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デート 8

 向かったのは良いのだけれど。

 扉に手をかけようとして伸ばした手を引っ込めて、慎重に、音をたてないように、耳をピタリとくっつけた。

 当たり前だけれど、しんと静まり返っていて、物音ひとつ聞こえてきたりしない。

 小さく、小さく、扉をノックしてみたけれど、中で誰かが動いたりする様子は感じられなかった。

 念のため、探索の魔法を使ってもみたけれど、やはり、室内には知っている2人だけ、シャイナとシェリスしかいないらしい。そして、2人はちゃんといるらしかった。


「何をなさっていらっしゃるのですか、ユーグリッド様」


 いきなり背中から声をかけられて、びっくりして振り向くと、フェイさんが驚いているように目を瞬かせていた。


「シャイナとシェリスの様子が気になっただけだから! 決して夜這いとか、そんなつもりはこれっぽっちもなかったから!」


 いや、もしかしたら、それはそれで失礼だと思われるのだろうか。

 年頃の女性としては、夜這いに来るくらいに魅力的でありたいと思っているのではないだろうか。

 そんな馬鹿な考えが頭をよぎったけれど、一瞬で破棄した。あまり長く考えていると、さっきの言い訳っぽくなってしなった状況説明と相まって、不必要に怪しまれてしまうかもしれない。


「ユーグリッド様。よろしければ私が中の様子をご報告いたしましょうか?」


 フェイさん達は交代制で、夜回りをしつつ、この部屋の番もしてくれているという事だった。

 それで今まさに交代のためにここまで戻ってきたところなのだという。


「ありがとう。僕も女性の寝室に勝手に入るのは躊躇われたところだったから、だけど様子は確認したかったし、助かるよ」


「いえ。この程度の事、感謝されるほどの事ではございません」


 フェイさんが音もなく扉を開き――当然その間から中を覗くようなことはしない――暗い室内へと消えてゆく。

 何だかそわそわとして落ち着かない。

 別にセキア先生やメイドさんたちの事を疑っているわけではないのだけれど、何というか、まあ、僕も健全な男性だったということだ。

 もちろん、全くやましい気持ちがないかと聞かれれば、あるいは全く気にならないのかと言われれば、自信をもって言い切ることが出来ないのが何とも情けないというか、言い訳のしようもないところなのだけれど。

 あぁ。やっぱり、セキア先生たちを信じて部屋で待っていれば良かった。

 別にシェリスの部屋にいることに抵抗はなかったし、ベッドで寝る訳でも……。


「……ということは、今シェリスとシャイナが眠っているのは僕のベッドという事か」


 シャイナは多分気にもしてくれないだろうから意味があるとは思えないのだけれど、いや、でも、多分毎日メイドさんたちがシーツや布団や枕を洗濯してくれているのだから、別に気にすることではないのかもしれない。


「――ユーグリッド様」


「はいっ! 何でしょう!」


 そんな思考の堂々巡りをしていると、確認してきてくださったフェイさんが報告に来てくれた。


「シェリス様もシャイナ姫様も、ぐっすりとよくお休みになっていらっしゃいます。内装は乱れておらず、別段、何かあった様子はございません」


 いつもと違うところといえば、机の上にカードのケースが置かれていたことくらいだったらしい。おそらく、眠るまでの間にシャイナとシェリス、もしかしたらセキア先生も一緒に遊んでいたものだろう。


「良かった。こっちは何もなかったということだね」


 彼ら――ディリーア卿とおそらくその配下か同盟者――の言い草では、他にも部隊があったということだけれど、そちらに関しては問題なかったという事か。

 僕がほっと胸を撫で下ろしていると、フェイさんがなんだかとても眩しい笑顔を向けてきていた。

 何だろう。これ以上ないというほどに素敵な笑顔なのに、何故だか不安の感じるように、胸が苦しくなっている。


「ユーグリッド様。今、こちらは、とおっしゃられましたでしょうか?」


「な、何のことでしょう? フェイさん。もう夜も遅いですし、もうお休みになられた方が良いのではないですか? 夜更かしは美容の大敵ですよ」


 そうやって完璧な笑顔を浮かべてはみたつもりだったのだけれど、どうやら通じなかったようで、何故そうやっておひとりで危険を冒されるのですかと怒られてしまった。


「父様と母様には報告しても良いけれど、シェリスとシャイナの耳には絶対に入らないように注意してね」


 僕が言うまでもない事だとは知っているけれど。


「大変申し訳ありませんが、何故でしょうか? 今回の事をお伝えすれば、シャイナ姫の好意も、いえ、そこまでとはいかずとも、何らかの進展は望めるのではないでしょうか?」


 フェイさんの態度からは、わずかに憤りのようなものを感じられた。


「当然です。これは私だけではなく、ここへ勤めているメイド全員の気持ちですが、ユーグリッド様は私たちの主でいらっしゃいますから。私たちは、もちろん、フォルティス様にも、エルーシャ様にも、シェリス様にも同様に敬意と好意を持っておりますが、それはユーグリッド様も同様でございます。私などは、精々5年ほどしか仕えてはおりませんが、気持ちは同じです。そんな敬愛すべき主人の求婚を断る方がいらっしゃるなど、到底信じられません。もっとも、シャイナ姫はまだ御年10歳でいらっしゃいますから、色々と難しいところもあるのでしょうけれど」


 僕の――正確には僕たちの――ことを、随分と良く思ってくれていて、僕ももっとふさわしい者でありたいと改めて思わされた。


「ありがとう。でも、好きな人を守るなんてさ、こんな当たり前の事こと、自分から誇らしげに言うのは逆に恰好悪いと思うんだよね」


 僕とフェイさんは互いに譲らず、しばらくの間見つめ合う格好になっていたけれど。

 やがて、フェイさんは目を閉じて、ため息を吐き出された。


「承知致しました。それが殿下のご意思とあらば」


「ありがとう。僕も心配されないようにもう寝るよ」


 明日の朝、いや、もう今日の朝かな。シャイナがヴァイオリンの練習を始めるときに、目が赤いとか、隈が出来ているなんて言われたくはないからね。

 フェイさんに頭を下げられながら見送られて、僕は、まさかシェリスのベッドで眠るわけにもいかず、貴賓室のベッドを使わせて貰った。

 

 


  

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