〜情報〜
「――これからどうする?」
俺たちはゲーム内で再会していた、幸いにもメニューウィンドウには色々な機能も搭載されていて、その内の1つにフレンド検索というものがありすぐに連絡は取れた。
俺たちは合流し、まず話し合うことにしたのである。因みに初期装備は男女で分かれているだけで職業別と言うわけではなく、街には同じ格好をした人ばかりだ。
職業は装備している武器で見分けるしかないが、俺はアイテムストレージに収納している状態である。――幼馴染二人もそうしている様だ。
「どうするって言ったって……。わかんない……」
この子はもう一人の幼馴染の千葉 カナだ。
どうやら聡太がカナの事も誘っていたようだった。カナもあの先生から買ったのか?
「今はまだ軽率な行動を取るべきじゃないと思う、例えば、普通のゲームみたいに死んでも復活するのか、欠損はどうなるのか、戦闘に関することだけじゃない。
――例えば衣食住や経済の流れ、ゲームのクリア条件は何かとか分からない事が多すぎる。ゲームの中なのにHPがないのも不安だね……。――だから今は僕らだけでも情報共有をしておきたい、職業やスキルをね。」
いきなりシリアスな空気になったが、それも致し方ない事だろうそれに――、確かにそうだ、聡太が言った様に今は情報が足りなすぎる。
他の人はすぐさま戦闘に出る者、慎重になっている者、冷静になって考え込む者、特に多いのがパニックになっている者だ。
叫び声、喚き声、怒鳴り声、様々な声が聞こえ、喧嘩する者も出始めている。
このゲームは100万台製造されていてほぼ完売状態にあり、日曜日の昼という時間から始められた。
あの担任の様に複数購入しているの者は少ないだろう――、となるとやはりかなりの人数が閉じ込められているはずだ。
今後ログインして来るものはいるのか、警察はどう動いているのか、外の状況は一切分からないが、少なくとも現時点で数十万の人間が閉じ込められているだろう。
「そうだな、ステータス画面を見せ合おうか。」
そう言ってまずは自分のメニューウィンドウを操作し、ステータス画面を可視化した状態で見せる。
本来であればこの状況、興奮したプレイヤーがPKを行う可能性だって十分にある。己の職業やスキルを見せるのは致命的に成り得るが相手は幼馴染二人だ、信用も信頼もできる。
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名前 エイ
レベル 1
職業 盗賊
スキル :【(P)盗む】【隠密】
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スキル【(P)盗む】の(P)はおそらくパッシブスキルという事だろう。
「盗賊!?なんで影はそんな地味なの選んだのよ」
「影ってそういうの好きだったっけ?」
やはり突っ込まれたか
俺だって好きでなったわけじゃないんだよ
「色々あったんだよ。――で、二人は?」
「色々が分からないんだけど……。僕はこれだよ」
苦笑いしながらすぐさまステータス画面を開く聡太。
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名前 聡太
レベル 1
職業 アーチャー
スキル 【火矢】【ダブルアロー】
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「聡太は名前そのまんまなんだね……」
「こいつはいつもこうだぞ、だからフレンド検索出来た訳だしな。それにしてもアーチャーか、結構良さそうだな、安全に攻略出来そうだ」
「遠距離って言ったら私もよ、これ!」
――なんでこいつはこんなドヤ顔なんだ?
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名前 私は誰カナ?
レベル 1
職業 魔術師
スキル 【火球】【火柱】
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なるほどな、仮に戦闘に出るとしたらこのままじゃヤバイな。――マジでどうしようか。
てか大体こいつの名前遊びすぎだろ。
「な、なんで二人とも無言なのよ……」
さっきまでのドヤ顔は何処へやら、不安そうな顔をして様子を伺って来るカナに聡太がで答える
「い、いやカナの名前が面白くて……。――じゃなくて、もしもこのメンバーで戦闘するのであれば前衛1後衛2の構成は少し良くない、というよりそもそも盗賊は純粋な前衛職じゃないしね」
前半は半笑いで答えた聡太だが、全くその通りである。それに攻撃スキルがないのも痛手だ。
「確かに、よく考えればそうね。でも本当にこれからどうするの?戦闘は出来ないんでしょ?」
「そうだね、まずは各自で情報収集――、と行きたい所だが、プレイヤーが錯乱状態で危害を加えて来る可能性もある、みんなで行動しよう」
効率は落ちるが、確かに安全を取ってみんなで行動するべきだ。俺も賛成の意思表明をするべく顔を上げると、小柄で金髪ショートヘアの女が此方へと何の迷いもない足取りで近付いてくる。
「やぁ、君達は随分と慎重な様だね。僕の情報を買わないかい?」
なんなんだこの女は。情報を買う?取引か?この状況で?そもそもこいつは何者だ。そしてその情報が正しいのかも確かめようがない筈だ。だがこいつが何か知っているのなら――、情報は欲しい。
そこまで思考したところで、俺以上に頭が回る聡太が口火を切った。
「分かった、ただし条件がある。1つ、君の情報が正しいのかの証明が出来る事。2つ、料金は後払い。3つ、君自身の情報も買い取らせて貰う。」
3本の指まで立て終えた聡太が返答を催促するかの様な視線をこの女へと向けた所で女はメニューウィンドウを可視化状態で操作し、ステータス画面を此方に突きつけ、小さな可愛らしい八重歯を見せながら語り始めた
「結論から言うと僕はその条件をある程度クリア出来る、まず3つ目の答えがこれだ」
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名前 キラ
レベル 6
職業 情報屋
スキル 【(P)情報収集】【盗聴】【隠密】【防音空間】
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「嘘でしょ!?レベル6!?スキルも多いし職業が情「カナ!声が大きい!」
カナが驚いて大声で読み上げている所を聡太がそれ以上の大声で注意する。一言「ごめんなさい」と謝りショボくれているカナだが、カナの気持ちは分かる。
ゲームが開始してからまだそれほど時間は経っていない、にも関わらず目の前のキラという女は攻撃スキルもなしにレベル6にまでなっている。
「カナちゃん、で良いのかな?大丈夫だよここは既に防音空間の中にある。ここで話すことは全て外に聞こえることは無いよ。さてと、契約の話の続きをしよう。1つ目の事は証明の仕様がない事も当然あるし、証明出来ることもある。そして2つ目、今回に限り料金は要らないよ。――緊急事態だからね。」
そう言って少しだけ、ほんの少しだけ哀しそうなキラの顔は、とても儚く先程までの自信と余裕に満ち溢れている情報屋とは別人の様な、そんな印象を受けた。