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男の戦いの始まり 6

 ヴィレンス公子は昼食の時間にはちゃんと戻って来た。

 僕たちの方を見るとかあっと顔を赤くして、硬い動きで歩いてくる。

 その心情は分からないでもない。

 ヴィレンス公子がシャイナを好きになった詳しい経緯は分からないけれど、とにかく、好きな女の子の目の前で、相手が年上とはいえ、自身から持ち出した決闘で醜態――とおそらく本人は思っていることだろう――を晒したのだ。そのまま帰ってしまわず戻ってきたことにどれ程の勇気がいることだろう。

 その日の昼食は、メギド様やファラリッサ様とご一緒してはおらず、僕達だけ、子供だけでいただいていたということも、ひとつの原因としてはあるのかもしれない。


「ご心配をおかけして申し訳ありませんでした」


 ヴィレンス公子は席に着いていた僕たちの前で頭を下げた。

 従者の方が後ろで微笑んでおられるので、おそらくは何らかのやり取りがあったのだと思われたけれど、そのことに突っ込んで聞くのは無粋だろう。

 明日にはシャイナの13歳の誕生日のパーティーも開催される。

 それにはアルデンシアのお偉いさん方や、貴族の方も出席して、お祝いに来られるという事だ。


「そ、そうなのですか。では、僕は今日、この後、そう、アルデンシアの街並みを見学に、少しばかり出かけても良いだろうか?」


 僕はもちろんシャイナの誕生日のことは知っていたけれど、ヴィレンス公子はご存知ではなかったらしい。

 きっと、シャイナへのプレゼントを買いに行きたいのだろうな。

 そんなあからさまな発言に、ライバルが相手のプレゼントを準備するのだというのに、何だか胸がほっこりする感じがしていた。

 

「でしたら私がご案内いたしましょうか?」


 分かっていて言っているのか、それともただ思っただけなのか、シャイナがそう申し出る。


「えっ……いや、それは、その‥‥‥」


 少し頬を赤くしたヴィレンス公子の視線がシャイナと僕の間を行ったり来たりして、時折宙を見上げたりもしている。

 シャイナと一緒に出掛けてはみたい。けれど、それではシャイナのプレゼント選びは出来ない。そして先程決闘で負けてしまったため、あからさまに僕を除いてシャイナと2人で出かけることは自身のプライドが許さない。大体そんなところだろうか。


「えーっ、せっかく遊びに来ているのだから、たまには私と2人で遊びましょう。お兄様は毎月いらしているから違うかもしれないけれど、私は久しぶりなんだから。お兄様も何度もアルデンシアには来ているのだから案内くらいは出来るはずよ。それに、女性がいない方が良い場合もあるし」


 ヴィレンス公子が言葉に詰まってしまう前の絶妙なタイミングで、シェリスが合の手を入れる。ともすれば、我儘にもとられてしまうかもしれないけれど、シェリスはそんな感じは全くさせない、絶妙な調子でシャイナの手を握った。

 相変わらず良くできた妹だ。もちろん、本心からもそう言っているのだろうけれど。

 

「それとも私と一緒は嫌だった? 一緒にお菓子を作ったり、ヴァイオリンやピアノのセッションをするのも面白いかもしれないわね。他にも2人が出かけている間、女の子同士の秘密の遊びをしましょう」


 シャイナは少し驚いていた様子だったけれど、そのようなことはありません、是非、とシェリスの提案を受けていた。

 まあ、僕とシェリスは、元々シャイナの誕生日をお祝いに来たわけで、2人とも既にプレゼントの準備は済ませている。

 以前はドレスを贈ったこともあって、また違うドレスをデザインするのも良いかとも思ったけれど、僕とシェリスで一緒にエルヴィラの街を回って選んだもので、きっと喜んでもらえるだろうという自信はあるし、そうなったら嬉しいと思っている。


「そうですね。先程はあのような事になってしまいましたが、シャイナの事を抜きにすれば、私もヴィレンス公子とは友好を深めたいとは思っていましたから」


 最終的には相容れないのだとしても、それまでは良いライバル関係であり続けたい。

 そういう相手の存在は、たしかにやきもちを焼いたりする原因にはなるけれど、自分の緩みを引き締める存在にもなりうるはずだ。


「ヴィレンス様。エルヴィラの次期国王様と関係を持っておくことは悪いことではないかと存じます」


 ヴィレンス公子の後ろに控えていた女性がそのように口添えをしてくれる。

 それが打算からではないことは、一瞬前に僕の方へと向けてくれた視線で分かっている。それは何も僕のためのものではなく、おそらくは滅多に城から出ないヴィレンス公子が、他国に友人と呼んでも差し支えない関係の相手を作ることを歓迎して、僕の案に乗っかってくれようとしてくれているということなのだろう。

 そして、表向きはそれが打算であるかのように告げることで、ヴィレンス公子の決断を誘導する役割も果たしてくれている。


「そ、そうか……。たしかに、それは重要な事かもしれない」


 選ぶのに時間が掛かるかもしれないし、他にも何か問題があると困るので、僕達は昼食を終えてすぐに出発することにした。

 

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