〜出逢い〜
「イベント関連…か。乗った」
イベント関連の情報、買って損はないと判断し、意思表明をする。
「よし、じゃぁ説明させて貰うよ、まずイベントが起こるのは丁度一週間後だ。その時この街の広場の噴水前に1人のフードを被ったローブ姿の男が現れる。その男にこう告げるんだ。「街を守りたい」ってね、そうすればそこから転移させてもらえるんだ。だが、立っているのは場所も景色も変わらない始まりの街。だがそこは確実に転送されたと、転送されれば分かる様になっているんだ。」
感覚的に分かるって事なのか?合言葉の街を守りたい。って事からおそらく安全エリア強襲イベントの様な物であろうことは予測が付く。焦れったいので「続きは?」と先を施す。
「このイベントは想像通り街の強襲イベントだ、そして――、その報酬は激レアアイテムの【スキルの書】このアイテムは、街を守るのに貢献した上位3名全員に配られる」
「スキルの書?貢献度の基準はなんだ」
俺の問いにニヤリと八重歯をキラつかせ、「そこからが本題だよ」と続けた。
「まずスキルの書、これはランダムではあるがスキルを1つ覚えられるんだ。レベルアップしかスキルは増えない、そしてスキルが増える量が決まっているこのゲームではかなり貴重で強力なものさ。そして貢献度だが、これは全てだ。討伐数、ボスへのダメージ量、支援魔法まで。全てに関してトータル、合計、総合値で決められる」
貢献度に関しては不明瞭のままだが、スキルの書に関しては確かに貴重だな。
このイベントに関しては聡太と相談して決めよう、死ぬ可能性が高いなら無理してやる必要はない。
その後はGのやりとりとフレンド登録を済ませて俺はキラの言っていた温泉施設に向かって歩き始める。
この身体が治ったら聡太達と合流しようかなどと考えている内に温泉施設に辿り着いて、その建物を直視する。
「これが温泉施設か、まるで古い銭湯じゃないか」
と、その古い建物にイチャモンをつけながら男の文字が書かれた暖簾を潜る。
ここには脱衣所と呼べる物はなく、暖簾の奥に少しひらけた空間があり、ソファーとテーブルが置いてある程度だ。俺はそこで装備をアイテムストレージに収納し、人気のない湯船を楽しみにスライド式のドアを開ける。
「やっぱり1人もいないな」
なんだか貸切のようで、少しだけテンションが上がり素早く身体を洗った後その独り占め出来る、自宅ではあり得ない大きさの湯船へと足を踏み入れる。
湯加減は少しヌルい。おそらく治療目的で来る人用に長時間浸かれる様な温度調整がされているのだろう。
「お、サウナもあるのか」
周りを見渡すとサウナ以外にも水風呂や43℃と書かれている所もある。
左腕が完治するまでの小一時間はこの、ぬるま湯に浸かっていよう。
「もう完治したか」
特に何を考えるでもなく独り占めの湯船を満喫していると、気付いたら身体が楽になって居た。確かめるように左腕を回し、完治を確認する。
確認を終えた後、サウナに向かう。
火傷をしないようにしっかり用意されている部分の取っ手を握り意気揚々と扉を開けるが目に入った光景は。
――1人、全裸の男が倒れている姿だった。
ーーーーーーーーーーー
「アンタほんっと馬鹿ね!何やってんのよ」
「す、すいませんでした」
俺の前で始まった痴話喧嘩。状況を説明すると、この男女はサウナにどっちが長く居られるか勝負していた。くだらない勝負であるが男は負けず嫌いで、ギブアップの連絡がなかった事から限界以上に長居したらしい。
「ほら!この人にお礼言いなさいよ!助けてもらったんだから」
「あ、あぁ、俺は健だ!よろしくな!」
お礼ではなく自己紹介をされたが、あまり気にしないで俺も名乗る。
「俺はエイだ、よろしく」
「私はヒナよ、こっち馬鹿の代わりに私がお礼を言って置くわ、ありがとう」
ヒナは頭を下げながら礼を言った後に「所で――」と続ける。
「あなた見たところソロの様だけど、初期装備じゃないしそこそこレベル高いでしょ。こいつの事助けてくれたし悪い人じゃないわよね、良かったら私達のパーティーに入らない?」
「あぁ、すまない、俺はもうパーティー組んでるんだ。この後合流しようしようかと思ってる」
「俺達2人だから少し不安でよ。まぁパーティー組んでるんなら仕方ないな!」
健は明るく言うが、2人とも少し落胆の色が見える。不安なのは分かるし、皆に相談してみるのもいいかもしれないな。パーティーの上限は8人だ。
「そうか、良かったら一緒に来るか?俺らは4人パーティーなんだ」
「本当か!?パーティー入れてくれんのか!?」
「あ、あぁ、そうだな」
しまった。健の勢いに呑まれて思わず頷いちまった。まぁなんとかなるだろ、信用できる仲間なら大いに越したことはない――、
はずだ、多分……。
「よっしゃぁ!サンキュー!じゃ早速行こうぜ!」
と、方角も分からない筈の健が先頭でいそいそと歩き出す。
「ねぇ、エイ……でいいかしら?あの馬鹿あんなんだけど、いい奴だから悪く思わないで欲しいの。それにあいつ、強いから役に立てると思うわ」
ヒナが金髪の長い髪を揺らしながら少しだけ声量を抑えながら話しかけて来る。
それに初期装備じゃない事から恐らく、弱くは無いだろうと言う思惑も最初からあった。
「大丈夫だ、心配すんな」
俺がそう言うと、聞こえるか聞こえないか位の小さな声で「ありがとう」と呟く。
まずは聡太に連絡しないとな、と思い立ち直ぐにメニュー画面を操作し連絡を取る。
聡太達に一度街へ戻ってきて貰うまで少しだけ時間があるが、特にすることもないので待ち合わせ場所である噴水のある広場で待つ事にした。
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「お待たせ影、温泉施設があったなんて知らなかったよ」
と言いながら近付いて来る聡太達はなんだか少しご機嫌なようだった
「おう、というよりなんかいい事あったのか?」
「お、よく分かったね影ぃい、なんと私達はレベルアップしたのです!影よりも!」
カナはこれ以上無い位に胸を張り、顔はこれ以上無いほどのドヤ顔である。
俺よりレベルアップした?というよりこいつのドヤ顔はいつもの事だがいつもより少しばかりムカつくのはレベルを抜かれたからと言うことでは無いだろう――。うざいな。
「すごいな、昨日はあれだけ頑張って5レベだったのに。まぁここじゃなんだしどこか入って色々話すか」
結局向かったのは宿屋で、一部屋だけ取りみんなで集まる。
「初めまして、僕は聡太、これからパーティー組むみたいだし、職業も、装備見れば分かるとおもうけどアーチャーです。よろしく」
聡太が自己紹介の後に職業を名乗るとその流れができたのか。
「私は誰カナ?魔術師です!!」
健とヒナだけじゃなく紗凪も一瞬ポカーンとした表情になるが、聡太が直ぐに補足してなるほどと言った顔つきになる。
「私のプレイヤーネームはNasaだけど、紗凪って呼ばれてます。職業は侍です。よろしくお願いします」
ペコリと頭を下げる紗凪。
健が【侍】という言葉に惹かれて興奮するが直ぐにヒナのゲンコツを受け大人しくなる。
「私はヒナでこっちのバカが健、よろしくね」
ゲンコツを下ろした状態で自己紹介をするヒナ。
「俺とヒナの職業は――。」