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ミクトラン帝国 19 魔法のステージ 3

 このステージを見に来てくださっている観客の皆さんは、直前にエルマーナ皇女が事件に巻き込まれていたなどということは、夢にも思っていないだろう。

 プログラムに変更が加えられたことで、何かあったのかな、と勘繰る方もいらっしゃったことだろうけれど、今の客席からはそんな雰囲気は微塵にも感じられない。

 それはこれまでステージを繋いでこられた出演者の皆さんがとても素晴らしいステージを見せてくださったおかげだろう。

 残念ながら、僕はそのステージを見ることが出来なかったけれど、だからこそ、それ以上に僕たちの舞台で見てくださっている皆さんにお返しをしなくてはならない。


「シェリス。さっき出番を終えたばかりのようだけれど、大丈夫?」


 シェリスとクリストフ様のステージは予定されていない。

 シェリスだって、きっと僕達が帰ってくるだろうと信じていただろうから、この後もう1度ステージに上がるだろうことは分かっていただろうけれど、それでもやはり不安は残る。

 もし宙を舞っている最中に落下してしまったら?

 もし狙った通りの効果を演出できなかったら?

 もし途中で魔力か体力が切れて倒れてしまったら?

 そんな風に、無数の疑念が頭をよぎる。

 もちろん、シェリスの事を信じてはいる。

 この妹が大丈夫だと言い切ったからには、少なくともステージの上で倒れるようなことはないだろう。

 でも、ステージが終わった後は?

 シェリスの事を心配出来た筋ではないのかもしれないけれど、もし、シェリスが倒れてしまったらと思うと、この舞台は僕だけでやった方が良いのかもしれないとさえ思う。


「他人の心配を出来るようになるなんて、倒れられた経験のおありになるお兄様はやはりおっしゃることが違いますね」


 シェリスが少し意地の悪そうな笑みを浮かべる。


「お兄様こそ、この後で本当にシャイナと一緒に舞台になんて立てるのかしら?」


 シェリスとクリストフ様の舞台が成立していたおかげというか、僕とシャイナが一緒に舞台に立つなんて思いもよらないことだった。

 もちろん嬉しいことなのだけれど、それが誘拐事件のせい――あるいはおかげ――だと考えると、少し複雑な気分にもなる。

 でも。


「もちろん。僕の方が心配しているんだよ。シェリスが倒れるようなことを危惧して、あるいは遠慮して、全力を出すことが出来ずにステージを終えたら、その後のステージは僕とシャイナ、そしてエルマーナ皇女だ。このステージがかき消されてしまうんじゃないかって」


 少し大げさに、挑発めいた言い回しだったけれど、シェリスはすでにそんなに簡単に挑発に乗るほど子供ではない。

 昔はシャイナを挑発するくらいに大人げないというか、実際に子供だったというのに。しかも、その後自分で狼狽えて落ち込むという、見事なまでの子供ぶりだった。

 妹の成長は嬉しいけれど、何となく寂しい気もする。

 そう遠くない未来に、シェリスにもに気になる異性が出来たりするだろう。


「兄様? なんで泣いているのよ。まだステージは始まってもいないのよ?」


「いや、シェリスもいつかはお嫁に行くんだなあと思って?」


「はあ!?」


 シェリスは顔を夕焼けよりも真っ赤に染めて、大声を上げた。

 それから舞台袖からわずかに顔を出し、客席の方を慌てた様子で振り返る。

 シェリスのこんなに慌てふためく様子は初めて見たような気もするので、とても新鮮な気持ちだった。


「それって今言うことなの?」


 たしかに何の脈絡もなかったな。

 

「……兄様の方が先に私を置いて結婚する癖に」


 まだ決まってはいないけれどね。

 もちろん、シャイナが受けてくれればうれしい師、そうなるように努力するつもりではいるけれど、シャイナが受けてくれるかどうかにかかわらず、僕はエルヴィラの次期国王として、お嫁さんを迎えないわけにはいかない。

 今はまだ父様が退位する意向を示されてはいらっしゃらないから、僕にもそんなに結婚をせっつかれたりすることはないけれど、そう遠くない将来、それは確実に訪れることだ。

 反アルデンシア派の方々に関しては、今のところ一応、先の事件が解決してからは動きを見せてはいないけれど、これから先も全く何もないかと聞かれれば、それは分からない。

 それに、ヴィレンス公子をはじめ、諸侯の方たちもシャイナを放ってはおかないだろう。 

 アルデンシアの王位を継がれるのは、おそらくクリストフ様になるのだ老けれど、アルデンシアと関係を持ちたい、あるいはシャイナ自身に興味があるのだいう男性は、これから先ももっと増えていくことだろう。

 シャイナは僕の事を嫌ってはいないと思うけれど、明確に僕に恋心を抱いてくれているかと言われると、自信はない。


「大丈夫。今回の開花祭、正確にいえばエルマーナ皇女のことが、きっと兄様にとってはいい方向に進ませるはずだから」


「エルマーナ皇女とのこと? 僕とエルマーナ皇女は何もないよ?」


 どういうことなのか、もっとシェリスに聞いてみたかったけれど、シェリスは、もう行くわよ、と先にステージへ向かって歩き出してしまったので、僕としても観に来てくださっている皆様をお待たせするわけにはいかないので、シェリスの後を追ってステージ中央まで進み出た。



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