男の戦いの始まり 2
他国に着いたら最初にすることは決まっていて、その国の最高位者、国王様、王妃様への挨拶だ。
玉座の前に通されても、いまだに嫌な予感が消えなかったため、早くシャイナの顔が見たかったのだけれど。
「いらしてくださってとっても嬉しいわ」
エルーシャ様が歓待してくださるのはいつもの事で、とてもありがたいことだと感じていたのだけれど、メギド様はいつもと違って、何だか楽し気なご様子だった。
普段ならばもっと、なんというか、こちらを品定めするような、僕の事を試しているかのような視線をむけてこられるのだけれど。
「シャイナとクリストフは今、とある客人の相手をしていてな。この場に出てこられなかったことを許して欲しい」
メギド様がおっしゃられる「お客人」というのは、おそらく例の馬車、トルメリアの方の事だろう。
普通ならば、他国からの使節の方を接待するのは外交官の役目であるはず。今、この玉座の間に居並ぶ従者の方のことを考えてみても、そちらに出られないほどに人手が不足しているようには見えない。
つまり、御年2歳になられたばかりのクリストフ様は除いて考えて、シャイナが直接相手をするほどの方。そして、表に停められていた馬車の紋様。
「いえ。トルメニアの王子様がお相手では当然のことです」
トルメニア公国の公子様の相手をするのは、やはりアルデンシアの王女様でなければならないだろう。クリストフ様ではまだ幼過ぎる。
「ヴィレンス公子のことはご存知だったのか? ユーグリッド殿は」
「お名前と、シャイナ姫、それからシェリスとほとんど同年齢だという事以外は何も」
トルメニア公国まで訪れたことはない。
しかし、出席したパーティでは、トルメニアに限らず、他国の情勢は少なからず耳にする。もちろん新聞なんかも同様だ。
「シャイナとヴィレンス殿はテラスにいるはずだ。どうやらこれから先、長く付き合うことになりそうなので、交流を深められると良いな」
国王様と僕の視線がぶつかり合う間、ファラリッサ様の心配そうな視線が、僕とメギド様の間を行ったり来たりしていた。
「そうですね。僕は引く気はありませんけれど」
僕の他にもシャイナに想いを抱く人が現れても何も不思議はない。
月の光を束ねたような、さらさらで真っ直ぐな銀の髪。
神秘的な宝石のような、綺麗な紫の瞳。
大理石のように真っ白な肌。
折れそうに細い腕や手首。
そんな、お人形のような美貌はもとより、普段はクールなのに、むきになったりする意外と負けん気の強いところや、僕が尋ねてくるのを待ち構えて、狙いすましたかのようにヴァイオリンで出迎えてくれるところ。もちろん、その演奏も。
それでいて、普通の女の子のように、多分、やきもちを焼いたりしてくれたところも。
いや、あれはやきもちとは違ったのかな?
とにかく、どこの誰が相手でも、シャイナの隣を譲るつもりは毛頭ない。もちろん、今現在僕がシャイナの隣に立つことが出来ているかと聞かれたら、それは確かに少し返答に困るかもしれないけれど。
「そんな風に想われて、あの子も幸せでしょうね」
隣で僅かにシェリスが身じろぎする。
ほんの一瞬だったから、この場にいる他の誰にも分らなかったかもしれないけれど、1番近くにいた僕には伝わって来た。




