雨降る夜の出発
圧倒的に文字数が少ないギリギリ掌編小説です。こういうシチュエーション好きなので書いてみました。
太陽が隠れて月が顔を出す夜ではあったが、
今日の月はその輝きを見せてはくれなかった。
雨雲が空を覆って、普段よりも暗い。
心細くなりそうな冷たい雨粒が、
地を叩きつけるように降り続けている。
だがそんな雨を気にもせず、
男は思わずこう言った。
「本当にいいのか?」
最終確認をするように、
隣に立っている少女に問う。
それでも愚問だと言わんばかりの表情で、
同じく傘も持たない少女は隣の男にこう返した。
「いいの。居心地が良すぎるから。
この町も皆も。だからいいんだよ、これで」
そう言いながら微笑んだ少女の表情は、
今夜の天気に似合わないくらい晴れ晴れとしていた。
その表情は迷いなどを微塵も感じさせない。
だからこそ男はこれ以上何も言わず、
少女と肩を並べて歩いていく。
少女の足取りは軽く、
やはり後悔はしていないようだった。
お読みいただきありがとうございました。