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ミクトラン帝国 11 皇女探索

 そしてすぐに探索魔法を使用しようとした。


「お待ちください、ユーグリッド様。よもや、ミクトラン帝国全域に探索魔法を使用なさるおつもりではありませんよね?」


 寸でのところで思いとどまる。

 振り返ると、シャイナが険しい表情で僕の事を見つめていた。

 エルヴィラの王都アノリスから、アルデンシアの王都レンザレアまで、念話の魔法は届かない。それは城にいるとき、実際にシャイナと連絡を取ろうとして出来なかったことがあるため確実だ。もし連絡が取れるのなら、毎日何時でも話が出来るのだけれど。

 

「それでまた倒れてしまわれたらどうなさるおつもりですか。あの時とは違い、今日はこの後もなさるべきことがあるのですよ」


「また? それに、あの時って?」


 僕が倒れた時といえば、昨年末ごろの魔物の大群が押し寄せてきていたのをせき止め、殲滅したときくらいだと思うけれど。

 確かにあの時は魔物を殲滅することが主目的だったから、とりあえず大多数の侵攻は引きとめることが出来るだろうし、その後は多分フォリウム隊長たちがどうにかしてくれだろうと、信じていたというか、丸投げしていたというか。

 確かにシャイナと会ったけれど、それは夢の中での話で、そのことを 誰かに話したことはないのだけれど。シャイナと実際に会話をしたのは、その後アルデンシアに着いてからだし。

 僕がそう尋ねると、何故だかシャイナの顔がカァァァァっとリンゴよりも真っ赤に染められた。

 あれ? 僕、何か変なことでも聞いたかな? なんだか少し怒っているような、恥ずかしがっているような、照れているような雰囲気を感じる。


「シャイナ――っ危ない!」


 隣を飛んでいたシャイナが空中でバランスを崩し、危なく落下しかけたところで腕を掴む。空中だから正確なところは分からなかったけれど、13歳の女の子にしては随分と軽く感じられた。もちろん、失礼になるから、女性の身体情報に関する不要な言及をしたりはしないけれど。


「大丈夫? どうしたの、急にバランスを崩すなんて」


 万が一、体調でも悪かったらと思って、額を合わせて熱を測ってみる。顔は赤かったけれど、熱はそれほどでもないようで、治癒の魔法は必要なさそうだ。


「あ、ありがとうございます。私は大丈夫ですから少し離れていてくださいませんか」


 女性の体調を心配したら避けられた。

 パーティーでご一緒した女性がなんだかぼーっとしていらしたご様子だったため、どこか体調でも悪いのですかと尋ねたところで、そうみたいです、ですから看病してはいただけませんか、と頼まれたことはあったけれど、あれは考えてみれば照れていらしただけなのだろうと思える。

 しかし、シャイナが今更、僕と話したりしただけで照れてくれるとは思っていない。

 もちろん、照れているようなシャイナはとても――いつもだけれど、それにも増して――かわいいので、僕の前だけでだったら、いつでも照れていてくれてもいいのだけれど。

 もっとも、シャイナがそんな風になることなんて、今のところは思い描くことは出来ないけれど。いや、将来的に結婚したら、少なくとも最初はそうなってくれるかもしれない、なってくれるといいなあとは思うけれど。


「いえ、その、ユーグリッド様を避けているというわけではないのですが、すみません」


 まあ、他人の気持ちなど、僕が正確に知るすべはほとんどないし、女性に対してそういうことを尋ねるのは紳士として失格だ。

 それに、好きな女の子の気持ちを無理やり聞き出すなんて――それはそれで面白そうだな。

 ふむ。


「いやいや、何を考えているんだ僕は。今はそんな場合じゃないだろう」


 第一、違ったときのショックが大きすぎる。

 頭を振ってシャイナの方を窺うと、幸いなことに考えを読まれていたなどということはなく、きょとんとした瞳で、僕の奇行に首を傾げている様子だった。

 くっ、可愛い。

 こんな状況でなければ、デートのような気分で楽しめたかもしれないというのに、誘拐とか、拉致とか、本当に一体何をしてくれたのか。

 

「いや、だからそうじゃないんだって!」


「ユーグリッド様?」


 流石に変に思われたのか、シャイナの紫の瞳が、ジトっとしたものに細められる。


「……それはそれで興奮するな」


「……真面目になさっているのですか?」


 声に鋭さと、冷たさと、呆れの成分が強まる。

 これ以上やっていると、本気で見捨てられてしまいそうだ。

 話を戻そう。


「シャイナ。帝国全域に探索魔法を使用する、あっ、シャイナと手分けをすれば半分で済むかもしれないけれど、そういう事ではなく、何か考えがあるんだよね」


 僕のように力業ではなく。


「はい。どのような経路を辿ったにしろ、少なくともエルマーナ皇女殿下が、私たちのようにお城の窓から文字通り飛び出したとは考えにくいです。そして、ミクトラン帝国に住んでいらっしゃる方たちが、御自身の国の皇女様を見間違える、あるいは、何の印象も持たずに見過ごされるはずはありません」


 そうかもしれない。

 他国ならばともかく、自分の国の、しかもエルマーナ皇女は今のところたった1人のお世継ぎだ。

 

「でも、モンドゥム皇帝陛下は、かなり厳重な警護体制をとっていたはずだよ。これまでの話からも、今朝のあの狼狽えようからもそう感じた」


 それをすり抜けるほどにエルマーナ皇女が優れていらっしゃるのか、もしくは、もしいるのであれば、相手方が優れているのか。

 そして、もっともエルマーナ皇女に近い位置にいるであろうお城の方たちが気がつかなかったというのに、他の方が気がつくだろうか。


「……とにかく、ここでこうして探索、探知魔法を使っていても時間の無駄ですから、全く期待できないと思っていらっしゃるわけでもないのでしょう?」


 たしかに、夜中に行った酒場で話した感じでは、エルマーナ皇女は、もちろんシャイナやシェリスも、随分と有名というか、好感を抱かれている様子だった。

 人の想いというのは馬鹿にできるものではなく、普段合わないからこそ、ほんの少し、ちらりと見かけただけでも、記憶や印象に残っているかもしれない。

 それに、万が一の事態を考えると、魔力を無駄に消費することは避けたい。

 この後も、というよりもむしろこの後にこそ本番が控えているのだから。


「そうだね。じゃあ、街中に降りて、お城の近くから順に探してゆこうか」



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