表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
-Reality- 〜盗賊から始めるデスゲーム〜  作者: 座間 黒
第1章 ー絶望と光明ー
9/9

〜意志〜





 俺は取り乱し、呼吸が荒くなる。



「カナ……ちゃん?」

「クソッどうなってんだよ!」

「何!?なんなの!?」


 紗凪、健、ヒナも状況を理解出来ているはずもなく――。心が、闇に包まれる。



「みんな落ち着いて!パーティーリーダーはカナのままになってる!それに光になって消えてない!多分スキルの使いすぎだ!」



 確かにそうだ、死んだら光の粒子となって消えるはずだ。俺は武器も構えずに前線に倒れているカナに近寄る。


 息はある、確かに生きている様だった。


 だが、顔を上げると目に入ったのはスケルトンが獲物である、おそらく骨で作られているであろう事が分かる、ゴツゴツとした剣を、振り下ろす瞬間だった。

 俺はカナを守る様にぎゅっと、強く抱きしめ目を瞑る。



「【2段突き】!エイ後ろに下がってろ!やるしかない!!」



 俺は健に守られながら、カナを担ぎ後方に下がる。



「そうだ!やるしかない!ヒナは【神聖陣】を!」


 聡太は指示しながら火矢で確実に射抜く。

 ヒナの神聖陣は少しずつ傷を癒す回復魔法だ。ヒナが築いた神聖陣の上に、カナをゆっくりと寝かせる。



「【覇気】」「【精神統一】」



 健と紗凪が自己強化系のスキルを掛け、薄く紅い光が纏わりつきそのままスケルトンの群の中に突っ込んで行く。ヒナは【呪術】で敵の動きを鈍らせ援護をしていた。


 ヒナは無事だった、なぜ俺は動かない。俺もやらなきゃ、皆に任せっきりじゃダメだ。


 震える脚を叩き、覚悟を決める。


「【隠密】」


 このスキルは味方からも見えなくなってしまうが、問題ない。俺達パーティーメンバーの頭上には、各々のプレイヤーネームが白い文字で表示されている。

 健と紗凪はスキルを駆使して相当数のスケルトンを倒しているが、数はまだまだ多い。



「健さん!一旦下がって!」



 俺が踏み出した一歩目で紗凪の叫びが聞こえる。

 踏みとどまり健が退くのを見届けた後、前を見ると紗凪が納刀し棒立ちの状態になる。スケルトンに判断能力があるのかは分からないが、ここぞとばかりに紗凪を取り囲み襲いかかる。

 不可解な行動に鼓動が早まり、冷や汗が流れる。



――【千本桜】



 紗凪の様子は見えない、だが。ヒュッと言う空気を斬るような音が幾重(いくえ)にも連なり、かなり広範囲で周囲のスケルトンがバラバラに崩れ落ち光の粒子となって消えて行き、ピッピッというレベルアップ音と共に背後の壁が崩れて行く。



「紗凪ちゃん!身体は大丈夫か?あんまり無茶するなよ、でも超強えぇスキルじゃん!助かったわ!ありがとうな!」


「う、うん。私もここまで強いとは思ってなかったんだけどね……へへっ」



 健の言葉に紗凪は少し照れながら微笑む。


 その光景を見てなんとも言えない気持ちが渦巻く。



「よし、僕がカナを背負うから一旦街へ戻ろう!」



 ヒナの神聖陣のおかげか、カナの顔色は心なしか良くなっている気がする。聡太の提案に皆で頷き、街へ歩き出す。


 健がヒナの肩を叩きながら「よし!帰ろ〜帰ろ〜!」と明るく言うのに対して「そうね」と、ヒナは冷たい態度で(あし)らう。その光景を見て、あっちも色々ありそうだ。などとくだらないことを考える。だが。



 俺は――、今回何も出来なかった。カナが死んだと思って取り乱した挙句、その後もなんの役にも立てなかった。



 もうこんな想いはしたくないと、強く、

強く願った。






ーーーーーーーーーー



 その日の夜、俺が布団へ入り、今にもその重い瞼が落ちそうな瞬間。ドンドンッと扉を叩く音がした。


 誰だ?こんな時間に……。

 現在時刻は深夜1時である。今日あったことを考えていてなかなか寝付けなかった瞼がようやく閉じようとした時の来訪者に、少しながら気怠(けだる)さを感じつつも扉を開ける。



「よっ!ゴメンね〜こんな時間に。

――ちょっといいかな……」



 そこに居たのはなにやら思い詰めた顔をしたカナだった。

 突然の来訪者を俺は受け入れ、中へ案内する。


(えい)はさ……。このゲームについてどう思う?私は、色々考えたんだけど。危険を(おか)してまでゲームクリアを目指す必要は無いって思うんだよね。生きるのに必要な分だけ、そこら辺のゴブリンでも狩って暮らしていけばいいって……」


 何故聡太では無く俺に相談したのか疑問に思いつつも、今はそんな事はどうでもいいと考え直す。


 暫くの間の後、俺は辿々しくもこう答えた。



「カナのいってる事は理解できるし、それが正解なのかもしれない……。でも、俺は決めたんだ――。俺は今まで、何一つ努力をしてこなかった。本気で努力して、結果が出るのが怖かったから。逃げてたんだよ、周りからも、自分からも。だから俺はもう……」




――俺はもう、逃げない。




「うん、知ってた。影の気持ち知ってて相談したんだ、私。今日の朝、最初はびっくりして逃げちゃったけど。その後、紗凪の話してた時の目、見たら分かった。聡太とも話してたんだよ?「影、本気になったね」って、「影が本気になったらこっちのもんだね」

って。こんな時間に変な事言ってごめんね。今日足引っ張っちゃったから、ただ、背中を押して欲しくて」



 カナは言い終えると「明日からは頑張らなきゃ!お休みなさい!」と明るく言い残して出て行った。



 知ってたのかよ……。と、少し恥ずかしくなりながら布団へ潜り込み、そのまま俺の視界は闇に閉ざされた。





ーーーーーーーーーー



 ここは何処だ?

 周りを見渡すが真っ暗だ。いや、一切の光も見えない、闇の中と言った表現が正しい。


 俺は確か昨日、カナと話した後すぐ寝たはずだ。などと考えていると突然燈(ともしび)が付く。


 どうやら道を示しているようで、何本もの燈が真っ直ぐに次々と出てくる。



「行ってみるか」



 と、暫く歩くと大きな扉が見える。視界が悪くて大きさしか分からないが、何処か不気味な雰囲気を漂わせている。


 俺が扉に手を掛けるとキィーっと甲高い音を立てながら自動で開いた。



「なんだ?」



 中を覗き込むと、そこには俺と紗凪が向かい合って立っている姿が見えた。瞬間。俺の目の前に紗凪がいきなり現れた。いや、俺がさっき見ていた俺の視点に切り替わったのだ。俺は突然の事で理解が遅れるが、何やら険悪な雰囲気で紗凪が俺に話し掛けてくる。


 だが、声が聞こえない。次の瞬間。また視点が切り替わった。今度は紗凪の背後に立っている。俺は右手に持っている得物で紗凪の心臓にあたる部分を。




――貫いた。

 



ーーーーーーーーーーー






 俺は目が覚めた後、物凄い汗を掻いていたが、時間を確認しようとメニューウィンドウを開くと、聡太からメッセージが届いていた。



「なんだろ」



[明日は集中してレベリングするから09:30食堂集合。遅刻厳禁。]と書かれていた。

 現在時刻は09:45と書かれている。



「明日は頑張ろうってそう言う事だったのかよ。だが焦りは禁物だ、まずはシャワーでも浴びてから――」


「ちょっと影!まだ寝てんの!?」



 ドンドンと扉を叩きながら叫ぶカナの声が聞こえる。どうやら俺の願いは叶わないらしい。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ