獣人族の双子
草原地帯二日目の朝。
夕飯に食べたツノシシの残りで朝食を済ませると、南進して来た俺は今日、コンパスを確認して西寄りの西南西を目指す。
歩き始めてしばらくすると、ツノシシやチンワームの群れに遭遇したが、ンラ砂漠にいるであろう獣人族を探すことを優先して、不要な戦闘を避ける。
「だがスライム、お前はべつだ」
スライムは、ツノシシやチンワームと違って単独行動しており、鈍足なので逃がすこともなければ、足元から襲ってくる触手にさえ注意すれば簡単に倒せる。
進行方向にスライムを発見したときは、躊躇わずに攻撃した。
斬る、バックステップ、斬る、バックステップを繰り返して、触手を伸ばせないほど弱ったところで、逆手に持ち換えたコンバットナイフで頭から両断する。
スライムだけを狩り続けると、日が暮れる頃には、5回ほどドッグタグが発光したので、能力限界の閾値を5回上回ったのだろう。
しかし俺は、スキルアップしなかった。
なぜなら安易に身体能力をスキルアップしないで、スライムから吸収した魔力を貯めておけば、表示される身体能力や取得魔法の項目が増えるからだ。
魔法使いになりたいわけではないが、どんな魔法が覚えられるのか、早いうちに確認しておきたかった。
「けっこう歩いたな」
俺は夕焼けの中、小高い丘に上ってカルディラの方向を確認するが、見渡す限りの草原で大穴は見えなかった。
村を出てから二日間、かなり遠くまで歩いたようだ。
◇◆◇
草原地帯三日目の午後。
相変わらずスライムだけを選んで狩っていた俺は、草原でツノシシの群れと戦っている少年と少女に出会った。
彼らは突進してくるツノシシに、少年が背丈の倍以上ある大太刀を振り下ろして両断、その後方で大弓を引いた少女が、後を追い掛けてくる二匹目の魔物を射る。
二人は、見事な連携攻撃でツノシシの群れを倒していた。
「二人とも凄いじゃないか」
近寄った俺が、倒したツノシシから毛皮と肉を剥いでいる二人に声を掛けると、彼らは『こんにちは』と、声を合わせて振り返る。
お互いに自己紹介すると、少年はヒノ・タマーノ、少女はクリル・タマーノ、聞けば双子の兄妹だった。
彼らが双子だと聞いて、先ほどの息の合った連携攻撃に頷く。
「お前たちは、カルディラの冒険者か?」
「いいえ。僕らは冒険者ではないし、カルディラには行商ついでに立寄っただけです」
彼らの容姿については、特筆すべきところがあった。
服装こそペルカや村人の来ていた民族衣装に似ていたが、猫のような耳が頭の上に付いており、腰の辺りから長い尻尾が生えている。
俺が声を掛けた理由は、倒したツノシシを解体していたヒノとクリルが、おそらく獣人族だと思ったからだ。
「冒険者でもないのに、ツノシシを狩っていたのか?」
ツノシシを倒すには、コツさえ掴めば冒険者でなくても狩れるし、魔物を倒すのが冒険者だけとも限らない。
しかし双子は、見事な連携攻撃でツノシシを倒していれば、ヒノの振り回していた大太刀が、素人の腕力で扱えるとも思えない。
「冒険者ではなくても、ツノシシくらい狩れますよ」
「その大太刀は、腕力Lvを上げなくても扱えるのか?」
「クリルが大弓を引いたり、僕が大太刀を振るには、腕力Lv10くらい必要ですね」
ヒノが、そう答えたので、二人のレベルを確認すると、ヒノLv28、クリルLv22と表示された。
冒険者ではなくても、ドッグタグとは別の方法でスキルアップすることが可能なのだろう。
そうであるなら今後は、ドッグタグを見せず『エクスフィアの英雄殺し』の称号は伏せておこうと思った。
「しかしレベル上げなら、ツノシシの群れより、スライムを一匹倒した方が効率が良いだろう?」
「私たちは、ンラ砂漠を渡るために食料を確保しているのです。ツノシシ狩りは、レベル上げが目的ではありません」
俺の命名した『ツノシシ』だが、双子にも万能翻訳魔法のおかげで伝わっているらしい。
俺がツノシシと認識している魔物の名前が、双子の兄妹が認識している魔物の名前に変換されているのだろう。
カルディラを追い出される前に、万能翻訳魔法を取得できて良かった。
「ヒノとクリルは、ンラ砂漠を渡ってソンゴまで行くのか?」
「いいえ。私たちの隊商は、ソンゴの隣にあるラファトに戻ります」
「ラファトは、僕ら獣人族の村なんだ」
双子の所属している隊商は、ソンゴで仕入れた品々をカルディラで卸して、故郷であるラファトへの帰路にあるらしい。
ここからラファトまでは、ンラ砂漠のオアシスなどを経由して十日ほど、そこからソンゴまでは、徒歩で三日程度で到着できると言うので、同行させてもらえないと聞いてみた。
「ススムも僕らと食料集めに協力するなら、ラファトまでの同行を許可するよ」
「お兄ちゃん、パパとママに確認しなくて大丈夫なの?」
「僕は、タマーノ商会の次期社長なんだぞ。僕の許可なら、パパもママも反対しないさ」
「次期社長って……家族経営のタマーノ商会には、身内しか従業員がいないのに大袈裟よ」
「ラファトの村に戻れば、クリルだって社長令嬢を気取っているだろう」
草原で大太刀や大弓を構えるヒノとクリルだが、タマーノ商会の次期社長と社長令嬢らしい。
タマーノ商会が、どれほどの隊商なのか解らないものの、俺は彼らと同行するために、狩りを手伝うことにした。
最新話まで読んでくれて有難うございます。
明日も頑張って更新します!
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