101.神様
―――――
「人は体力を回復したり、脳を休めたりするために眠っているのが定説だったが、クラゲなどの脳がない生物にも睡眠が認められる実験結果がある」
「眠っている間は無防備で、人生の3分の1は睡眠、非常に無駄な時間であります」
「そして昨今、イカが遺伝暗号を自らの手で編集し、環境に適した進化をしている研究があります」
「何が言いたいかって?夢で得た経験や夢の中で働きかけることにより自分の体を変化させる人類、そんなことが可能になる日もそう遠くないのです」
―――――
明子は寝起きの二人を椅子に座らせて、飲み物を差し出す。
少し嫌な顔をした南に微笑み
「これには何も入ってないよ」
と嬉しくない一言を付け加えた。
「どこまで覚えている?」
明子が話すとたまらず松本が早口で話す。
「何かには会いました。南と実さんがいたような」
「ふーん」
明子は実のほうを見る。
「私のほうはからっきし。なーんにも覚えていません」
実と明子はゆっくりと南を見る。
「ぜ・・・全部覚えているの僕だけですか」
明子は手を叩き大笑いし、隣の部屋のおそらく真に向けて手招きする。
―――――
「なーんか博士、人類の次の進化は睡眠の克服だ!なんて変な話してましたね」
「あれぐらいがわかりやすくていいだろ?建前上、研究結果はそれなりに発表しないといけないからな、がっはっは」
「まぁ確かにいきなり不老不死だのなんだのってぶっ飛んでますからね」
「死にたくない金持ちは多いからな、あわよくば一番乗りしてその世界を牛耳りたいから開発を急げってやかましい奴らばっかよ」
―――――
「私と私の父は、この夢の中で意識を保てる不思議な空間の研究を続けてきた」
「寝ている脳波を解析したり、データに起こしてコンピューター内で再現したり」
「で。つい最近出来上がってしまったわけ。脳をコンピューターに移植するトレス、住む世界はVR技術で培ってきたノウハウが生きて、移した脳の体のほうは成長したりリセットしたり、どちらにしても現状を維持するためにデータをいくつかのサーバーで、そうそうブロックチェーンみたいなもんでさ、で。デジタルの中に入ると奥行きがないってことで、それならサーバーを真ん中に1つ、上下に1つずつ、前後に1つずつで互いの距離感を計算して、真ん中に戻す感じで」
明子がペラペラと喋るが、珍しく松本が先に眠ってしまう。
「明子先生、その。難しすぎてよくわからなさすぎて眠くなりません!」
「独我論の話でさ、私が見ている前は世界があるけど、見ていない後ろは世界が存在しないのか。鏡を使うと鏡に映っている後ろはあるけれど、注目していない前の見ていない部分は存在していない、でも体は360度何かを感じていて私はここに存在するって感じるじゃん?それをデジタルで再現するためにさ」
ウキウキ体を左右に揺すりながら明子は話す。見かねた実が南に話しかける。
「この村での明子さんとそのお父さんの夢の体験がココロを体から引き離す研究につながっていって・・・・」
南が実の肩を叩く。
「・・・でも。うん。なんとなく凄い研究があって人間をコンピューターに入れられるのはわかりました。でもあのゴキブリちゃんは一体」
明子は南を見て笑う。
「あれがゴキブリに見えるなんてな、あれはアレだよ。神様だよ」
「神様?!」
「あー、中間管・・・理・・職?まぁ我々人間がこれ以上進化しないように止めにきてんじゃね?この村を見たらわかるっしょ。愛情込めて病気にもならないよう捨てられずに育てられたことが、でも。愛情込めた家畜が急に自分たちの言葉を話し出したり、自分たちと同じ技術を持ち始めたりしたら、自分が育ててる側だと不気味じゃね?」
実が止めに入る。
「明子さん、ちょっと歪んだ解釈をしすぎです。私たちは・・・」
「私たちは神に選ばれた民族、他の者は不幸になろうとどうでもよいと?」
「そんなことは言ってません」
見慣れた短パンに着替え終えた真がふらふらとやってくる。
「南ちゃんあれだ、飢餓や病気をもたらす悪い神様を退治しに死後の世界へ兵隊を連れていく神殺し、神の声を聞いて人を幸せに導く神の代行。そんなものはいない、我々が神になるんだという神の否定。いないなら人工知能で神様を作っちゃえ、怒ってくる神様なんていねーし・・・とうまくいったかは知らんがそうやって神と人間の歴史は続いてきた。最後に待つのは何だと思うにん?」
南は小さい声で呟く。
「全部、まとめてする」




