表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/47

巨悪の影

 ンラ砂漠一日目の夜。

 隊商の荷馬車は、大きな岩に沿って縦列に停められており、夕食を終えた獣人族の商人たちは、それぞれの荷馬車に戻り、早々に寝息を立ていた。


「ススム、どこに行くのですか?」


 クリルは寝ぼけ眼を擦りながら、荷馬車を出ていく俺に話し掛ける。


「寝付けないので、外を歩いてくる」

「明日は夜明け前に出発するので、遠くに行かないでくださいね」

「わかった」


 俺は荷台を降りると、ランタンの灯りを頼りにガイドブックを広げる。

 ガイドブックに描かれている砂漠地帯の地図には、行路の目印になる岩場とオアシスが記載されており、それぞれ三つ村を行き来する最短ルートが線で結ばれていた。

 カルディラからラファトまでのルートは、等間隔に記載されている8ヶ所の岩場とオアシスを経由するらしい。


「目印となる岩場の間隔は25〜30km、ンラ砂漠の横断には、10日間もかからない気がする」


 俺は日暮れ前、岩の頂上から高倍率のテレコスピックサイトで、次の目的地となる岩場を確認している。

 ガイドブックの地図はデフォルメされており、先頭を馬車で走るヤハエの持っている地図と比べると、正確性に欠けていたが、それでも距離と方角は概ね正しかった。


「高低差の問題なのか」


 馬に引かれた荷馬車の速度は、人が小走りに追いかけられる程度でも、日中の移動時間が6〜8時間もある。

 よほど遠回りしなければ、もっと日程を早めることが可能だと思った。


「ラファトを経由してソンゴに向かうより、オアシスから徒歩でソンゴを目指した方が早そうだ」


 ラファトからソンゴは、徒歩で3日と聞いているが、オアシスからソンゴまでの距離と然程変わらないのである。

 とはいえ原隊復帰の方法が解らなければ、急ぐ旅ではないのだが、家庭的な獣人族と旅していると、戦場で研ぎ澄まされた俺の感覚が衰えていく気がした。


 いわゆる平和ボケである。

 

 今、この瞬間、俺の世界では、テロリストに無辜の民が殺されていれば、ザダール将軍のような独裁者に虐げられている人々がいる。

 日本人の俺が傭兵となり、テロリストや暗殺任務を請負っている理由を思い出せば、ガイドブック片手に異世界で観光気分に浸れる訳がなかった。


「あれは?」


 砂漠地帯は遮蔽物がなければ、月明かりのおかげで遠くまで視界が効く。

 俺は数キロ先にある砂山の稜線を歩く、四足歩行の巨大な影を見つける。

 巨大な魔物は、ドラゴンだろうか。

 ランタンを消して暗視スコープ(サーマルスコープ)を取り出した俺が、ゆっくりと歩く巨大な影を確認すると、そいつは明後日の方向を向いており、こちらには気付いていない。


「こちらに向かってくる様子はないが、ヒノたちを起こすか」


 巨大な魔物は身震いすると、足元から砂に沈み込んで砂山の稜線から消えた。

 あれがドラゴンだとすると、四足歩行の巨大な魔物は、突き出した長いツノを加えれば目測で体長25メートル、高さにして10メートル、二階建てのロンドンバスより一回り大きい魔物である。


「隊商はドラゴンとの遭遇を警戒して、流砂地帯を避けているんだ」


 俺は岩場を背にしてへたり込むと、オアシスからソンゴを徒歩で目指すことが、危機意識の乏しい判断だと思った。


 ◇◆◇


 俺は翌朝、野営地を引き払った後、次の岩場を目指して荷馬車を走らせるヒノに、昨夜見た巨大な魔物の話を聞かせた。


「えーっ、ドラゴンを見たのですか?」

「俺が見たのは、やはりドラゴンなのか」

「砂漠地帯の大型魔物には、ドラゴン以外にも砂鯨などがいますが、ツノと手足があって砂から出ていたならドラゴンですね。僕も実物を見たことはありませんが、絶対にドラゴンですよ。良いな〜、僕も見たかったです」


 ヒノが俺を羨ましがっているので、砂漠を移動する流砂地帯を避けている隊商が、ドラゴンと遭遇するのは、稀なことだと解る。


「でもススム、ドラゴンを見たことは、大人たちに言わない方が良いですよ」

「なぜだ?」

「近くにドラゴンがいたなら、きっとカルディラに引返すことになります。タマーノ商会は昔、隊商がドラゴンに襲われて親戚縁者が全滅したんです。僕らの祖父母は、そのとき亡くなっているのです」

「なるほど」


 俺はヒノの忠告に従って、ドラゴンを発見したことは、ヤハエに報告しなかった。

 そして俺が報告を怠ったせいで、エクスフィアは、思うほど平和な世界ではないと思い知ることになる。


「ンラ砂漠は、我ら魔族の領地であるぞ。我らが領地に土足で踏み込む獣人族は、生きて帰すわけにいかないのだ」


 なぜなら俺は、巨大な影に気を取られて、ドラゴンの上にいた小さな人影を見落としていた。

 ドラゴンは、こちらに気付いていなかった。

 しかしドラゴンに跨っていた人影(あくま)は、俺の灯したランタンの明りを見逃さなかったのである。

魔物を操る魔族の登場で、

物語は加速します!


( ╹▽╹ )〈ブクマしてね

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ