初めての咆哮
ヒノとクリルは、倒したツノシシを手慣れた様子で解体すると、少し離れたところに停めていた荷車まで運んだ。
荷車には、脚の太い馬のような生き物が繋がれており、倒した獲物は、運び易いサイズに可食部位を切り分けて、数回に分けて運ぶらしい。
もちろん、俺も運ぶのを手伝っている。
「食料は、どれくらい必要なんだ?」
「ツノシシは、あと二、三匹かな。あとは、野草を摘みながら帰ります」
「では残りのツノシシは、俺が狩るので、ヒノたちは、荷馬車を牽引してついてこい」
「一人で大丈夫?」
「問題ない」
俺は、ヒノに帰りを待っている隊商の方角を確認すると、そちらに向かいながらツノシシの群れを探した。
程なく、草原を歩くツノシシ三匹の群れを見つける。
ツノシシは目が合えば、必ず突進してくるので、わざわざ追い掛けなくても済む。
俺は口笛を吹いて、ツノシシの注意を引いた。
「銃器の有効性を試してみる」
ベレッタ92をガンホルスターから抜いて、突貫してくるツノシシの眉間に狙い定める。
拳銃による銃撃が、これから遭遇する魔物に通用するのか。
魔力なんて謎の力に阻まれて、銃弾が跳ね返されることはないのか。
この一発が試金石となる。
「俺は、この一発で世界を変える」
俺がセーフティロックを外して引き金に指を当てると、固有能力『鷹の目』が発動した。
鷹の目により射程15メートルの弾道が可視化されたが、俺の腕前ならば、この距離で標的を外すわけがない。
ドンッ!
エクスフィアにきて、初めての咆哮である。
銃声に驚いたヒノとクリルが耳を塞ぎ、荷車を引いた馬が前脚を高く上げて嘶いた。
眉間を撃ち抜かれたツノシシは、前のめりに倒れ込むと、土煙を立てながら俺の前に転がってくる。
俺は、そいつを飛び越えてから、銃声に怯んで立ち止まったツノシシ二匹の眉間を−−
ドンッ、ドンッ!
速射で倒した。
使用したパラベラム弾は三発、残弾は27発となったが、エクスフィアでも銃器による攻撃は有効だと確かめられた。
「さすがに即死とはいかないが、この世界の魔物にも銃撃は通用する。今は、それだけ解かれば十分だ」
足元で痙攣しているツノシシの首にコンバットナイフを突き立てると、あっさりと絶命した。
それから離れたところにいる二匹も、同じようにコンバットナイフで命を奪う。
「ヒノ、クリル、ツノシシの解体を手伝ってくれ」
「う、うん」
ヒノは、おずおずとした態度で近付いてきたが、銃声に腰を抜かしたクリルは、怯えた表情のまま、耳を塞いでいるので、俺の声が聞こえなかったようだ。
クリルは、俺とヒノがツノシシの解体を始めると、ようやく正気を取り戻したのか、馬を落ち着かせて荷馬車を引いてきた。
「ススムの使った武器は、ボウガンではありませんよね?」
「こいつは拳銃だ」
「ケンジュウは、魔法武器なのですか?」
クリルは、ガンホルスターに差したベレッタ92を凝視している。
「魔法武器? そんなものは知らない」
「ええ、私も見たことがないのですが、使用者の魔力を込められる武器のことです。通常の武器では倒せない魔物も、魔法武器による攻撃なら倒せると聞きました」
ヒノはツノシシの毛皮を剥ぎながら、クリルの説明を補足した。
「魔法武器は、魔力素材であるドラゴンの外皮で作るらしいです。ドラゴンの外皮は、魔力を残したままの加工が難しくて、ソンゴのドワーフにも作れる職人がいません」
「魔法武器は、どこで作られているんだ?」
「王都エクスフィアには、魔法武器を所有する騎士がいるそうですが、どこで入手したのか、僕には解りません」
通常の武器では倒せない魔物とは、物理攻撃が通用しない魔物がいるのだろうか。
それとも魔法武器は、通常の武器より殺傷能力の優れた武器なのか。
殺傷能力の高い武器には、興味があるものの、俺の目的は、あくまで原隊復帰であり、エクスフィア最強の冒険者を目指すことではない。
「けど一撃でツノシシを倒せる武器には、驚きました。そのケンジュウが魔法武器ではないなら、ぜひタマーノ商会でも取扱いたいです」
解体したツノシシを荷車に積んだヒノは、クリルに食べられる野草を教えてもらう俺に話し掛ける。
「それは無理だな」
「なぜですか?」
「銃器の類いは、この世界の武器ではないし、エクスフィアには、ガンスミスが存在しない」
「この世界の武器ではない……もしかしてケンジュウは、迷いの森の遺跡で発掘された遺物でしょうか? 用途不明の品々には、武器のような遺物があると聞きました」
「そんなところだ」
迷いの森では、人間が異世界に迷い込むのだから、銃器が発見されても不思議ではない。
銃器の構造は複雑でなければ、模倣品を作るのは難しくないものの、二十年前に異世界転移していたザダール将軍は、エクスフィアの住人に銃器の構造を秘匿している。
だからこそ俺の持ち込んだ銃器が、今以てエクスフィアで唯一の武器なのだ。
「ススムがソンゴに向かう理由は、ケンジュウを作るためですか?」
「いいや」
俺はヒノに答えると、クリルと一緒に野草摘みに励んだ。
ヒノとクリルは、拳銃の威力に興味があるようだ。
ザダール将軍が、エクスフィアに銃器を普及させなかったのは、力の独占を企んだからだろう。
しかし結果的には、彼のおかげでエクスフィアには、殺傷能力の高い殺戮兵器が溢れることがなかった。
エクスフィアの文化を破壊するような真似は、俺も控えるべきだと思う。
殺傷能力の高い銃器の使用は、人目に付かないところに限定しようと心に誓った。
( ╹▽╹ )〈明日も更新するよ!




