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デートのお誘い 3

 18時間というのは、休みなく馬車を走らせ続けた場合にかかる時間の事であって、実際には、1日のうちで馬車の走ることの出来る時間はもっと短い。僕達だって食事や休憩の時間を全くとらないというわけにはいかないし、荷台を引っ張る馬達にも休みを取らせなくてはならない。幸いなことに天候には恵まれて、2日後の昼過ぎ、僕達を乗せた馬車はアルデンシア王国まで到着した。

 いつもとは違って、今回は訪問する旨を記した封書を送っていたので、僕達がアルデンシア王国のお城に辿り着いた際には、国王であり、シャイナ姫の父親であるメギド様シャイナ姫にお出迎えを受けた。


「よくぞいらした。ユーグリッド王子、シェリス姫」


 メギド国王が、涼やかな声とともに手を差し出してくださった。

 光沢のある煌びやかな赤いマントを腰の辺りまで垂らし、いっそ騎士の方のように腰から剣でも下げている方が似合いそうながっしりとした体格が着ている服の上からでもはっきりとわかる。

 それでいながら、完璧な曲線を描く細い顎、優美な眉、力強く、威厳を感じさせる黒い瞳。


「ファラリッサがこの場に居ないことを容認していただきたい。王妃は先日、新たな家族を宿したことが分かったので、部屋で安静にしているようにと私が休ませている」


 メギド国王がとても嬉しそうな表情でおっしゃられるので、僕も自分の事のように嬉しくなった。


「それはおめでとうございます」


 シャイナ姫の方はいつも通りクールな表情で、僕が顔を向けると、小さく会釈するようにしてくれた。

 そうか、シャイナはお姉さんになるのか。

 もちろん、まだ弟なのか妹なのかは分からないけれど、僕もシェリスが生まれると分かった時にはとても嬉しかったし、喜んだから、シャイナ姫もきっと同じ気持ちでいることだろう。


「王妃は部屋から出ることは出来ないでいるが、その分も私たちが歓迎しよう」


 僕たちも続けて挨拶をした。


「お久しぶりでございます、メギド様。シェリス・フリューリンクです」


 僕に続いて、花のような笑顔を浮かべたシェリスに、メギド国王も丁寧な対応をされて、それからシャイナ姫の方を見やられた。

 シャイナ姫は父王様のお顔を見やられると、1歩前に進み出てこられて、シェリスと、挨拶を交わした。シェリスとシャイナ姫の邂逅は、正式なものとしてはこれが初めてのものとなる。


「シェリス・フリューリンクです」


 シェリスは先程、メギド国王に向けたものよりも、もっと張り切った笑顔を浮かべていた。

 そう、まるで、面倒くさい大人を相手にするときのような。

 いつもシェリスを見ている僕からしてみれば、その違いは丸わかりで、まさかこの公の場で指摘するわけにもいかず、初見のシャイナ姫は気付かないだろうとは思いつつも、内心では冷汗が流れていt。

 一体、シェリスはどうしたんだろう。

 せっかく、他国に友達が出来るかもしれないというチャンスなのに。


「シャイナ・エルフリーチェです」


 シャイナ姫の表情は––正確には綺麗な眉がわずかに反応していたけれど––ほとんど動くことはなく、考えの窺い知れないものだった。

 ここにはいらっしゃらない王妃様に言われたことだけれど、シャイナ姫はいつも僕が来ることを待ってくれているほどには歓迎してくれているはずなので、たぶん、外に表していないだけだろう、と思いたい。

 シェリスとシャイナ姫の挨拶が済んで、部屋へと案内していただいた後、僕達はご静養中であるファラリッサ様に挨拶させていただく機会をいただいた。



 ◇ ◇ ◇



 ご自室のベッドでお休み中の、傍らに産婆さん方やメイドさんたちが居らっしゃる中で、ファラリッサ様のご容態はお元気そうだった。


「ようこそいらっしゃいました」


 心配されながらも、静かに上体を起こされて挨拶をしてくださったファラリッサ様は、僕達へと顔を向けられた。


「こんな格好でごめんなさいね」


「お気になさらないでください」


 ゆったりとしたローブ姿のファラリッサ様の隣では、すぐに近寄られたメギド国王様が優しく、力強く、その手を握っていらっしゃる。

 メギド国王が、文官でいらっしゃるのか、書記官らしき方に、公務のお時間ですと呼ばれて、シャイナ姫も、お勉強の時間らしく、どこかへ向かわれるようで、部屋を出て行ったのにシェリスが付いていっていた。


「もうしばらく、多分、冬頃になると言われているから、まだまだ動いていても平気なんですけれどね」


 たまたま今日の運動は朝に済ませてしまっているの、とファラリッサ様は微笑まれた。


「いまはここからそんなに動くことは出来ませんけれど、私も国王様とシャイナの説得に立ち合うくらいはできると思いますから」


 ファラリッサ様には当然、僕達がアルデンシアまで来た用事をご存知のようだった。

 僕は1人でも––多分シェリスがいるだろうから、2人にはなっていただろうけれど––シャイナ姫を説得するつもりでいたのだけれど、ファラリッサ様が立ち会ってくださるというのは心強かった。


「シャイナの事、よろしくお願いしますね」


 その後、僕もシャイナ姫とシェリスのところへ向かおうと、この時間、シャイナ様は図書館にいらっしゃいますと教えてくださったメイドさんに案内されながら、2人の下へと向かった。

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