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デートのお誘い 5

 ◇ ◇ ◇



「先日、こちらへお邪魔させていただいた際には、お誘いするのなら正式なお申し込みをとのことでしたので、こうして参った次第です」


 夕食を終えた歓談の席で、僕は改めてシャイナ姫にもうじき行われる降誕祭へのお誘いをした。

 もちろん、エルヴィラで行われる降誕祭を楽しんで貰いたくて誘っているのは当然なのだけれど、本音を言えば、僕がシャイナ姫とお出かけ、デートをしたかったからだ。

 今まで僕はアルデンシアまで何度も遊びに来ているけれど、シャイナ姫をお城から連れ出したり、ましてやエルヴィラまで招待できたことは––正確には招待を受けて貰ったことはない。

 降誕祭に限って言えば、シャイナ姫のお誕生日も一緒にお祝いすることが出来たら嬉しいのだけれど、流石にお誕生日のお祝いはアルデンシアのお城で行われることだろう。

 

「いい機会じゃない。シャイナ、そろそろあなたもアルデンシアからお出かけしてみてもいいのではないかしら? 私は今は一緒に出掛けられないけれど、この子が大きくなった時に、お姉さんとして、良いお話を聞かせてあげられるわよ」


 ファラリッサ様が膨らんだ––というほど見てわかるわけではなかったけれど、お腹を愛おしそうに撫でられながら援護してくださる。


「まあ、ファラリッサ。あまりシャイナを急かすのも良くない。シャイナだって、まだまだ親元が恋しい年ごろだろう。私は王妃だけをここに残すつもりなどないし、1人でアルデンシアを出ることに対して不安もあるだろうしな」


 メギド国王様は、シャイナ姫がエルヴィラの降誕祭に参加することを断る理由を説明していらっしゃるようで、その実、シャイナ姫を煽っていらっしゃるようにしか思えないような口ぶりで、悪戯気に目を細めて微笑まれた。


「アルデンシアを、お城を離れることに対して寂しがっているなどということはありません」


 シャイナ姫はメギド様に張り合われるかのように、私も降誕祭に参加させていただきますと、はっきり宣言した。

 良かった。どうやら無事にシャイナ姫を誘うことが出来たようだ。

 後は、シェリスが引き受けてくれた件だけれど。

 シェリスの方を見ると、シェリスは仕方がないわね、とでも言いたそうな顔で、小さく溜息を吐き出した。


「分かっているわよ、兄様」


 シェリスは立ち上がると、昨日今日と馬車に揺られて疲れてしまったから、湯浴みをさせていただきたいという旨を話して、その際にはシャイナ姫とも是非親交を深めたいのですと続けると、ファラリッサ様は大層喜ばれた。


「是非、シャイナと仲良くしてあげてください」


 お身体に障るということで、あまり長時間ベッドから離れることを良しとされていらっしゃらないファラリッサ様が寝室へとお戻りになられたので、僕とメギド国王様だけが取り残された。


「娘は自分の気持ちを伝えることが得意ではないだけで、決して貴殿を嫌っているわけではないのだ」


 それはファラリッサ様にも言われたことだし、僕も感じていることだ。


「私個人としては‥‥‥思うところがないわけではないが、1番に考えているのは娘の幸せだ。どうなるのかは、貴殿次第だがな」


「心得ております」


 メギド様の瞳が真っ直ぐに僕を捉え、僕もそれを正面から受け止める。

 

「ファラリッサはすでにその気でいるようだが‥‥‥貴殿がシャイナの心をものにした際には、私もそれを祝福しよう」


「‥‥‥つまり、それまでは歓迎されないという事でしょうか?」


 メギド様は不敵な笑みを浮かべられると、席を立たれたので、僕もそれに倣う。


「自信がないのであれば、今すぐ帰られても良いのだぞ? 今はまだ、シャイナにそういう話は来ていないが、貴殿のところもそういうわけではないのだろう?」


 シェリスは言わずもがな、父様と母様、それにエルヴィラのお城の皆も、僕がこうしてちょくちょくアルデンシアまでシャイナ姫を口説きに来ていることはご存知で、少なくとも今はまだ、僕に対して婚約だとか、そういった話が持ち込まれたという話は聞いていない。


「そうか。しかし、いずれシャイナにもそういった話が持ち込まれるようにはなるだろう」


 シャイナ姫はまだ社交の場にそれほど顔を見せられていらっしゃるわけではないため––せいぜいが音楽祭などの年に数度開かれる行事だろう––いまだ貴殿だけだがな、と、メギド様は複雑そうなお顔でおっしゃられた。

 娘––シャイナ姫が憧憬の目で見られ、異性を惹きつけるというのは、誇らしく、嬉しい事であるのと同時に、やはり許せないと思われる気持ちも御有りだという事だろうか。


「だが、まあ、しかし、貴殿を待っている際のシャイナは本当に嬉しそうでな。あんな表情をみせるということは、きっと娘も貴殿のことを憎からず思っているはずだ」


 真っ直ぐ、僕のことを好きだと思っているようだとおっしゃってくだされば良かったのだけれど。

 けれど、メギド様は、なんだかんだとおっしゃられつつも、どうやら応援してくださっているようなので、僕は頑張りますとお礼を告げた。


「私は別に貴殿の味方ではない。礼など不要だ」


 メギド様はまだこの後も公務が残っていらっしゃるらしく、僕が泊めていただく際にお借りしている部屋とは反対の方へと歩いてゆかれた。

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