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エピローグ 後編

残酷描写あります。

「兵の配置が終わりました」


「ご苦労」


 兵がランドルフに布陣の完了を報告する。

 城は幾重にも渡り包囲され、最早脱出する事は不可能。

 完全に袋のネズミ、10年前に母がされたのと同じ様に。



「そろそろ討って出るかな?」


「いいえ、奴等にそんな闘志は無いわ。

 城内で怯えながら手を考えているでしょう」


 包囲して2日が経った。

 我々は城壁を目前にして布陣しているにも関わらず、矢の一本すら飛んで来ない。

 城門は固く閉ざされ沈黙していた。


「いつまで持つかな?」


「アヌラの援軍を待っているんでしょう、来る筈ないのに」


「馬鹿共が...」


 ランドルフが吐き捨てる。

 いくら神聖サザーランドがアヌラの傀儡とはいえ、内乱でボロボロになった国を助ける為に兵を派遣する訳が無い。


「アヌラも今それどころじゃないか」


「まあね、アヌラを含め周りの国全部...」


「報告します!」


 一人の兵が私達の前に駆け付ける。

 どうやらお着きになられた様だ。


「国王陛下とシルビア様御一行がお着きになられました」


「ありがとう]


「うむ、直ぐに行く」


 私達は陣を離れ、陛下達が待つ場へ向かった。


「「陛下!」」


「ご苦労である」


 ランドルフと私を見ると陛下は微笑まれた。


「まだ落ちませんか」


 隣に居たシルビア様が城に目を遣る。

 シルビア様にとって26年振りに見るスクリット城、どんな気持ちでおられるのだろう。


「兄上!」


「おお、ユーラ来たか」


「はい!」


 シルビア様の後ろから一人の男児が飛び出した。

 彼はユーラ、シルビア様がお産みになった第5王子で今年9歳になる。


 長く子に恵まれなかったシルビア様。

 10年前、私達がハムナ王国に戻り間もなく妊娠が分かった。


「うむ、ユーラはさすがシルビアの子だ。

 見事な初陣だったぞ」


「...そんな」


 国王陛下がユーラの頭に手を置き微笑む。

 末っ子のユーラが可愛いのだ。


「それでアヌラは?」


「軽く叩きのめしたら、あっさり認めおった」


「ええ、サザーランド王国乗っ取りの企みに関与した王族達を差し出したわ」


「そうですか」


 陛下とシルビア様の言葉。

 今回、陛下とシルビア様達は私達と別にアヌラ王国と近隣の国を攻めた。

 強大なハムナ王国には敵わないと判断したのだろう。


「30年前から始まった謀略か」


「それにあっさり掛かった愚王」


 アヌラ王国はサザーランド王国を滅ぼす為、サザーランド王国の一部貴族と計り謀略を巡らした。

 愚かな国王はまんまと罠に掛かり、サザーランド王国は滅びた。


「さて、奴等はどう出るかな?」


 国王陛下は再び城に視線をやる。

 先程使者を送ったそうだ。


[投降するなら命は助ける、しかし一部の者を除く]と。


 誰を除くかは明記しなかった。

 おそらく城内は疑心暗鬼となって今頃大混乱だろう。


「陛下、城内より特使が」


「通せ」


 特使が現れたと連絡を受けたのは、その日の夕方だった。

 あまりに早い、それだけ追い詰められていたのか。


「こちらに」


「はい」


 会談の場に現れた特使は総勢20人程、皆窶れ果て酷い顔色をしていた。


「この度は...」

「待て、まずお前達はこいつらと話をしてからだ」


 特使の言葉を遮り国王陛下は合図を送る。

 天幕の中に縛り上げられた数名の男達が連行されてきた。


「これは」


 縛り上げられ、猿轡をされた男達を見た特使の顔色が真っ青に変わる。

 当然だ、こいつらはサザーランド王国の乗っ取りに関与したアヌラ王国の王族。

 そして特使はそれを提案した貴族なのだから。


「この者達からなかなか興味深い話を聞かせて貰った、何か言いたい事はあるか?」


 陛下は特使を睨みつけた。


「わ、私達は騙されたのです!」


「そうです、サザーランド王国を救うと言われ!」


 見苦しく言い訳をする連中。

 こんな奴等に母上と父上は...


「そうか、お前達は騙されたのだな」


「そうです!」


「殺してやりたい位だ!」


 特使達は口々にアヌラの連中を罵った。


「それならば、この場でこの者を斬れ」


「は?」


「何と?」


 陛下の言葉に特使達は呆気に取られている。


「斬れと言ったのだ、こいつらにお前達は騙されたのであろう?」


 陛下は傍らから一振の剣を奴等に差し出した。


「分かりました」


「よし外に出よ」


 剣を受け取った特使達を連れ会場外に。

 縛り上げられたアヌラの関係者は激しく身を捩る。


「お前達で押さえつけよ、我々は何も手助けはせぬ」


「は、はい!」


 陛下の言葉に特使達は奴等を押さえつけ...

 とても見てはいられない光景。

 剣をろくに振った事が無かったのだろう。


 滅茶苦茶に斬りつけられ暴れる男。

 酷く見苦しい。


「ランドルフ!」


「は!」


 陛下の声にランドルフが進み出た。


「退け!」


 特使を蹴り飛ばし、彼は剣を抜いた。


「あの剣は?」


 いつも彼が愛用している剣では無い。

 どこかで見た...まさか?


「終わりました」


「うむ」


 瞬く間に処断は終わった。

 素晴らしい腕、やはり彼は強い。

 10年間彼に鍛えて貰い、私は健康な身体を手に入れた。


「さて最後だが、この者に見覚えはあるか?」


 息も絶え絶えの特使達に陛下がシルビア様を指差した。


「え?」


「まさか貴女は?」


 シルビア様を見詰めていた特使達の目が大きく見開いた。


「シルビアです、お久しぶりですね」


「ああ、シルビア様!」


「私達をお助けに!」


 返り血に染まった服で特使達はシルビア様の元に駆け寄り私の我慢は限界を越えた。


「痴れ者共が!」


 特使達を蹴り上げる。

 もう無理だった!

 こいつら母上と父上を!!


「ユーラシア!」


 シルビア様の一喝で我に返る。

 危うく、そのまま蹴り殺す所だった。


「ユーラシア?...」


「まさかマリアンヌの?」


「...生きてたのか」


 私を見る特使達に激しい怯えが。

 こいつらがした事、それを知られたらと考えているのだろう。


「ええ、ユーラシアです。

 お前達によって豚の餌にされたマリアンヌとユーリの娘...」


 10年前、母上と父上の遺体はアヌラ王国兵によってサザーランドに運ばれた。

 こいつらはアヌラに忠誠を誓うと叫び、遺体を切り刻み家畜の...


「ユーラシア」


「ありがとう」


 ランドルフから剣を受け取る。

 やはり間違いない、これは母上の剣。

 おそらくアヌラ王国に持ち去られていたのを陛下が取り戻したのだろう。

 頬の傷跡が...




「ありがとうございました」


 全てが終わったのだ。

 脱力感が私を包む。


「うむ」


「ありがとうユーラシア」


「見事だったぞ」


「素晴らしいです姉上!」


 皆が私を労う。

 しかし心に大きな穴が出来たのを感じていた。


 あれから3日が過ぎた。

 私は城から少し外れた空き地に立っていた。


「こんな所に出るのね」


 10年前に母上達と脱出に使ったあの抜け穴から静かにスクリット城を見上げる。


 復讐を終えた私はこれからどうして生きていこう?

『このままハムナ王国のお世話に?』

 いやシルビア様に甘えててはいけない。


『陛下にお願いしてサザーランド王国を復興?』

 ...どうしてだろう、それが一番な筈なのに。


「離れたくない」


 離れたくないんだ!

 ハムナ王国を、彼の傍を!


「ユーラシア」


「ランドルフ」


 いつの間にかランドルフは私の後ろに立っていた。

 また私を見張ってたのかな?


「俺と結婚してくれ」


「な!」


 ランドルフの言葉に頭が真っ白になり、足元から崩れ落ちた。


「ユーラシア!」


 彼は私を強く抱き締めた。10年前の様に。


「陛下がお許しにならないわ、貴方は第一王子よ」


「父上と母上の許可は貰っている。

 ユーラシアが気にするなら王位継承権は返上しても構わない」


 サラッと、とんでもない事を言うね。


「でもサザーランド王国は....」


「ユーラが継ぐ、シルビア様が後見となってな」


「そうなの?」


 いつの間にそんな事決めてたの?


「こんな傷のある女よ」


「その傷は誇りだろ?

 俺はそんなユーラシアが大好きなんだ」


 頬の傷跡を撫でながら真っ赤な顔で私を見つめるランドルフ。

 いつも武骨な表情しか見せないのに...


「ありがとう....私も愛してます」


『....おめでとうユーラシア』


 激しく抱き合う私の頭に優しい母上と父上の姿と、懐かしい声が聞こえた気がした。



ありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[一言] 大団円。だがビター。
[良い点] 強烈で華々しい匂いや味の主張はないけれど、雑味のない、しみ通る天然水の味わいの作品です。 傷のある顔も含めてユーラシアのすべてを愛するランドルフはいい男だ。 忙しい中での執筆、ありがとうご…
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