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デート 9

 翌朝。

 朝食を終えて、シェリスがシャイナを連れてどこかへ出ていった後、残されたテーブルで父様と母様に昨夜の事を報告した。

 フェイさんか、もしくは他の誰かからの報告書が挙げられているかもしれないけれど、一応、当事者としての責任は果たさなくてはならない。


「それで、シャイナ姫には話さなかったのね」


 父様は黙ったままただ頷いてくれたけれど、母様は少し微笑んでいるように見えた。


「ユーグリッド。あなたはシャイナ姫には伝えないと決めたようだけれど、私がファラリッサ王妃にお手紙を書くのはかまわないでしょう? 大丈夫よ。『絶対にシャイナ姫には話さなように』と念を押すから」


「母様、それは」


 それは前振りというやつなのではないだろうか。

 そう、例えるなら、学院――お城でもそうだけれど――やなんかの授業で、初めて飛行の魔法を練習するときに、僕も最初はセキア先生に習ったのだけれど、その時だって「私が掴んでいますからご安心ください」と言われて安心していたら、いつの間にか1人で宙を飛んでいたし。

 結果からすれば、無事飛行の魔法を使えるようになったので、良かったのだけれど。

 そういえば、厨房のニュクスさんも、お子さんの料理に苦手な食べ物を、ある時はすり身に練り込んだり、ある時はサラダと一緒に細かく刻んだりして出しているという話を聞いたことがある。

 僕もシェリスも、好き嫌いをするなと言われて育っただったし、事実嫌いなものなんてなくて、出されるものは何でもおいしく食べられる環境にいるから、そんなことは、多分なかったんじゃないかと思っているけれど。

 それはともかく。

 おそらく、ファラリッサ様は母様の意図を理解してはくださるだろうけれど、それをどうするおつもりなのかは、正直、分からない。


「母様。その手紙ですが、せっかくですから、僕がシャイナをアルデンシアまで送る際に一緒に持って行きますよ」


 母様やファラリッサ様のことを信用していないわけではなくて、ただなんとなく気になるというか。

 何となくだけれど、この話題を続けていると不利になりそうな気がする。


「この後、シャイナと約束をしているのでこれで失礼します」


「約束?」


 おそらくシャイナとシェリスがいるだろう部屋へ向かおうと思って席を立つと、母様が面白そうに尋ねてきた。


「ええ。今日は一緒に双六をしようと、昨日デートに行った際に約束していたんです」


「もしかして、それってあの?」


 おそらく母様が想像している通りのものだろう。

 グリセラさんは版が更新され続けていると言っていたから、全く同じなのかどうかは分からないけれど。


「懐かしいわね。私も学生の頃、友人とよく遊んだわ」


 もちろん、国王様とも、などと母様がおっしゃるので、僕は思わず父様の顔を見た。


「妻となってからの話だがな。学生の頃は遊びに呼んでもまるでお城までは来てくれなかったし、仕方がないから私が遊びに行ったら怒られるし」


「当り前ではないですか。護衛もつけずに、おひとりで、しかも女子寮に堂々といらしたのですよ。皆歓迎していたから良かったようなものの……」


 本っ当に恥ずかしかったですと母様は顔を赤くされた。

 それを見ている父様の顔はますます緩んでいて、「ちゃんと反省してください」と、また母様に怒られていた。

 父様と母様の出会いは何度か聞かされたことがある。

 その日、父様は街の視察に出かけていて、たまたま学院のお祭りで売り子と造り手を兼任していた母様と出会われたらしい。

 母様の造られた林檎のパイをひと口食べられた父様は、厳めしく「このパイは貴女が?」と尋ねられた。

 母様が、王子様のお口に合いませんでしたでしょうかと進み出ると、父様は、不愛想に、ぶっきらぼうに、礼を告げて、その場から立ち去られたのだという。

 それ以後、父様は良く学院にお顔を出されるようになったということだ。

 ある時は座学の授業中、ある時は実技の訓練中、気分屋のごとく出没なさる父様には、母様はもちろん、今は隠居なさっているお爺様とお婆様も、父様の奔放ぶりには大分困っていらしたという事だった。


「――あら、随分と引き留めてしまっていたわね。ごめんなさい、ユーグリッド。シャイナ姫が楽しんでくれるといいわね」


 父様と母様は喧嘩をしているようでも、根元のところではお互いに甘々なので、結局いつだってノロケをみせつけられることになるのだ。

 今日は短く終わったところだけれど、母様の事となると父様は際限なく語られるので、母様につれなくデートを断られた話など、何度聞かされたことか。

 2人の話は素敵だとは思うけれど、蜂蜜の上からたっぷりと砂糖をかけたドーナッツような話ばかり聞かされても困ってしまうわけで。


「はい。失礼致します」


 あまりシャイナを待たせるのも悪い。

 あの時の様子からしても、シャイナは多分、双六をするのを楽しみにしてくれているはずだ。もちろん、僕がそうであって欲しいという願望を通して見ているから、そう見えているだけなのかもしれないけれど。

 これからシャイナと、それからシェリスとも過ごす今日の事を考えて、胸が一杯になる気持ちで僕は食室を失礼した。


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