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ミクトラン帝国 28 パーティーへのエスコート 4

 会場へ戻ると、残念ながらというべきなのか、それとも安心するべきなのか、すでにダンスの曲は流れておらず、お客様方は皆、歓談の最中だった。

 シャイナと踊れなくてとても残念に思う気持ちはあったのだけれど、一方でシャイナがほかの男性と踊っているところを見ずに済んでほっとしている自分がいることにも気がつき、僕は少し落ち込んだ。

 つくづく、僕は心の狭い男だなあと。

 それに、自分の都合を優先してしまったせいで、せっかくダンスを楽しみにしていらした女性のお客様にも、申し訳ないことをしてしまったと思う。(どれだけ自意識過剰なのかと聞く人からしてみれば鼻で笑われる話ではあるのだけれど)

 

「お兄様」


 なるべく静かに戻ったつもりだったのだけれど、もちろんそうはならず、すぐに人の視線が集まって、あっという間にシェリスに捕捉された。


(ただいま、シェリス。ありが――)


(シャイナと一緒にいるなら許してあげようと思ってたのに、何で1人で戻ってきちゃうのよ!)


 表情こそ話しかけてくる人たちに対して談笑している風ではあったけれど、そうする意味はないのにもかかわらず、耳を塞いでしまいたくなるような声が響いてきた。


「おお、ユーグリッド王子! お戻りになられましたか!」


 しかし、僕もシェリスに釈明をする時間を与えてはもらえなかった。


「息子の教育問題で、エルヴィラでは魔法師の育成に力をいれている学院があると聞いているのですけれど、そちらには帝国出身であっても通うことは出来るのでしょうか? そこで優秀な成績を収めると王宮へ推薦されると聞いたのですけれど、本当なのでしょうか?」


「何でも先だってのモンスターの大群が侵攻してきた際には、殿下も前線へ赴かれたのだとか。そのような事態が再び起こらぬよう、我が家からも優秀な魔法師を警備に就かせたいと考えているのですが、国境配備の場合、エルヴィラの王宮まで志願に向かえばよいのでしょうか?」


「先日12歳になりました、娘のクリスティアナです。私は鉱物学者をしているのですが、ときに私も舌を巻くほどの知識を持っている子です。魔法の使えない娘ですが、小さいことにもよく気付きますし、そちらの国の学院で学べば使うことが出来るようになる可能性もあるのでしょうか?」


 などと一斉に話しかけられて、その彼らの中でも、私が先ですわ、いや、私が、と我先にの競争を始めてしまい、普段はまったく気にしないで貰って構わないと思っている僕ですら、一応王子なのですがと声を上げたくなる気持ちになっていた。

 たしかに開花祭の後、しかも僕達のステージを見てくださった後で、興奮していらっしゃるのは分かるけれど、すでに数日が経過しているのだし、もう少し落ち着いても良いのではとも思える。


「きゃっ!」


 ガラスの砕けるような音とともに、女性の悲鳴が聞こえてきた。

 出席者の方が家がをされるようなことがあれば大変だし、ここがエルヴィラではないなどということは関係がない。

 一緒に、ぱしゃ、っとおそらくは飲み物がこぼれたか、かかってしまったかのような音も聞こえてきていたので、もしかしたら何かあるかもしれない。


「おい! かかったりゃれえか!」


 女性に絡んでいる男性は、控えめに言っても赤ら顔で、酔っていることが丸わかりの、呂律の回っていない話し方をしていた。


「す、すみません」


 自身に非はない、どころか被害者であると、見方によっては見えるところだったけれど、男性の勢いに圧倒されているのか、それともアルコールが苦手なのか、すっかり相手の女性は萎縮してしまっている。

 このままでは確実に良くないことが起きる。

 しかし、男性は身分の高い家柄であるのか、周りにいる方も仲裁に入れずにいる。

 身分がどうであろうと、そんなことを気にしている場面ではないのは明らかだけれど、それは僕が王子などをしているから言えることなのかもしれない。

 だったら、僕のやるべきことは決まっていて。


「――そこまでになさった方がよろしいかと思いますが」


 僕が間に入る前に、凛とした、静かでいながら、それでいてよく通る、聞きなれた声が聞こえてきた。

 周囲がざわつく。


「経緯は見ていました。今の状況では、明らかにあなたの方に非があると言わざるを得ません。泥酔による前後不覚と、それに伴うふらつきにより、こちらの女性に背後から肩でぶつかってこられたのはあなたです」


 相手の男性は明らかに自分より体格が大きいにもかかわらず、変わらずシャイナは毅然としてその場に立っていた。


「だ、誰だ!」


 1国の姫、それに先の開花祭で素晴らしい演奏を披露したシャイナを知らないというのは、ミクトラン帝国の国民として、それ以前に、貴族として勉強不足というか、そこまで意識がはっきりしていないのならば、もう休むか帰るかするべきだと思う。


「俺は、リヴァール侯爵家の」


「すみません。存じ上げておりません。勉強不足で申し訳ありません。もっと有名な商家や、学術、魔法、芸術分野に貢献なさっていらっしゃるお家ならばわかると思うのですが」


 まあ、ここはアルデンシアではないし。基本的にそういった世間と親しくかかわる機会の少ない僕たちは、お城の図書室の蔵書レベル、あるいは宮仕えの方や、賢人会議など、そういったところにまで出席なさるくらいの方でないと、滅多に、あるいはほとんど顔はおろか、名前すら、ということは多い。

 知らなかったシャイナを責める理由はない。

 しかし、相手の貴族――リヴァール侯爵家のおそらく跡取り息子であるところの彼は、今現在、冷静な判断力を残してはいなかった。


「ふっ……ふっ……ふざけるなよ……!」


 彼は机に置いてあった、食事の乗せられた皿に手をかける。

 シャイナから魔力が、つまりは魔法が使われそうになるのを感じる。

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