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後編

「ユーラシアどうして...」


 マリアンヌの言葉が続かないところをみると、娘の父親が俺だった事は話して無かったって事か。

 まあユーラシアが俺の子供だった事は、俺も今まで知らなかった訳だし。


 身に覚えがあるかって聞かれたら?

 あるにはある。

 ランブリード(国王)は気づかなかっただろうな、あれは結婚式前夜の事だったし。


 俺がマリアンヌの婚約者で既にそういう関係だった事は奴も知っていただろうから。

 俺は前国王に追放されちまったが。


「父上...」


 娘は潤んだ瞳で俺にしがみつく。

 見上げるその顔はマリアンヌと俺に似ていた。


「どうして俺が父親だと?」


 我ながら情けない質問だ。

 マリアンヌが話したのじゃ無かったら何故ユーラシアが自分の出生を知ったのか気になる。


ランブリード(国王)には私以外に子供が居ませんでした。

 あれ程たくさんの妾を囲いながらも、それなのにお母様から私だけ産まれたなんて...」


「成る程」


 ランブリードは無類の女狂いだった。

 王国内だけで飽きたらず、他国に美しい女が居ると聞きつければ直ぐに拐う事を繰り返していた。


 見境無くだ。

 例え女に恋人や亭主が居ても...

 それが王国の衰退と恨みを買い今の現状を招いた一因だろう。


「ユーラシア、貴女の父はそこに居るユーリ・ハルナムよ」


「はい...」


 なにやら盛り上がって来ちまったが、俺達は感動の父娘対面に浸っている場合じゃない。

 これは困った事になった。

 それはユーラシアと初めて会った瞬間から感じていた事だ。


「マリアンヌ、ユーラシアは馬に乗れるか?」


「いいえ昔から体が弱くって」


「ごめんなさい...」


 やはりか。

 小柄な身体、白磁の様な肌、何よりその細い腕と指先は馬の手綱など握った事が無いだろう。


 お転婆で幼少から野山を駆け巡っていたマリアンヌの娘とは思えんな。


「この子の療養も兼ねて長く辺境に居たからね。

 ところでユーリ、貴方失礼な事考えてない?」


「分かるか?」


「そりゃ分かるわよ、幼馴染みですから」


「さすがは最高の軍師だな」


「最高の軍師ならこんな事にならないわよ」


 マリアンヌとのやり取りをユーラシアは嬉しそうに見ているが、そんなに楽しいか?


「お母様のこんな笑顔初めて見ました」


「そう?」


「はい、辺境の地で半ば幽閉状態でしたから」


「まあ、そうかも」


「幽閉?」


「私が10年前に娘と王都を出ると、いきなりバカ(ランブリード)が帰る事を禁じたの。

 王命でね」


「そうだったのか、知らなかった」


「仕方ないわ、ユーリは追放されてたでしょ」


「確かに」


 王国を追放された俺は暗殺者に命を狙われ世界中を転々としていた。

 暗殺者は全て始末した、誰の依頼か聞き出した上で。


「とことん糞野郎(ランブリード)だったな」


「ええ、アイツだけじゃなく私の父もね。

 ユーリは二回も裏切られた訳だし」


「まあな」


 シルビアの事か。


「どうやって私と娘を逃がすつもりだったの?」


 マリアンヌは表情を引き締める。


「この部屋にある抜け穴を使って城外に出るつもりだった」


「あの抜け穴?」


 マリアンヌは壁の隅を指差した。


「そうだ、16年前に俺がこの部屋から逃げた時に使ったな」


「お父様が何故?」


「....まあ色々とな」


「その話は後にしなさい」


 ユーラシアの質問には答えられない。

 その時の結果がここに居るのだから。


「外に馬を隠してるんだが、まあこの作戦はボツだな」


 疾走する馬での強行突破は不可能だ。

 ユーラシアの身体を紐で括ったら?

 無理だ、全く馬に乗った事の無い人間が長く耐えれる訳が無い。


「...糞」


 包囲網は幾重にも渡っている。

 これは潜入する時に見てきた。

 とてもじゃないが徒歩では見つかってしまう。


「後どれくらいで姉さんは着くの?」


「後2日だ、しかし城が」


「持ちこたえられないでしょうね」


「ああ」


(娘が、ユーラシアが俺の娘じゃ無かったらマリアンヌだけでも...)

 糞、こんな時に俺は一体何を考えている!


「私行きます」


「ユーラシア?」


「何を?」


「私行きます、御願いします。

 こうしてお父様と会えたんです。

 例え殺されても思い残す事はありません」


 強い決意を秘めた目、やはりマリアンヌの娘だ。

 こうと決めたら絶対に曲げないのは母譲りか。


「分かった、賭けてみるか」


「そうね」


 俺達は抜け穴を潜り抜け城外に出た。

 幸いにも馬は敵兵達に見つかっていなかった。


「よし」


 マリアンヌとユーラシアをしっかりと紐で括りつけ俺達は2頭の馬で駆け出す。

 深夜の暗闇だが構わず行こう。


 辺りは何も見えない、

 後ろから聞こえるマリアンヌ達の乗る蹄の音が遠ざからない様に調整しながら馬を走らせた。


「大丈夫か」


「はい」


「ええ」


 夜が明けてきた。

 マリアンヌ達の馬に並ぶ。

 やはり2人乗りは体力の消耗が激しい。

 ユーラシアはもちろん、マリアンヌの顔にも疲労の色が浮かんでいた。


「少し休むか」


「...まだ...行けるわ」


 更に馬を走らせ、草原を抜けた辺りで再び声を掛けた。

 気丈な言葉だが、2人の体力は限界を越えている。

 マリアンヌ達は馬から崩れ落ちそうだ。


「駄目だ、休憩するぞ。

 馬から落ちたらその場でお仕舞いなんだぞ」


「....分かった」


 俺の言葉にマリアンヌはうなづいた。

 ユーラシアは最早声さえ出せない様だ。


「ふう」


 岩陰で馬を止め、2人を降ろす。

 差し出した手にマリアンヌ達は崩落ちる様に身体を預けた。


「少しでもいいから寝ろ。

 体を休ませるんだ」


「...うん」


 2人を括っていた紐を解き、横にさせると直ぐに静かな寝息が。

 懐かしい寝顔、俺とマリアンヌそしてシルビアの3人で野山を駆け回った記憶が甦る。


「マリアンヌ...娘頼んだぞ。

 ユーラシア幸せにな」


 2人の頬を優しく撫でると視界が僅かに歪んだ。


「あの辺りか」


 一人馬に跨がり辺りを見渡す。

 視線の先に僅かな人の気配、おそらく追っ手だろう。

 まあ簡単に撒けるとは思って無かったが。


「サザーランド王国ユーリ・ハルナムだ!」


 大声で叫ぶ。

 奴等には充分聞こえただろう。


「俺を討って手柄にせよ!」


 叫びながら馬を走らせる。

 時間だ、少しでも時間を稼がなくては。


「意外と多いな」


 現れた敵は50人位か、これは不味い。

 10人位なら...愚痴っても仕方ない。


「来い!!」


 単騎、敵の中に飛び込み先頭に居る兵の脇を斬り抜ける。

 囲まれては時間が稼げない。


 馬が倒れても、体力が続く限り走り回った。


 どれくらい戦っただろう?

 もう頭が働かない、手足の感覚も。

 右腕な...さっき落ちたっけ?

 痛みが無いな、まあ良い。


「次は誰だ?」


 敵は遠巻きに俺を見る。

 周りには30人を越える死体。

 一斉に矢を射っていれば簡単に、間違いなく殺せたのに。

 一騎討ちに拘るからこうなるんだ。


「グッ!」


 背中に衝撃を受け振り返ると槍が、どうやらこれまでか...


「やれ!」


 その声に残った敵が一斉に飛び掛かって来た。


「マリアンヌ...」


「ユーリ!!」


「え?」


 今の叫び声は?まさか?

 僅かに目を開けると全身を血に染めたマリアンヌが笑っていた。


「馬鹿ね、一人では逝かせないから」


「そうか...」


 ユーラシアはどうなったんだろう?

 もう俺の口から言葉が出ない。


「せめて死ぬ時くらいは...ね?」


 優しく微笑むマリアンヌを見つめながら...


 俺も微笑みを浮かべた。



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― 新着の感想 ―
[一言] ある意味、作者さんの持ち味のエンドですね。 娘さんは、シルビアさんの援軍に助けられかな。
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