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魔弾のスナイパーは、敵の射程圏外から無双する。  作者: 幸一
■冒険者の集まる村カルディラ
10/47

追放される

 その夜。

 カルディラで冒険者登録する俺は、ペルカやザンザと同じ冒険者ギルドに加入することになり、毎週一回のクエストを受注することで、ギルド二階に個室が与えられるらしい。


「ギルドの宿泊施設は本来、最初のクエストを終えてから使用できるんだが、身寄りがないススムには、特別に今夜から使えるように手配してやったぞ!」


 ペルカの部屋に戻った俺のもとに、帰りを待ち構えていたザンザが乗り込んできた。

 ザンザは恩着せがましく言ったものの、俺とペルカが同室なのが気に入らないだけだろう。


「それは助かるよ」

「俺たちは、親友じゃねえか。困ったことがあれば、これからは親友の俺を頼りなよ」


 ザンザは、ペルカの前で親友、親友と連呼しているが、俺を出汁にして彼女に近付きたいだけだ。

 まあどちらにせよ、全裸で就寝するペルカと同室なのは、こちらの身が持たないので、個室を用意してもらえるのは有難い。


「俺は部屋の外で待っているから、荷物をまとめたならついてきな。部屋まで案内してやるぜ」

「ありがとう」


 ザンザが後ろ手にドアを閉めたので、俺はダッフルバックに荷物を詰め込むと、エクスフィアに異世界転移してから今まで、付きっきりで世話してくれたペルカに感謝を述べた。


「ススゥムは、命の恩人なのです。感謝するのは、私の方です」

「いや、俺はペルカと出会わなければ、森の魔物に襲われて死んでいたかもしれない」

「ススゥムと、お別れするのが寂しいです」

「部屋が変わるだけなのに、ちょっと大袈裟じゃないか?」


 俯いたペルカは、部屋を出ていく俺の袖を掴んで感傷的になっているが、今後も現地の協力者として働いてもらう予定だ。

 もしやペルカは、右も左も分からなかった俺が冒険者となり、言葉の不自由がなくなって部屋を出て行くのだから、お役御免で放り出されると考えているのだろうか。

 

「明日からも宜しく頼む」

「え?」

「ペルカが嫌でなければ、しばらく一緒に行動してほしい。ドワーフの村ソンゴまで旅するかもしれないので、ペルカが同行してくれたら嬉しい」


 ペルカは『はい!』と、明るい笑顔で答えた。

 ペルカの年頃は十代半ば、まだ少女であれば異性と感じることはない。

 しかし思わず俺は、ペルカの頭を抱き寄せて撫でる。

 なぜなら少しばかり離れるだけなのに、寂しげに俯いた少女を愛おしく思ったからだ。


「ススゥム?」

「明日、また会おう」


 俺は、突然の出来事にキョトンとしているペルカを部屋に残して、ザンザの待っている廊下に出た。

 そしてザンザは、フリッツヘルメットを被り、防刃機能のあるタクティカルジャケットを着込んだフル装備の俺を見て腕組みした。


「それがススムの武器と防具なのか?」

「ああ、そうだな」

「荷物は、それで全部だな」


 俺が頷くと、ザンザは黙って廊下の突き当りの階段を下りていく。

 俺の部屋は、一階に用意しているのだろうか。

 しかし階段を下りた先では、レムと初めて見る男が立っており、男が冒険者ギルドのギルド長ハイム・カイゼルだと紹介された。

 長身のハイムは、耳が長く色白の男で、一目見てエルフと解る特徴を兼ね備えている。

 エルフは年齢不詳だと言うので、ザンザより若く見えるハイムだが、見た目どおりの年齢ではないのだろう。


「君が、報告書にあった異世界人のトウドゥススムだね」


 ギルド長のハイムは、ペルカの提出した報告書を片手に聞いてきた。

 ザンザは部屋に案内してくれる様子がなければ、レムも沈痛な面持ちで俺を見ている。

 俺は、何かのトラブルに巻き込まれたようだ。


「東堂進は、俺のことだ」

「では申し訳ないが、当ギルドの加入を許可できない」

「俺が異世界人だから?」


 ハイムは首を横に振ると、場所を変えて説明するらしい。

 冒険者ギルド一階には、酒場とギルド職員の働く事務所があり、ハイムが手招きした部屋は、事務所の奥にあるギルド長室だった。

 ギルド長室には、正面に高い背凭れの肘掛け椅子と執務机が置かれており、俺とザンザ、レムの三人は向かい合って置かれたソファに座らされる。

 ギルド長室は、まるで校長室、どこぞの社長室の趣きがある。


「私はカルディラで長年、冒険者ギルドのギルド長を務めていれば、迷いの森から現れた異世界人に会ったことがある」

「俺の他にも、あの森から異世界転移してきた人間がいるのか?」

「そうだ」


 俺は『そいつは今、何処にいる?』と、ハイムに尋ねる。

 俺以外にもエクスフィアに転移してきた人間がいるなら、そいつは元の世界に戻る方法を知っているのではないか。


「彼は、もうエクスフィアにいない」

「エクスフィアにいない? 死んだのなら、もういないと答えるはずだ。俺より前に異世界転移した奴は、元の世界に戻ったということか?」

「それは、私にも解らない」

「しかしエクスフィアではない、何処かに転移した。そうなんだな」


 ソファから立上がった俺は、肘掛け椅子に腰を下ろしたハイムに詰め寄った。


「異世界人の男が現れたのは20年前、君と同じように冒険者になると、異世界から持ち込んだ武器を使って、急速にレベルアップした。彼の使用していた武器は、ボウガンのような武器だったが、威力も射程も桁違いの性能を誇っていた」


 先人の異世界人も、銃器を手にしていたのだろうか。


「そして彼の戦闘技術の高さやレベルが知れ渡ると、王都エクスフィアの騎士団に任官を命じられた」

「王都エクスフィア?」

「王都エクスフィアは、魔物を率いた魔族と対抗する全種族の中央政府が集まっている首都だ。彼は魔族との全面戦争のために、王都エクスフィアの騎士団長を任されたのだ」


 俺が身を引くと、ハイムは執務机に肘を置いて顎を乗せた。


「だから君のギルド加入を許可できないのは、異世界人が理由ではない。問題は、君の称号にある」


 武器屋ダイアンの店では、クレベールが王都エクスフィアからやってきた英雄が、迷いの森の遺跡『霧の塔』で消えたと言っていた。

 ハイムの話している王都エクスフィアの騎士団長が英雄と呼ばれていたなら、5年前に森で消えた英雄とは、20年前に異世界転移してきた男のことだろう。


「その男は、なんて呼ばれていたんだ?」


 俺の称号は『エクスフィアの英雄殺し』である。


「王都エクスフィアに間近まで迫っていた魔王の軍勢を退けた彼は、人々から『エクスフィアの英雄』と呼ばれていた」

「エクスフィアの英雄……つまり俺のギルド加入が許可されない理由は−−」

「君には、エクスフィアの英雄を殺した嫌疑がある」


 なんてことだ。

 俺は過去、テロリストやゲリラ組織の幹部を狙撃してきたが、彼らの中に異世界エクスフィアを救った英雄がいた。


「ま、まってくれ! 職業軍人の俺は、敵を殺すことだってある。俺の殺した連中にエクスフィアの英雄がいたかもしれないが、俺が狙撃したテロリストやゲリラ組織の幹部は、罪無き人々を身勝手な主義主張で殺すようなクズばかりだった」

「やはり君には、英雄を殺した心当たりがあるんだね」

「そいつの名前は?」

「彼の名前はアルマハ・ザダール、エクスフィア騎士団を率いるザダール将軍だ」

「俺の狙撃したザダール将軍が、エクスフィアで英雄と呼ばれていたのか」


 アルマハ・ザダール将軍は、南ア密林地帯を拠点に周辺のゲリラ組織を率いていれば、欧米諸国のテロリストにテロ行為を指示していた組織の最高指導者だ。

 ザダール将軍を狙撃した日、俺はエクスフィアに異世界転移したことには、どんな因縁があるのだろうか。

 しかし無辜の命を弄んだテロリストを排除して、英雄殺しの汚名を着せられるのはナンセンスだ。


「こちらの世界にも事情があれば、英雄を殺したなんて言われる筋合いがない! 俺が大量殺戮兵器の入手を画策していたザダール将軍を狙撃しなければ、数百万という人間が核攻撃により殺されていたんだ」


 ハイムに目配せされたザンザが、弁解する俺の肩を掴んでソファに座らせる。


「私が知る限り、彼は好戦的で野心家でもあった。元の世界に戻った彼が、英雄的な活動を続けていたのか知る由もない。しかし当ギルドでは『エクスフィアの英雄殺し』のススムを加入させられない」

「称号は、この先の行動で変化するんだよな?」

「私が危惧するのは、君の称号だけではないのだ」


 ハイムは一呼吸置いてから、俺のガンホルスターを指差した。


「私は先ほど、ザダール将軍が好戦的で野心家だったと言ったね。彼がエクスフィアに持ち込んだ武器は強く、同族や敵対する勢力に対しても容赦しなかった。エクスフィアの英雄は、魔族から王都エクスフィアを守った彼の称号に過ぎない」


 つまりザダール将軍は、エクスフィアでも、武力に物を言わせて権力を奪った悪党ではないか。


「俺が力に溺れて、ザダール将軍のような振舞いをすると考えているのか?」

「不敗を誇るザダール将軍を殺した君は、この世界にとって要注意人物なのだ」

「ここの連中は、面倒事に巻き込まれたくないんだな。だからハイムは、俺の加入を認めない」

「私には荷が重過ぎる」

「わかった」

「ススムの称号が広まれば、ザダール将軍を慕っていた中央政府の役人や、王都エクスフィアの騎士団に命を狙われることになるだろう。申し訳ないが、このままカルディラを出ていってくれないか」

「わかったよ!」


 ダッフルバックを手にした俺が、ギルド長室を出て行くと、後を追い掛けてきたザンザは、カルディラの坂道まで見送ると言った。


「部屋を用意すると嘯いたのは、ペルカの前で、俺に村を出ていけと言えなかったからか?」


 俺がザンザに聞くと、それもあるが、ペルカに事情を伏せた理由は、俺のためでもあると答えた。


「ペルカちゃんが、あの場に同席していたら、ススムと一緒にカルディラを出ていったかもしれない。そんなことになれば、ススムだって困っただろう?」

「そうだな、ペルカには世話になったし、これ以上の迷惑は掛けられない」

「ススムの強さなら、何処に行っても通用すると思うけどよ。称号が変わるまでは、なるべく村や街に立寄らず、草原のスライムでも狩って過ごすと良いぜ」

「スライムは食べられるのか?」

「あんなもの食う物好きはいねえよ。ススムでも、さすがに野宿は厳しいか?」

「いや、サバイバル訓練の成績は、常にトップクラスだった。野宿なら一年したって問題ない」


 坂道を上る途中、ザンザの自宅になっている横穴に寄り道した。

 ザンザからは数日分の水と食料、銀の棒貨5本を餞別にもらった。

 そして坂道を上りきった俺は、大穴から漏れるカルディラの村明かりが、夜の雲に照り返す草原をしばらく歩いた。


「さて、今日の寝床を確保するか」


 荷物を下ろした俺は、手頃な枝を二本立てると、そこにギリースーツを渡して簡易テントを張る。

 野生動物から姿を隠すには心許ないが、ザンザの話では、村の周囲に人を襲うような魔物や動物がいないらしいので、夜風や雨露を凌ぐだけなら十分だろう。


「しかし長い一日だった」


 草地に仰向けになると、カルディラでの出来事が、まるで数日間のように感じた。

 こうして俺は行く当てもないまま、たった一日の滞在で、冒険者の集まる村カルディラを追い出されたのである。

本当に長い一日でした……


(*´ω`*)〈また明日も読んでね

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