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デートのお誘い 2

 シャイナ姫の容姿は目立つから、そのままの格好でアルデンシアまで連れ出そうものなら、お祭りを楽しむどころではなくなってしまうだろうことは簡単に予想できた。

 シャイナ姫をお祭りに誘って、帰って来てから、僕はお城の被服室に通い、お祭りに向かうための変装をする服を縫製をすることにした。

 私も、とせがむシェリスの分もことにしたため、2着分だ。

 勿論、仕事や勉強などの時間を削るわけにはいかなかったため、必然、シャイナ姫に会いに行くための時間や、シェリスと遊ぶ時間が削られてしまったのだけれど、シェリスは僕が服を作ろうとして、デザインを描いているところにやって来て、机の対面に座ってニコニコとしていた。


「ねえ。シャイナ姫のところに私が行ってサイズを測ってきてあげましょうか?」


 シェリスはシャイナ姫と会ったことが––正確には話しをしたことがない。

 勿論、パーティーで演奏しているところは一緒に見たし、僕が何度も話しをしているから、顔やなんかの容姿については間違えたりすることはないだろう。

 それでも許可は出来なかった。


「ダメだよ。シェリス1人でアルデンシアまでなんて危ないじゃないか」


 兄様は1人でお出かけになるじゃない、と言われると痛いのだけれど、シェリスは女の子だし、まだ9歳だ。あまり言及すると、もう9歳よ、と怒られるから、言いたくはないのだけれど、とにかく、隣国とはいえ、1人で行かせるのは不安過ぎる。


「じゃあ、兄様と一緒ならいいでしょう?」


 可愛い妹の頼みは極力叶えてあげたい。

 ここで、それじゃあ、父様に許可を貰ってこれたらいいよ、などと言おうものなら、どのような顔をされるか目に浮かぶので、勿論そんなことは言えない。(父様が、愛する娘を、僕と一緒で隣国までとはいえ、そうほいほいとお城から外へ行かせるわけはないだろう)

 それに、僕1人ならばちょっと行って帰って来られるけれど(できるというだけで、多分シャイナ姫に会ったら、またですか、と怒られるだろうことは明白だ)、シェリスと一緒に、となると少し話は変わってくる。

 僕だけならばともかく、2人で行くとなると、それはもう訪問になってしまうわけで、手紙やら、お土産などを持参して、馬車で向かわなくてはならなくなる。それでは時間が掛かり過ぎる。

 

「それに、兄様1人で行ったところで、シャイナ姫にサイズを測らせてくださいって、何て言って頼むつもりだったのよ?」


 シェリスの指摘に僕は言葉を詰まらせた。


「うっ‥‥‥そ、それは、ファラリッサ様とか、向こうのお城のメイドさんに、シャイナ姫の服のサイズをちょちょっと聞き出したりして‥‥‥」


「そんなの、ほいほい教えてくれるわけないじゃない」


 シェリスがため息をつく。

 そうだよね。ファラリッサ様ならば、「あら、構いませんよ」と教えてくださるかもしれないけれど、所詮顔見知り程度––自分で言ってダメージが大きかったから、知り合いにしておこう––の僕に、服のサイズ、ましてや3サイズなど教えてくれるとは思えない。というか、まかり間違ったら、変態として警備の騎士の方に突き出されてしまうかもしれない。控え目に言っても、紳士としての行為からはかけ離れている。


「だから、私も一緒に行くのよ。私なら、兄様がシャイナ姫に服をお送りしたいと言っているのだけれど、とか何とか言って聞き出せるじゃない」


 それに、兄様をここまで夢中にさせるシャイナ姫と、話をしてみたいと思っていたし、とシェリスは口に手をあてながら、何かぶつぶつと呟き始めた。


「‥‥‥分かったよ。父様‥‥‥は多分無理だろうから、母様に許可を貰いに行くところまでは一緒についていってあげるよ」


「何言ってるの、兄様?」


 あれ? 僕、何か間違えた?

 僕が、シェリスの外出の許可を貰いに行くための口添えをしにゆくという話だったと思っていたのだけれど。


「兄様が私にお願いするんでしょう? 私は妹と同じくらいの年頃の女の子の身体のことが知りたいから、是非実の妹の清らかなお身体を貸してください、って」


「あの、シェリスさん。それは大分事実を誤解させるような言い方だと思うんですけど‥‥‥」


 いや、まあ、どうせシェリスの服も用意するんだから、結局シェリスのサイズも図ることにはなるのだし、身体を借りなくちゃならないことに変わりはなかったんだけれど。

 ついでに、街に出たら、変装道具として、帽子やら、眼鏡やら、色々見てみたいわ、と、シェリスはたまの外出に思いを馳せている様子だった。

 色々と思うところはあるにせよ、シェリスのこんな風に楽しみにしている、嬉しそうな様子を見られたのなら、まあ他の事はどうでもいいかと思ってしまった。



 ◇ ◇ ◇



 案の定、父様は少し––普通の人から見れば大分––シェリスの外出について渋っては居たのだけれど、母様は快諾してくださって、僕達はその日のうちに出発した。

 収納の魔法、どこかの空間に物を好きなだけ、自分の魔力が許す限り、仕舞っておくことが出来るという魔法のおかげで、荷物の心配は全くと言って良いほど、僕達に関しては問題なかった。

 流石に2人だけ、というわけにはいかず、護衛の騎士の方や、メイドさんたちもいらしたので、荷物が全くない、ということにはならないので、それなりの時間が掛かることになるわけだけれど、会うまでの時間を待つのも楽しいことだ。


「そろそろ暗くなってきたから、今日はここまでにした方が良いのではないですか?」


 武術武器術の指導をつけてくださっている騎士の方達に提案すると、では、直ちに宿を探して参りますと言われたため、馬車で良いですよ、と断ろうとしたのだけれど、考えてみれば、今日、ここに来ているのは僕だけではなく、シェリスや、メイドの皆さん、つまりは女性も一緒なのだ。彼女たちに、馬車の中で夜を明かせと言うのは酷だろう。


「いえ、ユーグリッド様。私どもの事は構わないのですが、御身の安全を考えますと」


「でも、どこに居ても、皆さん、夜の番は交代でこなされるおつもりでしょう? ですから、何も心配などしていませんよ」


 騎士やメイドの皆さんが、何故だか照れていらっしゃるようなお顔を浮かべられて、シェリスが隣で微笑んでいた。


「では、宿の方、お願いできますか?」


 お任せください、すぐに帰還いたします、と、どこか戦場にでも行くのかのような物言いで出かけた騎士の方を待ち、僕達はたまたま全員で泊まることが出来るだけの部屋が空いていた宿で夜を明かした。

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