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デート 7

 ◇ ◇ ◇



 ユーグリッド第1王子と、アルデンシアの姫君であるシャイナ姫が大喧嘩をしたらしい。

 なんでも、いつまでたっても結婚の話を受けてくれないシャイナ姫に、とうとうしびれを切らしたのか、エルヴィラの王城に滞在中のシャイナ姫を残して、ユーグリッド王子は諸国放浪の、嫁探しの旅に出かけられるらしい。

 出会ってから、6年。

 一向に進展する気配のない関係と、何の見返りもない一方的な恋情にお疲れになったご様子。

 殿下は見切りをつけられたらしい。

 残る問題は、あれだけこちらから求婚していたと、国内外問わず広く知れ渡っているため、対外的な印象が良くないという事だけ。


「――というような噂が流れれば、これ幸いにと動いてくれるんじゃないかと思っていたけれど、まさか初日からいきなりとはね。自分から仕掛けたこととはいえ、僕も少し驚いているよ」


 自分で考えた原稿を読み直して、僕はさらに肩を落とした。

 何度読んでも書いてあることは最低だ。

 本当にこの方法が1番良かったのかどうかは分からない。

 もっとよく考えた方が良かったのかもしれないけれど、素早く解決することを選んだ結果だ。シンプルに、分かりやすい動機をと思っていたのだけれど、やはり別の案の方が良かったかもしれない。


「それにしても、こんな杜撰な計画で、本当に乗って来るような輩がいるとはね」


 僕はシェリスの部屋で、武装した集団と向き合っていた。

 シャイナがこちらへ遊びに来たのは初めてだったけれど、シェリスの部屋に泊まることになっていたのは城に務めている人なら誰でも分かる情報だ。

 シェリスに危害を加えるつもりはないと分かってはいたけれど、まさかシェリスに任せるわけにはいかないので、シャイナと、メイドさんたちと一緒に僕の部屋で遊んでいてもらっている。


「まあ、さっきの彼ら、僕とシャイナがデートしている最中に狙われたことは、100歩譲って僕が狙われたのだと許すことが出来たとしても、ここがシェリスとシャイナが寝泊まりしている部屋だと分かっていて乗り込んできたことは、許すわけにはいかないんだよね」


 シャイナを誘拐――悪ければそれ以上――して、その情報をもってアルデンシアの民衆を扇動。向こうからこちらに戦を仕掛ける大義名分を与える。

 アルデンシアを侮っている彼らからしてみれば、たとえ戦争になったところで、アルデンシアごときに我が国が負けるはずはないと思っている。

 だからといって、こちらから仕掛けたのでは外聞が悪い。

 シャイナの誘拐或いは殺害が事実になってしまったとしても、それは戦時中の事故、或いは手段として処理されれば体裁は保たれる。


「うちの直属の諜報部は優秀だから、多分そういう事であっているんだと思ったけれど……どうやら正解みたいだね」


 僕が今回の計画を立案してから、ほんの数時間しか経っていなかったというのに、諜報部の方からは報告書が、夕食の前には挙げられてきていた。

 検問の警備の方が耳にするくらいだから、優秀な、専門である諜報部の人員が動けば、すぐに分かる事だったのかもしれない。或いは、こちらへの報告をあげる前に、とりあえず2国間を繋いでいる要所である検問の方に連絡したのか。それで、報告書が挙げられる前に、僕達が通ることになってしまったと。

 まあ、この際、その辺りの詳しい事情は、割とどうでもいい。

 重要なのは、今、実際にこうして城の内部で起こっていることの方だからね。


「……殿下。これは理屈ではなく、我々の魂の問題なのですよ」


 僕は必要ないと言ったのだけれど、流石に聴き入れて貰えず、同室することになってしまった護衛の騎士の方に捕縛された侵入者が、重々しく口を開く。


「……アルデンシアを、シャイナを許すことが出来ないという事が?」


「そうです! あのような軟弱な、列強の何たるかを理解する気もないような、選民主義で、腹黒な国の民など。ましてやその代表たる王女を」


 それは君たちの中だけの評価だと思うけれど。

 シャイナは、僕が初めて求婚した4歳の時から、見事なヴァイオリンの演奏を披露していて、他にも美術館には絵を寄贈していたりなど、まさに文化と芸術の国であるアルデンシアの誇りだと言われているようで、たしかにアルデンシアの顔であることには違いない。

 自分よりも出来た人物を認められない人も、世の中には存在していて、あくまで推測だけれど、クリストフ様が生まれてからは、一層、そういった感情も大きくなっていったのかもしれない。


「ディリーア卿。あなたの気持ちは、僕には理解できないものです。本来ならば、僕はこの国の次期国王として、国民に歩み寄る必要があるのでしょうが、未だ精進の足りないこの身をお許しください」


 僕も父様の後を継げるよう、勉強に、鍛錬に、その他、努力は怠ってはいないつもりだけれど、まだまだ未熟であることには違いない。

 

「しかし、殿下。私にばかりかまけていてよろしいのですか? たしかに私はこちらへ参りましたが、まさかこれだけの人数だとお考えなわけではないのでしょう?」


 もちろん、シェリスの部屋に来るのは本隊だろうと予測はしていたけれど、他の分隊がいないと思っていた訳ではない。


「大丈夫だよ。たしかに、シェリスとシャイナは僕の部屋にいるけれど、そっちの警護はセキア先生にお願いしているから」


 まさか、男性の僕が堂々と女性ばかりの部屋に陣取っているわけにはいかなかったし。

 もうシャイナとシェリスは寝ているとは思うけれど、セキア先生だけではなく、多分、メイドの皆さんも、まだ一緒に居てくれていることだろう。


「詳しい話は、今は聞かないでおくよ。時間をとられてしまうだろうし、その前にシャイナやシェリスを安心させに行かなくてはならないからね」


 事の処理を任せて、僕は自分の部屋に向かった。  


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