはずです」
サンドキングは保護色の黄土色、水の魔素を纏っているせいなのか、吠えながら巨体を震わせれば、砂混じりの飛沫が周囲に飛び散っている。
岩場までの道を塞ぐサンドキングは、全高が5階建てのビルほどあり、まだ100m以上先にいるはずなのに、間近にいるようなプレッシャーを感じた。
「ススムさん、なぜバリスタで攻撃しないのですか?」
御者台に戻ったヤハエは手綱を取ると、サンドキングと距離を取りつつ、流砂地帯を回避しながら岩場に向かうようだ。
ヤハエは『引き金を引いてください!』と、なかなか攻撃しない俺に気を揉んで、大声で叫んでいる。
「トリガーは、まだ引けない」
「なぜですか?」
「ヤハエ、俺を信じろ」
「ススムは、何をするつもりなのですか?」
「俺は戦闘のプロだ」
荷馬車の屋根に積まれた大型弩砲を構えた俺は、サンドキングの眉間に狙いを定めていた。
しかし一射目の攻撃に効果がなければ、大型弩砲は次弾装填に時間がかかる。
それに荷馬車の大型弩砲は、ドラゴンを狩るための武装でなければ、ただ追い払うための道具だと言うのだから、致命傷を与えるほど殺傷能力がないと思われた。
一発ずつしか撃てないなら、確実にダメージを与える必要があり、一撃必殺ではないなら、ダメージを蓄積して倒すしかない。
「スナイパーの俺には、無駄弾を撃つつもりがない」
荷馬車の後方から屋根に登ってきた獣人族の男は、こちらを向いているサンドキングに驚くと、
「ドラゴンめ!」
叫びながら大型弩砲の台座を回して、狙いもそこそこに引き金を引いた。
サンドキングは、後方の大型弩砲から放たれた槍を、頭部から突き出たニ本のツノを横に振って叩き落とす。
ドン!
サンドキングの足元に落下した槍は、しばらくして破裂する。
火薬にしては、やけに小さな破裂音だった。
大型弩砲から撃ち出された槍の穂先には、何かしらの仕掛けがあり、それを使ってサンドキングを追い払うのだろうか。
「ガオオオオオオオオオオオオオッン!」
槍の破裂音に怯んだサンドキングだったが、槍を叩き落としたツノは無傷であり、攻撃が効いている様子がない。
それにしても、なぜ距離を詰めてこないのか。
サンドキングが巨大なツノで荷馬車を突き上げれば、その瞬間に俺たちの負けが確定する。
「何かを待っているのか?」
ドラゴンは初めて向き合う敵であれば、知性があるのかも解らない魔物だった。
しかし吼えて威嚇するばかりのサンドキングは、泡の網で魚を一カ所に追い込むザトウクジラの狩りに似ている。
サンドキングは威嚇しながら、どこかに俺たちを追い込んでいるのか。
「ススムさん、岩場が正面に見えました!」
サンドキングに左側に回り込んだヤハエは、岩場まで一直線に走り抜けるようだ。
ズシンッ、ズシンッ、ズシンッ……
流砂の中で過ごしている砂漠地帯の大型魔物は、陸上歩行が苦手なのか、地面を抉るようにニ本のツノを下げたサンドキングは、ゆっくりとした足取りで荷馬車を追い掛けてくる。
しかし見た目には、ゆっくりとした足取りだが、その巨大な一歩で、荷馬車との距離が数メートル縮まる。
「ススム、ドラゴンを倒そうと思わないでください。ドラゴンに槍を当てて破裂させれば、こちらを警戒して地下に退避します。ドラゴンが再び地表に戻る間に、私たちは岩場まで逃げられます」
撃ち終えた大型弩砲の弦を引き絞っている男も、俺に引き金を引けと催促する。
「お前は、逃げ切れると思うのか?」
「はい。岩場の待避所に身を隠していれば、狼煙を見た冒険者たちが救援にきます」
「サンドキングが魔族に操られているなら、俺たちの回避行動は織り込み済みだ。岩場に逃げ込めば、魔族の思うツボになる」
「ドラゴンが魔族に操られている? ススムは、何を根拠に言っているんだ?」
サンドキングは、ヤハエの荷馬車が岩場に向かうのを待ってから追走を始めた。
人間を襲うのが魔物の本性であるならば、ご丁寧に逃げ場を作るわけがない。
「魔族は、俺たちを逃さないつもりだ」
つまりサンドキングは今、俺たちを岩場に追い込んでいる。
いいや、姿を現さない魔族が、サンドキングを操って岩場に誘い込んでいる。
これは狩りであり、狩られているのが俺たちだとすれば、逃げた先には、別働隊がいるはずだ。
「ススムさん、砲手を代わります」
なかなか引き金を引かない俺を見兼ねたらしく、荷台から上がってきた男が、大型弩砲の砲手の交代を申し出る。
「ああ、交代してくれ」
俺は荷台に戻ると、ダッフルバッグからスナイパーライフルMk15カスタムを取り出した。
俺の長距離狙撃銃ボルトアクションのスナイパーライフルMk15カスタム(正式名称マクミラン Tac-50-A1-R2)は、米国マクミラン・ファイアアームズが製造した対物ライフルである。
対物ライフルとは、ご存知のとおり戦車の厚い装甲を貫くために開発された対戦車ライフルのことだ。
そもそも俺のスナイパーライフルは、超長距離の弾道直進性を買われて狙撃に用いられた対物ライフルであり、巨大な魔物の分厚い鎧を撃ち抜くのは御手の物である。
「銃弾を温存したかったのだが、やむを得ない」
俺は手持ちの銃弾から、50口径の榴弾、つまり成形炸薬弾を取出してスナイパーライフルのカードリッジに詰めた。
「成形炸薬弾は、サンドキングの体表を貫き内部で爆裂する。魔物と言っても生物である以上、戦車の装甲以上の強度があるとは思えない」
俺は揺れる荷台にバイポッドを立てて横になると、幌の隙間から駆け寄ってくるサンドキングの眉間を狙った。
引き金に指を当てれば、鷹の目Lv2が発動して30メートルまでの弾道が可視化される。
これでは外しようがない。
「俺は、この一発で世界を変える」
上下左右に激しく揺れる車内だが、標的は二階建てロンドンバスより大きく、外しようがない。
ドシューッ!
スナイパーライフルの砲口制退器から四方に火柱が伸びると、荷馬車は、発射の反動で大きく左側に傾いた。
50口径の榴弾の反動は最大瞬間衝撃3.4トン、反動を90%低減するR2システム(油圧式反動軽減ストック)を装着してもなお、その衝撃はかなりのものである。
ダダーンッ!
サンドキングに着弾した成形炸薬弾は、ドラゴンの鎧のように厚い外皮と頭蓋骨を貫くと、ンラ砂漠最強の魔物を内部から爆裂させた。
顔が潰れたサンドキングが前のめりに倒れると、二本の長いツノが荷馬車の側面を掠める。
「ススムさん、サンドキングに何をしたのですか?」
ヤハエは荷馬車を停めて振り返ると、荷台に寝そべってスナイパーライフルを構える俺に問い掛けた。
「ヤハエ、俺は戦闘のプロだと言っただろう」
胸元に下げたドッグタグが狂ったように点滅しているが、サンドキングを倒したことで得られる魔力で、どれほど能力限界を突破したのか。
俺は引き金を引く前、サンドキングのレベルをチェックしていなかったことを思い出した。
◇◆◇
東堂進の向かっていた岩場には、オークの軍勢を率いた純血種の魔族が立って、向かってくる隊商の荷馬車を見下ろしていた。
悪魔バラクバラーダは、赤い肌と瞳、頭部には山羊のような巻いたツノがある。
バラクバラーダは、進に狙撃されたサンドキングを操り、隊商を岩場に誘い込んで挟み撃ちにする計画だった。
「なぜ砂の王サンドキングが、隊商如きの攻撃で殺られる?」
悪魔バラクバラーダは、サンドキングに追われて逃げ込んだ獣人族を岩場で待ち構えて、弓を装備したオークの軍隊で射抜く、そのとき絶望に阿鼻叫喚する獣人族の姿を想像していたのである。
「まあ、どうでも良い。少々手違いがあったが、我は、魔王様に歯向かう奴らの泣き叫ぶ顔を見られれば、それで満足なのだ」
まさか冒険者でもない、隊商の獣人族にドラゴンが倒されたのは、誤算だったものの、しばらく待てば隊商の荷馬車は、安全な場所を求めて岩場に近付いて、雨のように降り注ぐオークの弓に八つ裂きにされるのだ。
「ひひひひひッ、さあ人族に飼い慣らされた獣人族よ! ンラ砂漠は、我ら魔族の領地である。あと少しでも近付けば、魔族の恐ろしさを知ることになるだろう!」
バラクバラーダは、岩山の頂上で両手を広げると、無警戒に岩場を目指しているヤハエの荷馬車を見て高笑いした。
ンラ砂漠に銃声が轟いたのは、その刹那。
バラクバラーダの頭部は、東堂進のスナイパーライフルに撃ち抜かれて吹き飛んだ。
特S級スナイパー東堂進を前にして、不用意に姿を晒した悪魔こそ無警戒だったのである。
サンドキングと悪魔バラクバラーダの魔力、ついでに指揮官を失って混乱するオークの弓隊の魔力を吸収したススムは、一気にレベルアップします。
(・∀・)〈ブクマしてね♪




