商魂逞しい獣人族
双子の父親ヤハエは夕方、隊商に合流した俺のために食事会を催してくれた。
焚き火を囲んでの食事会では、ヤハエの隣に双子の母親アリア・タマーノが腰を下ろして、彼女の隣に俺の席が用意されている。
「皆で食べてください」
「あら、これはチンワームの肉ですね」
俺がチンワームの肉を手土産に参加すると、アリアは目を丸くして喜んだ。
どうやら、人の気配を察して巣穴に逃げ込むチンワームの狩猟は難しく、その肉質は柔らかく、生食すれば寿命が3年伸びると言われて、珍重されているらしい。
「ススムさんは、チンワームの肉を捨て置いたのですか?」
「貴重な食材だとは思わなかったし、一人で食べ切れる量ではなかった」
「日焼けしていない部位なら、金5本でも売れるのに、もったいないですわ」
俺は巣穴から出ていたチンワームの半身、それも持ち歩ける分だけ切り分けると、大半をカルディラの草原地帯に放置した。
アリアの話では、俺が捨て置いた半身が金の棒貨5本(キロあたり銀の棒貨1本)で売買されており、チンワームの狩猟は、専門業者が冒険者を雇って行っているらしい。
「取りに戻るか? 馬なら一日で行き来できるはずだ」
「いいえ。二日も経っていれば草原のハイエナ、スライムに掃除されていますわ」
アリアは、がっかりした表情で肩を竦める。
俺は、チンワームの遺体に集るスライムの群れを想像した。
スライムは底部のアメーバ状の触手で、虫や草、そこらの土毎、何でも捕食していたので雑食性なのだろう。
「そんなことより、獣人族の料理は口に合いますかな?」
ヤハエはアリアの向こう側から、皿に取り分けられた料理を頬張る俺に問い掛けてきた。
獣人族のメイン料理は、焼いた肉を野菜と一緒にパンに挟んで食べる。
焼いた肉は、俺とクリルが摘んできた野草の実で味付けられており、どことなくトルコ料理のケバブを彷彿とさせた。
「獣人族の料理は初めてだが、とても美味しい。この料理は、毎日でも食べたい」
「そうですか! スパイスの香りが苦手な人族もいるのですが、ススムに褒めてもらえると嬉しいですな」
気を良くしたヤハエは『これも食べてください』と、スキレット(鉄製のプライパン)を多めの油で満たして、野菜と肉を煮た料理を勧めてくる。
これも香辛料が効いており、獣人族の料理は、やはり世界三大料理と呼ばれるトルコ料理に似ていると思った。
これから彼らの村ラファトまで10日間の旅では、どんな料理が食べられるのか楽しみである。
◇◆◇
ギリースーツのテントで寝ていた俺は早朝、夜明けとともに出立の準備を始めた獣人たちに起こされる。
「おはようございます」
俺がテントを出ると、全裸のまま歯を磨いているヒノに挨拶された。
エクスフィアの住人は、裸を見られることに羞恥心がないらしい。
ヤハエやアリアなど大人は、さすがに下着を身に着けているものの、起きたばかりの隊商の子供たちは、室外でも服を着ていなかった。
「ほら、すぐに出発するから服を着なさい」
「「はーい」」
ヤハエに注意されたヒノとクリルは、自分たちの荷馬車に戻る。
ヒノはともかく、子供とはいえ、十代半ばのクリルが全裸で歩き回るのは、色んな意味でアウトのような気がする。
「ススムさんは、ヒノたちの荷馬車に搭乗してください」
俺は頷くと、ヤハエに言われたとおり双子の荷馬車に乗り込んだ。
双子の荷馬車は、隊商の食料庫になっており、荷台には双子の二段ベッド、食料の詰まった木箱、水の詰まった革袋などが積まれている。
ラファトを出立した彼らは年に数回、村で仕入れた商品をソンゴに運んで商売すると、そこでドワーフの作った武具などを仕入れて、カルディラに運んで商売する。
ラファトに戻るときは、カルディラで商品を仕入れたり、草原地帯でツノシシやチンワームを狩猟したりして、村に戻って商売する。
「ずいぶん慌ただしいな」
「僕らが急がないと、車列が乱れますので」
野営地を引き払った隊商は、兵装する前車両二台が既に出立しており、準備が整い次第、俺の同乗したヒノの荷馬車と、後続の二台が追走するらしい。
俺の荷馬車は、前後を二台の兵装した荷馬車に護衛されるようだ。
「このペースなら、ラファトまで10日間も掛からないのではないか?」
ヒノと一緒に御者台に座った俺は、クリルから渡された地図を見ながら言った。
ンラ砂漠は広大だが、面積はカルディラ周辺の草原地帯の二倍程度で、10日まあれば徒歩でも渡れる気がする。
「隊商は、まだ涼しい午前中だけ移動します。午後は野営地を設営して、そこで夜を越すことになります」
「日差しを避けるなら、夜間に移動した方が良いのではないか?」
「獣人族は夜目が効くので、夜明け前には出発の準備を初めますが、夜の移動は危険なので、やはり移動は日が昇ってからですね」
夜の移動が危険なのは、ンラ砂漠に生息する大型の魔物、ドラゴンのせいなのだろうか。
「ドラゴンは、もしかして夜行性なのか?」
ドラゴンに襲われるから、夜に移動しないのかと思えば、
「いいえ。流砂地帯を進めば、日中でも襲ってきます。たぶん流砂に隠れて、獲物を待ち伏せしているのでしょう」
「まるで蟻地獄だな」
「そうですね」
「では、なぜ?」
「ドラゴンの生息域になっている流砂地帯が、夜間に変化するのです。だから周囲の安全を確保できるうちに野営地を設営して、夜に備えるのです」
流砂地帯の変化を見極められる日没前に、野営地を設営する。
夜間の移動では、誤って流砂地帯に踏み込んでしまう危険があり、ンラ砂漠を移動できるのは、せいぜい午前中の数時間だけだった。
それもンラ砂漠には、馬車では通行できない岩地が点在しており、一直線にラファトを目指せないらしい。
「ンラ砂漠には、ドラゴン以外の魔物はいないのか?」
「ススムは、質問ばかりですね」
「俺は田舎者で、ンラ砂漠の実情を知らないんだ」
「それなら、クリルと話した方が良いですよ。読書家のクリルは、僕なんかより物知りです」
ヒノは、疑問ばかりを口にする俺の相手が面倒になったのか、荷台のベッドで横になり、本を読んでいるクリルにバトンタッチした。
クリルからは、数冊の本を借りた。
獣人族の言葉で書かれた本だが、万能翻訳のおかげで難無く理解できる。
「能力限界を越えたとき表示される項目の発生条件、スキルツリーを解説した本があるなら貸してほしい」
「それなら取得したい能力が調べられる『逆引き辞典』があるので貸しますね」
「逆引き辞典?」
「はい。欲しい能力、主に魔法の項目を発動するために、どんな条件があるのか書かれた辞典です。能力の詳細も解るので、魔法使いを目指す人の必読書ですよ」
「俺が欲しかったのは、それだ」
「ススムが欲しいなら、銀1本でお売りします」
クリルが手を伸ばすので、俺は銀の棒貨1本で逆引き辞典を買取った。
「良い買い物ができたよ」
「お買上げ、ありがとうございます。よろしければ、『モンスター大百科』も併せて買いませんか?」
「いや、それは要らない」
獣人族の商人は商魂逞しく、事ある毎に商売に結び付けようとするので、思わず笑ってしまった。
今日中に、あと一話更新したい。
( ╹▽╹ )〈ブクマして待ってて♪




