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逃げろヒロイン

ヒロイン、疲労困憊!

作者: 笛伊豆

転生して乙女ゲームかなと思っていたら違ったみたいで。

「私はライセス侯爵令嬢ロザリアとの婚約を破棄する!」


 私を腕に抱え込んだまま高らかに叫ぶマクシミリアン王太子殿下の横顔を見上げながら溜息をつく。


 ああ、やってしまった。


 もうちょっとTPOを考えて欲しかった。


 でも駄目だ。


 王太子殿下は即決の人。


 意気盛んで情熱に溢れる。


 そんな人だから、まずは王妃殿下に相談して国王陛下に上奏して、という手順を踏めなかったんだろう。


 もっともそんなことをしたらすべてが手遅れになってしまうから、学園の卒業パーティでいきなりという方法も間違ってはいないと思うのだけど。


 でも私を巻き込まないで欲しかった(泣)。


「逃がさないよ? マリー」


 王太子殿下が金の巻き毛の奥で輝く紫色の瞳を私に流してくる。


 さいですか。


 もういいです。


 お好きなようにして下さい。


「これはどういうことだ、マクシミリアン」


 お声がかかった。


 我がライルネン王国の至尊の御方である国王陛下。


 王太子殿下のお父上だ。


 マクシミリアン殿下と違って髪の色こそ濃い茶色であるものの、お顔付きはそっくりだった。


 いやもちろんマクシミリアン殿下の方が国王陛下に似ているんだけど。


 ちなみに殿下の金髪は王妃殿下の遺伝だ。


 今も国王陛下の後ろで呆れたように微笑んでいらっしゃる。


 カカワリアイになりたくなさそうですね。


 別にいいですけど。


「もちろん婚約破棄です。ライセス侯爵も了解済みです」


 堂々と言ってのける王太子殿下。


 侯爵には相談したのに陛下(ちちおや)には秘密ですか(泣)。


「なに……ライセスはそれで良いのか」


 振り返って尋ねる国王陛下。


 ずっと後ろに控えていた立派な風采の大貴族が頭を下げた。


「御意。ロザリアはその罪により侯爵家から追放済みです」


 何の罪なんだろう。


 今となってはよそ事ながら気になる。


 まあどうでもいいけど。


「……そうか。よかろう。その婚約破棄、認めよう」


 いいんですか!


 私は恐る恐る周囲を見回した。


 広いホールは学園の卒業生やその父兄でぎっしりだ。


 この学園はライルネン王国に唯一存在する貴族専用の教育機関。


 学生は王族および貴族の子弟のみ。


 必然的にその父兄も貴族だ。


 平民はいない。


 今までは。


「陛下。ありがとうございます。婚約破棄がなった以上、私は自由の身だ! よって私は今ここに宣言する! 平民であるマリーと婚約する!」


 言っちゃったよこの王太子(ひと)


 なんでいきなりそこに飛ぶのよ!


 ブレーキはないの?


「マクシミリアン」


 陛下が頭を抱えた。


 やっぱそうですよね。


 隣に立っている物凄く立派な装束の初老の方が血相を変えているけどいいの?


 その人、強大な隣国の支配者なのでは。


「陛下、どうかご許可を!」


 叫ぶマクシミリアン王太子殿下。


 陛下は頭を抱えるだけ。


「ならん! ならんぞ!」


 代わりに叫んだのは陛下の隣の人だった。


 この人も陛下だったっけ。


 ラルツ帝国の皇帝陛下。


 私は一度会ったことがあるけど強烈すぎる出会いだった。


 正直、怖い。


「クールズ皇帝陛下」


 マクシミリアン殿下もさすがに礼を取る。


「マクシミリアンとか言ったか! 御身はこの国の王太子たる身で何と軽率な!」


 怒る皇帝陛下。


 だがマクシミリアン殿下は怯むどころか堂々と叫んだ。


「私はこの国の次期国王です! その私が選んだマリーこそが王妃に相応しい! なにとぞお許しを!」


 そんなマクシミリアン殿下に掴み掛かる皇帝陛下。


「ならんぞ! ようやっと見つけたわしの可愛いマルリアンをこんなに早く奪われてなるものか!」


 私を間に挟んでもみ合う王太子殿下と皇帝陛下。


 洗濯機に放り込まれた下着みたいな気分で私は思った。


 私こそがライルネン王国ライセス侯爵令嬢にして王太子殿下の婚約者であるロザリア、

にして実は王都の孤児院で育って訳あって侯爵家に引き取られた捨て子で幼少名マリー、

にして実は赤ん坊の頃に隣国である帝国のお家騒動に巻き込まれて誘拐されたマルリアン皇女殿下だったりして。


 マルリアン皇女殿下は現皇帝陛下の孫で、今のところ帝国皇太子殿下に次ぐ皇位継承権第二位だそうである。


 それは連れて帰りたいよね。


 私が侯爵令嬢のままだったら帝国と王国の政治的取引によって間違いなく婚約解消の上この身は帝国に引き取られる。


 だからマクシミリアン殿下は侯爵令嬢である私と婚約破棄した上で侯爵家から追放された平民である私と婚約すると。


 自国民をどうしようが王家の勝手だし、帝国は王国の平民には手を出せない。


 でもね殿下。


 私、疲れました(泣)。


 転生したことに気がついた時には孤児院にいて、とりあえず環境改善のためにささやかな知識チートでお金を儲けたり衛生概念を広めてみんなを健康にしたり色々な遊びを導入したりしていたら聖女とか呼ばれて侯爵家の養子にされて。


 その時点で乙女ゲームじゃないかと疑ったんだけど設定にも名前にも覚えがなくて安心していたら王太子の婚約者にされて。


 学園に通わされたから悪役令嬢なんじゃないかと思ったけどヒロインが現れなくて。


 このままかなーと思っていたら帝国から使者が来て。


 転生者でヒロインで悪役令嬢で隣国の貴顕ってひとりで何役なの?

突然書きたくなって設定もストーリーも未定のまま書き殴ったら完成しました。

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― 新着の感想 ―
[一言] 変装しての1人複数役なら上手く誘導すれば好きなルート行ける可能性も有りそうだけど、全部が1人だと知られてたらメンドクサイな… 少なくとも王太子と貴族令嬢の身分を剥奪された平民の婚約は不可能だ…
[一言] 王太子とこの国、最低だな。 そこにヒロインの意志も、彼女の家族の意志も、全部無視で王太子の欲望一直線。 国際関係すら無視して、ご都合主義の自国法を盾に取る傲慢な連中ですね。 ざまぁされるべ…
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