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オーリック公国 7 冒険者ギルドでの聞き込み調査

 数分後。


「まあ、こうなるだろうとは思っていました」


 意気揚々とギルドの扉をくぐっていったシェリスたちの後ろで、クリストフ様が仕方がないですというようなため息をついていた。

 僕も抵抗はしようと精一杯頑張ったのだけれど、そのつもりだったのだけれど、何故だか気がついた時にはすでにシェリスたちの後ろを歩いていたんだよね。


「お兄様がおっしゃっていたような、居酒屋というところとは違う、大分静かなところではないですか」


 先に足を踏み入れていたシェリスが、外向きの笑顔で振り返る。

 たしかに。

 建物の中を見回してみても、昼間からお酒を飲んでいるような赤ら顔の人はちらほらと確認できるけれど、思ったほど騒々しくはなく、今入ってきた僕達に注目しているような視線は感じられるけれど、騒ぎが起きそうな様子はない。


「お昼の時間帯ですし、皆さん、昼食の休憩後もまた出発なさるのでしょうから、無駄に騒がず体力の温存をされているというのは当然のようにも思えます。その日の仕事がすでに終わっている夕方、あるいは夜とは違いますから」


「そういうものなのでしょうか」


 シャイナの所見にジーナ公女が可愛らしく首を傾けられると、少なくとも数か所から咳き込むような音が聞こえてきた。

 あれは公女様じゃないのか、とか、何でこんなところに公女様が、とか、声を顰めてはいたけれど、静まり返ってしまっている建物の中ではあまり意味を成しているようには思えず、僕達のところまでもしっかりと聞こえてきていた。

 

「じゃあ、一緒にいる飛びっきりの美少女は誰なんだよ」


「知るか。でも、ほら、公女様が敬称をつけて呼ぶくらいだから、他国の姫君とかじゃないのか」


 ジーナ公女は、自身の事をお飾りだと考えていらっしゃるようなご様子だったけれど、しっかりとオーリック公国の人たちに尊敬されてはいるらしい。

 

「でも本当、息をのむことすら忘れてしまいそうな美少女だな……」


「ああ……品のある顔立ちといい、まるで高級な人形のようだ……」


 シャイナやシェリスたちが褒められる、見惚れられるのは当然だとしても、誇らしくなると同時に、わずかに独占欲も湧いてくる。

 ざっと見回した感じでは男性のほうのが女性の比率よりも多いようだし、多分、シャイナ――そしてシェリス――が靡くことはないだろうとわかってはいても、ヤキモキとする気持ちは抑えられない。

 それはともかく、気にしないでおけるような案件では個人的にはなかったけれど、それは置いておいて、ここへ来た目的を果たさなければならない。

 しかし。


「……気軽に雑談できる、といった雰囲気ではありませんね」


 クリストフ様が困っているような声でつぶやく。

 話しかけることに問題はなさそうだけれど、どうしても注目を集めてしまいそうだし、それだとその方が後々厄介ごとに巻き込まれないとも言い切れない。

 そんな僕達の心配をよそに、シェリスたちはすでに受付で話し始めていた。


「――そんなわけで、あなた達が掴んでいるこの国のギルド間の抗争についての情報が欲しいのですけれど」


 その途端に、室内の空気が固まる。

 当然と言えば当然だけれど、冒険者に属しているのは、他国の方だけではなくこの国の方もいらっしゃるわけで、その人たちにしたって、普段の生活がある。

 少なくとも今はこの国に留まっている以上、下手なことは言わない方が賢明だ。

 受付にいらっしゃる美人なお姉さんの困惑が見て取れる。

 シェリスは性格もしっかりしているし、同年代の女の子と比べたら魔法なんかの訓練もしっかり積んでいるのだけれど、見た目的には女性というよりも少女といったところだ。そんな女の子にいきなり直球で問われても、驚きが勝るだろう。そして心配も。


「ええっと、お嬢様。ここの冒険者ギルドは――」


「この国のギルド間の抗争とは無関係、そう言いたいのでしょう。けれど、情報を全く掴んでいないということはないのでしょう? このギルドだって買い取った素材なんかを卸さなくてはならないはずですし」


 それに、食事の提供もしていたり、備え付けの家具やなんかの調達も行っているはずだ。他のギルドと一切折衝がないなどということはないだろう。

 

「大丈夫です。少しだけ独り言をつぶやいてくだされば良いのです。誰も気にしない、誰でもしている、泡沫の夢のようなものですから」


 それに、こちらとしてはこの程度の事で向こう側から何かアクションでも起こしてくれるのならば大助かりだ。

 結局、というよりも、すでにことは動き始めてしまったわけだし、接触がいずれ避けられないことなのだとしたら、それは早い方が良い。あまり長引かせても、僕達個人的には準備する時間が出来て得かもしれないけれど、オーリック公国的には悪手となるだろうから。

 しかし、受付の女性の躊躇いもわかる。

 いくら、関係がないとはいえ、シェリスが言ったように、この国に存在していることは事実なのだ。いつ、このギルドが巻き込まれても不思議ではない。


「たしかに、私どもも現在の状況があまり好ましいものではないということは存じておりますが……」


 ジーナ公女がいらっしゃるから信用なしてくれるだろうと思っていたけれど、逆に心配もされてしまっているみたいだった。自分たちが情報の提供をしたせいで、公家にまで今以上に飛び火することを恐れているのだろう。加えて、同じ理由でこちらの素性も割れているも同然だ。少なくとも居場所はすぐにわかるだろう。


「そうですか。最も手っ取り早く、穏便な方法をと思っていたのですが……」


 仕方がない。


「シャイナ、そっちはどうだった?」


「いいえ。クリストフはどうでしたか?」


「姉様。あの、扉のすぐ隣に座っている老女のような恰好をした方です」


 クリストフ様がそう言って、振り向くのと同時に、今まで静かに席に座っていた黒いフード姿の老女は、とてもそうとは思えない俊敏な動きで、瞬く間にギルドの扉から飛び出した。


「お義兄さん。追ってください。こちらは僕が責任を持ちますから」


「お願いします」


 シェリスとシャイナ、それにジーナ公女のことを クリストフ様にお任せして、僕もギルドを飛び出した。


 


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