ミクトラン帝国 3 夕食
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夕食の席では、僕たち兄妹と、シャイナとクリストフ王子、そしてモンドゥム皇帝陛下、フェアリーチェ皇妃、エルマーナ皇女が顔を合わせていた。
普段は家族での専用の食事室があるという事なのだけれど、この場にはいつも一緒に食事をしているこちらのご家族の倍以上の人数がいるため、少々部屋が窮屈に感じられてしまうかもしれないという配慮がされた結果だという事だった。
衛兵の方や使用人の方たちが食事をするために利用している部屋であるらしく、僕達が7人程度集まったところで狭く感じることはなく、むしろ広く感じられる。
もちろん、だからといって調度品などが飾られていないという事もなく、部屋の隅には花瓶に花が飾られていた。
料理の方もとてもおいしくて、僕もしばし昼の出来事を忘れて歓談を楽しんだ。
食後酒とデザートを納めたところで、モンドゥム国王の顔が引き締まる。扉のところに控えていらした給仕をしてくださっていた方に視線が向けられると、給仕の方は一礼されて、お皿の乗った台車と一緒に退席された。
「さて。それでは問題の話し合いを開始する前に、失礼だが、1度探索系の魔法を使用してもよろしいかな?」
モンドゥム皇帝陛下の言に、皇家以外の4人はそろって頷きを返した。
狙われていたのがエルマーナ皇女である以上、標的が皇家の人間であるだろうことはほとんど疑いがない。
つまり、もしかすると、この場、この城内でも、誰かが盗み見をしていたり、聞き耳を立てていないとも限らない。
もちろん、遮音障壁でも防ぐことは出来るのだけれど、外の音まで完全に遮断してしまうため、出来ることならば使用を控えようという事なのだろう。
モンドゥム皇帝陛下が魔法を使用された魔力を僕が感知した一瞬の後、部屋の隅に置かれていた花瓶が1つ勢いよく破裂した。
僕は咄嗟に障壁を展開し、飛んできた割れた花瓶の破片はこちらに届く前に絨毯に落ちた。
シャイナがそっと右手を向けると、割れた花瓶が修復され、絨毯の濡れも瞬く間に乾かされる。
シェリスが立ち上がり、倒れ落ちたままだった花を拾い上げ、浄化の魔法で花を綺麗にしてからそっと花瓶に挿しなおした。
「大変申し訳ない。謝罪しよう」
モンドゥム皇帝陛下が座ったまま頭を下げられて、再度、遮音障壁を展開された。
「食事の際の会話でしたら、特に問題はないのではないでしょうか。それほど、今回の事を仕組んだ相手にとって意味があった会話とは思えません」
食事の最中の雑談は、本当にただの雑談だった。
例えばエルマーナ皇女が開花祭で踊られる曲の曲目だとか、昨冬にアルデンシアで行われた芸術祭でのシャイナの演奏のことだとか。
今回の事を仕組んだ何者かが知りたかったような内容ではないだろう。
もちろん、お姫様の個人的な話を盗み聞きしたかったという理由であれば話は別だけれど。
念のため、今度は僕ではなく、シェリスが、先程モンドゥム国王陛下が使用したのと同じ系統の、対監視傍聴用の魔法を使用する。
「今度は大丈夫なようです。私に感知できた魔法的、あるいは物理的な監視の気配はありません」
シェリスを疑うような人物はこの場にはいない。
それは、魔法を使用したのがシャイナでも、エルマーナ皇女でも、もちろんクリストフ王子でも同じだろう。僕やフェアリーチェ王妃でも。
「助かる。礼を告げよう、シェリス王女。では、改めて、昼にエルマーナが襲われていたという件に関して聞かせて貰えるだろうか」
「はい」
僕は委細を漏らさず、自分で見た範囲の事を報告した。
たまたまエルマーナ皇女とブランさんが襲われていた際の声を聞いたこと、そしてそこで見た光景とあの場でブランさんに聞いたこと。
「――という事でして。ブランさんの話――私が強引に聞き出してしまったことですので、彼女に対する叱責はしないでいただけると助かります――によりますと、陛下が何かご存じなのではないかと」
これは当然、僕達、ここにいる全員が知っておくべき内容だ。
たまたまあの場に居合わせたのがエルマーナ皇女だったため、無意識的にミクトラン帝国の皇家への私怨、あるいは恨みか何かだと決めつけていたけれど、あるいは、あえて言うならば、支配者への反感から起こしたような行動であるのならば、僕達や、シャイナ達が標的にならないとも限らない。
現時点で断定のしようがない以上、護衛を強化するという方法も取れなくはないのだろうけれど、それでは多少窮屈だし、不安を拭い去ることも難しいだろう。
「……ご存知の通り、我が国の歴史は貴国、エルヴィラやアルデンシアとは比べるまでもなく浅いものだ」
エルヴィラが約4000年ほど、そしてアルデンシアが2000年という、大陸でも群を抜いて歴史のある国家であるのに対して、ミクトラン帝国が今の体制になったのは約200年ほどと短く、現在の体制に移行した際に反感を持っていた、あるいは持っている層が、今でも一定数は存在しているということらしい。
「――それで、この節目である開花祭に暴動、ないしはそれに準ずる騒動を起こし、現在の皇家の権威を失墜させる、そうでなくとも不満、不安を増幅させることが狙いだという事でしょうか」
シャイナがあくまでも冷静に告げながら、カップの紅茶に口をつける。




