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デートのお誘い 6

 翌朝。 

 借りている部屋で目が覚めて、シャイナ姫を誘いにアルデンシアまで来たけれどまだ返事を貰っていないことを思い出したので、早朝から大丈夫かなとは思ったけれど、お部屋を訪ねることにした。


「シャイナ姫。起きていらっしゃいますか。ユーグリッドです」


 扉をノックしてみても返事がないので、もう1度ノックをすると、よく聞く声で中から返事があった。


「はーい。ああ、兄様。おはよう。シャイナ姫ならここにはいないわよ」


 シェリスが眠そうに目を擦りながら扉を開けてくれる。

 昨夜は、まさか僕が女性の寝室にお邪魔するわけにはいかず、2人で眠っていたらしいのだけれど、今はこの部屋にはシェリスしかいないらしい。

 シャイナ姫はどこへ行かれているのだろうか。

 そう思って耳を澄ますと、かすかに庭の方からヴァイオリンの音色が響いてきているのが分かった。

 

「兄様。私、着替えたいのだけれど」


「ご、ごめんっ」


 開きっぱなしの扉の内側では、シェリスが少し恥じらうように胸の前で白い寝間着をぎゅっと握りしめている。

 僕は慌てて扉を閉めると、扉の正面の壁に寄りかかってシェリスが出てくるのを待った。

 ドレスに着替えるのはしばらくかかるだろうと思っていたのだろうけれど、シェリスは思いのほか早く出てきた。


「兄様!」


 寝間着を半脱ぎの状態で。


「兄様、ごめんなさい。寝間着が」


 とても慌てた表情のシェリスに、とりあえず落ち着いてと声をかけながら、一先ず、こんな格好のシェリスを廊下に出しておくわけにもいかず、大変失礼だとは分かりつつも、シャイナ姫の寝室に入れさせていただいた。


「せっかく兄様に作っていただいたのに」


 そう言われて見てみると、寝間着の脇の下のところの縫製がほつれていて、ぱくりと穴が開いていた。

 ごめんなさいと謝るシェリスの髪を撫でながら


「成長期だからね。シェリスが成長したら、サイズが合わなくなるのも仕方ないよ」


 ちょっと待っててね、と、涙目のシェリスを椅子に座らせて、荷物の中から裁縫道具を取り出す。

 シャイナ姫に服をプレゼントする際に、もし具合が悪ければこっちで手直しをしようと思ってついでに持ってきた裁縫道具は役に立った。


「じゃあ、ちょっと‥‥‥脱ぐのも大変か。仕方ない。シェリス、ちょっとじっとしててね」


 素早く糸を針に通して、シェリスの柔肌を傷つけないように慎重に縫おうと思ったのだけれど。


「兄様。ちょっと、くすぐったい」


 シェリスが小鳥のように可愛らしい声を上げながら身をよじる。

 仕方ないかもしれないけれど、やっぱりちょっと着たまま縫うのは難しそうだった。


「シェリス。すぐに縫っちゃうから、それ脱いでもらえる?」


 シェリスは少しも恥じらう様子はなく、そくさくと寝間着を脱いだ。

 多分、僕が相手だからだろうけれど、少しは年頃の女の子としての恥じらいがあっても良いんじゃないだろうか。いや、今恥じらわれても困るのは僕だけれど。

 

「どう、兄様。少しは成長した?」


 早く着替えて欲しかったので、適当にハイハイとあしらうと、シェリスはご不満だった様子で、僕の背中に抱き着いてきた。


「シェリス。淑女がそんな風にはしたないことをしていてはお母様に怒られるよ」


 とはいえ、今は少しばかり好都合かもしれない。

 せっかく縫い直すのならば、サイズも知っておいた方が良いだろう。


「シェリス、そのままばんざいして」


 僕は裁縫道具の中から巻き尺を取り出して、腰と、それから上へと移動させる。

 胸の下から、また少し上げて、胸の上、わきの下と、動かすたびに、シェリスはくすぐったそうにわずかに身体をよじる。


「シェリス。じっとして」


「だってえ」


 そんな風に甘えた声を出されても困るのだけれど。

 予想通り、やはりこの服を作った時よりも、シェリスは成長していて、それでサイズが合わなくなってしまったんだろう。


「大丈夫、すぐ直せるから。って言うか、シェリスは他の服を––」


 他の服を出そうと思ったときに、扉の開く音が聞こえてきて、風が吹き込んできた。

 なんとなく嫌な予感がして、かくかくとした動作でそちらへ顔を向けると、なんだか青ざめた顔で、眉間に眉をぎゅっと寄せ、ぷるぷると震える手でヴァイオリンを持ったシャイナ姫が立っていた。


「‥‥‥やはり、小さな女の子ならば、それがたとえご家族、妹君でも、どなたでも良いのですね」


 シャイナ姫の視線は、巻き尺を持って半裸のシェリスに抱き着いているような格好をしている僕に注がれていた。


「いや、これは––」


「不潔です」


 僕が説明をする前に、シャイナ姫は冷たく言い捨てて、ヴァイオリンを持ったままどこかへ歩き去ってしまった。

 廊下で足音が遠ざかるのを、僕は、おそらく第三者が見たら間抜けな格好と表情で、呆然としていた。

 追いかけて、誤解を解きたかったのは山々だったけれど、まさかシェリスをこのままの格好で放置するわけにはいかない。


「ごめん、シェリス。取りあえず、他の服を着ていて」


「ごめんなさい、兄様」


 シャイナ姫と同じくらいに青ざめた表情でシェリスが謝るので、僕はシェリスの髪を優しく撫でながら、大丈夫だよと声をかけた。

 誤解だと説明しにゆかなくてはならないのだけれど、話を聞いてもらえるだろうか。



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