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ミクトラン帝国 31 パーティーへのエスコート 7

「ユーグリッド様がシャイナ姫をずっと想っていらっしゃるのだということは存じております。ですが、その上で、私とのことも考えてみてはいただけないでしょうか」


 僕がエルマーナ皇女にお会いした、もっと正確に言うのであれば、言葉を交わしたのは、先日のミクトラン帝国までくる道中での一件が初めてだ。それは間違いがない。

 王族の務めとして、他国の状勢、言ってしまえばその国の国家元首とそのご家族のことは教養として学んではいるけれど、直接顔を合わせたことはなかった。

 つまり、まだ僕はエルマーナ皇女とお会いしてから数日しか経っていないということになる。

 人が恋に落ちるのに年月など関係がないということは、僕はよく知っている。なにしろ、僕自身、シャイナにひと目惚れした身であるからだ。

 だから、この告白を勘違いだとか、一時の気の迷いだなどと諭すことは、断じてできない。


「ありがとうございます、エルマーナ皇女。私の事をそこまで考えてくださって。ですが、申し訳ありません。私――僕はずっと1人だけ、シャイナの事だけを想っているのです」


 たとえ相手にされずとも、たとえ勘違いから避けられようと、たとえ他の女性と親しくしているところで興味ありませんといった態度をとられようとも。

 エルマーナ皇女の本気の気持ちは皮膚がピリピリするほどに伝わってきていて、僕も最大限の気持ちを込めて頭を下げた。

 張りつめていた空気がふっとほどける気配がして、顔を上げると、エルマーナ皇女の悲しそうな顔が目に映りこんできた。


「――シャイナ姫は、ユーグリッド様につれない態度をとっていらしたではないですか。このパーティーだって、私がユーグリッド様をお誘いしたら、すぐに身を引かれていましたし」


 そう言っているエルマーナ皇女も、その後のシャイナの事を見ていたのだから知っているだろうに。

 あの時、シャイナがじっと僕の事を見ていたのは、きっと僕の都合の良い勘違いなんかじゃなくて。

 僕が――シェリスに引き留められたからとはいえ、その程度の事で――声をかけることが出来なかったのが、まだまだ意気地がないというか、恐れているというか、小心者だったのだという、ただそれだけのことだったと思う


「僕は初めてシャイナに逢った時、とっても美しい女の子で、まるで女神様だと思ったんですよ」


 初めてシャイナに逢った時の衝撃は、きっといつまでも忘れない。

 月の光に反射してキラキラと輝くさらさらの銀の髪をゆるやかに靡かせて、人形のように神秘的な美貌で、感情を窺わせない表情で、宝石のような紫の瞳を長いまつ毛の間からのぞかせて。

 直後の舞台でシャイナのヴァイオリンの演奏を聴いて、その姿から目が離せなかった。

 式典を終えてエルヴィラへ戻ってからも、シャイナの事が忘れられなくて、毎月毎月、最初は迷惑がられながらも、逢いに行った。


「それからも、何度シャイナを怒らせてしまったかわかりません。プレゼントを渡せなかったことも、デートを断られたこともありましたし、細かいことを挙げていったら、それこそきりがありませんよ」


 どんなシャイナとの思い出も、僕にとってはキラキラと輝く宝物だ。

 誤解が重なった時もあったけれど、結局、信じて――くれたのかどうかは分からないけれど――こうして今も、少なくとも悪いものではなく関係を続けてくれている。

 

「エルマーナ皇女のことが嫌いなわけでも、好意を抱いていないわけでもありません。ただ、僕がシャイナの事を好きなだけなんです」


 もちろん、僕もエルヴィラの次期国王として、いずれはどなたかをお迎えしなくてはならないだろう。

 シャイナのことしか考えていない僕に嫁いでくれる方なんていらっしゃるのか分からないし、そうしたら、あるいは国家として別の、あるいはシェリスの結婚相手に、すぐに位を譲って、シェリスが女王に就くことになるのかもしれない。

 エルヴィラの歴史の紐解けば、女性の君主というのもいないわけではない。

 もっとも、僕は可愛い妹にその責任を押し付けるつもりなんてこれっぽっちもないけれど。


「そんなに想われているシャイナ姫が羨ましいです。私もそんな風に想うことのできる相手に巡り合いたいものです」


 これがそうだと思ったのですけれど、とエルマーナ皇女は悲しそうな顔のまま、テラスの手すりに手をかけられた。

 女性が悲しそうにしているのだから、気の利いた言葉をかけるべきなのだろうけれど、たった今、まさに告白を断った相手に対してかけられる言葉なんて、生憎、僕は持ち合わせていなかった。


「でも、私も言いたいことが言えてすっきりしました。本当ですよ。もちろん、泣きたい気持ちもありますし、今夜は枕を濡らすでしょうけれど」


 エルマーナ皇女はそうおっしゃりながら、冗談めかした笑顔を浮かべられた。


「でもそれは、シェリス姫とシャイナ姫に慰めてもらう事にします。今夜もお城へお泊りになるのでしょう?」


 ミクトラン帝国への滞在中は帝城の方へ滞在させていただけることになっていて、昨日までもそうしていた。


「私は諦めが悪いようなので、フラれたからといって、シェリス姫のように素直にユーグリッド様の応援をしたりはいたしませんけれど。それでも、私の誘いを断られたのですから、ユーグリッド様。必ずシャイナ姫のことを振り向かせてみせてくださいね」


 そんな理由などなくても、僕はシャイナの事を諦めたりは決してしない。

 もちろん、シャイナ自身に好きな人が出来て、などという事態になれば、僕も潔く身を引くつもりではいるけれど。

 もっとも、そんな事態にはならない。その相手の席には、必ず僕が座ってみせる。


「ええ、お約束いたします」


 

 

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