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そうだ、花見をしよう 2

 ◇ ◇ ◇



 準備や、落ち着きたい時間もあったことだろうに、シャイナとクリストフ様がエルヴィラを訪れてくれたのは、僕達がミクトラン帝国から帰り着いて2日後のことだった。

 早朝。昨夜のうちにギルドから手紙が届けられていたため、朝食を食べ終えて、そわそわしながら、シェリスと一緒に馬車の到着を待つ。

 穏やかな春の朝日に照らされた、白銀に輝く馬車がゆっくりとその姿を現す。

 アルデンシア王国の紋章が描かれた扉がエリザさんの手によって恭しく開かれ、紅の天鵞絨の台に、まずクリストフ様が姿を見せられて、その手を取ってシャイナが姿を現した。

 ふわりと広がるドレスの裾から雪のように白い華奢な足首がのぞいている。腰は抱き寄せたら折れてしまいそうなほどに細く、胸元は……あまりじろじろと見るのは失礼なので――目を奪われていたのは確かだったけれど――紫水晶のような瞳を見つめながら、恭しく、その手を取った。


「ようこそお越しくださいました、シャイナ姫」


 暖かな風にサラサラと神秘的な銀の髪を揺らしながら、シャイナの小さくて柔らかな手が、僕の差し出した手に重ねられる。


「この度は、お招きいただきありがとうございます。ユーグリッド様」


 シャイナ(とクリストフ様)がこうしてゆっくりとエルヴィラまで訪ねてきてくれるのは久しぶりだ。 僕だって正味7日ほどもシャイナと顔を合わせていなかった。


「ご機嫌麗しゅう、シャイナ姫。そして、クリストフ殿下。長旅でお疲れのところ申し訳ありませんが、国王と王妃は玉座の間で待っておりますので、そちらにご案内させていただいてもよろしいでしょうか?」


 到着し、顔を合わせたのだから、即座に出発、とは、流石にシャイナもクリストフ様もおっしゃらなかった。

 そういえば、シャイナはエルヴィラまでデートに誘ったこともあったし、僕のお見舞いに来てくれたことがあったから、当然、父様や母様とは顔を合わせたことはあったと記憶しているけれど、クリストフ様は初めてのことなのではないだろうか。


「お気遣いありがとうございます、ユーグリッド様。せっかくのご厚意はありがたく思いますが、私どもは構いませんので、案内していただけるでしょうか」


 クリストフ様とそんな定型のやり取りを交わし、父様と母様の待つ玉座の間へと案内する。

 本当はこういった、お客様のお出迎えや、お城の案内なんかは、メイドさんたちの役目であり、僕もこの役目をするにあたり、私どもの仕事、生きがいを奪わないでくださいと嘆願されもしたのだけれど、僕としても、シャイナに自分たちのお城を案内するという役目を譲りたくはなかったので、最終的には何とか納得してもらった。

 それは、第1王子である僕が言ったから納得してくれたのであって、本心からのものとは少しずれていたことに、心が痛まないでもなかったけれど、そこは納得してもらうしかなかった。

 道すがらの庭の花壇なんかの様子や、建物内で通りすぎた部屋の説明をしながら、玉座の間へと案内する。


「ここが玉座の間になっています」


 扉の横に控えていらしたメイドさんたちが扉を音もなく開いてくれる。

 僕は緊張で滲んでいた手のひらに握り込んでいた汗を乾かすと、ゆっくりと玉座の前まで歩いてゆき、膝を就いた。

 僕に倣って、シェリスと、それからシャイナとクリストフ様が膝をつく気配が伝わってきたので、口を開く。


「アルデンシア王国よりお越しくださったシャイナ姫とクリスト王子をお通しいたしました」


 シャイナとクリストフ様が、父様と母様に挨拶している間、僕はずっと父様が余計なことを言うのではないかとハラハラしていたけれど、何事もなく挨拶は済んだようで、ほっと胸を撫でおろした。


「明日にはオーリック公国に向けて出発する予定だったな?」


 父様が僕に確認するので、頷きを返す。


「こちらへ立ち寄られたのは、ユーグリッドとシェリスに合流するためで、私たちもオーリック公国の状況を聴いているため、急ぎだということは重々承知しているが、今日の昼に予定されている花見に参加してはいただけるのだろうか? 城の者も皆、張り切って、楽しみにしていてな」


 シャイナとクリストフ様は一瞬だけ互いに目配せをしていたようだったけれど、そのような宴に参加をご許可いただき感謝いたしますと頭を下げた。

 

「準備は整っているのか?」


「勿論でございます、陛下」


 父様が居並んでいらっしゃるメイドさんたちの方へと顔を向けると、即座に返事があり、父様は満足げに頷いていた。


「暗い話も多かろう。オーリック公国の情勢も気になることだろう。しかし、今しばらくはそのことを忘れて、花見を、宴を、楽しんでもらいたい」


 シャイナとクリストフ様の荷物は従者の方と、メイドさんたちによって部屋まで運ばれ、僕とシェリスは2人を会場となる庭まで案内する役目を承った。


「いきなりこんなことに巻き込んでしまって悪かったね。お城では毎年やっているんだけど、今年は色々とやることがあるからと思っていたんだけれどね」


 シェリスとクリストフ様が、まるで示し合わせたかのように――実際にアイコンタクトを交わしていた――2人で先に歩いて行ってしまったので、僕はシャイナと一緒に廊下を歩いていた。


「いえ。おそらくは状況を鑑みても、それほどひっ迫した状況ではないのではと考えられるだろうとは思っておりましたし、それならば、何かしら、私たちを歓迎するための催しも開かれるのだろうと予想しておりましたので、ユーグリッド様がお気になさる必要はありません」


 シャイナは普段と何ら変わらない冷静な口調だった。


「それに私も――楽しみですから」


 ほんのりと頬をピンク色に染めたシャイナは僕がそちらを向くと、ふいっと前を向いてしまい、少し速足で僕の1歩前へと出た。

 何か言いたいことがあったのだろうかと、シャイナの方を見つめていたのだけれど、シャイナは教えてくれたりしなかった。



 

 

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