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デート 6

 色々と手続きを済ませて―—僕たちは馬車の中でくれぐれも大人しく待っているように言われていたので、実際に報告等をしてくれたのは御者の方だ――お城まで帰り着いたときには、すっかり陽は落ちてしまっていた。

 お城で使っている馬車には、しっかりと王家の紋章が描かれていて、僕達が外に出ようものなら、聞こえてきていたざわめきと同じだけの人に、見世物とまではいかないかもしれないけれど、良い意味でも、悪い意味でも、余計な時間をとっていただろうことは間違いがなさそうだったので、その場は任せて正解だった。

 普段なら、そんなことに時間をとられることは何とも思わないけれど、今日は時間も時間だし、まだまだ油断を許さない状況には違いなかったので、僕達は大人しく馬車の中に待機していた。もちろん窓だって開いたりはしない。


「……ただ今戻りました。それで、ユーグリッド様。お耳に入れたいことが御座いまして」


 ギルドへ報告してきてくれた御者の方が、気遣うような視線をシャイナに向けている。

 本当に気を遣おうとしているのなら、そのような視線すら送らずに、淡々と耳元で報告するようにして欲しいのだけれど、仕方がない。

 逆にシャイナの方が気を遣ってくれたようで、私は聞いておりませんというように、耳を塞ぐポーズをとっていた。


「やはりと言いますか、レギウス派の連中の仕業には違いないようで、少しばかりお願いしたところ、近々起こす予定だったというクーデターの件についても、聞き出すことが出来ました」


 情報でも、知識でも、知っている方が、知らないよりも数段マシだというのは常識だ。

 たとえ、それが自分にとっては愉快ではない話だったとしても。

 もちろん、シャイナは知っている、というよりも分かっていることだとは思うけれど、エルヴィラにはアルデンシア派の人間ばかりがいるわけではない。その派閥だって1枚岩だということは決してない。


「首謀者はディリーア卿。目的は……あえて告げずとも、殿下ならばご推察いただけることと思います」


 僕はディリーア卿の事を深く知っているわけではない。現在、国政を取り仕切っているのは父様で、僕ではないからだ。

 しかし、いつでも、どこでも、大体反乱を起こす目的というのは決まっていて、現在の状況に納得がいっていないため、自分たちの望む方向へと事を運ぶために起こされるのだ。

 僕が国政には携わっていないとはいえ、まったく何も知らないというわけではない。

 ディリーア卿はレギウス王国派の人間だ。

 それにしても、今回の一連の事件に関して、不可解な点は多くあるけれど、僕が足りない頭で考えても仕方のない事だし、それは本人に尋ねるのが早いだろう。


「悪いのだけれど、1つ頼まれてくれるかな?」


「悪いなどと。全ては殿下の御心のままに」


 僕はお礼を告げて、これから行うつもりであることについての概要を話すと、彼は思い切り渋い顔をしたのち、シャイナの方を窺ったようだった。


「……殿下。本当にそれでよろしいので?」


「もちろん。僕がシャイナに相手にされていないのは、表向き、いつになっても婚約が発表されないことから、何となくそう思っていてくれる人もいるかもしれないし」


 あまりこういった言い方は好きではないのだけれど、普通の貴族であれば、自身より爵位が上の相手から申し込まれた縁談を断るはずはない。つまり、自分で言うのも何だけれど、エルヴィラという、大陸でも最も歴史のある、強国、大国を相手に、その他の国が、申し込まれた婚約を突っぱねているという今の状況は、思考の固まっている貴族には理解しがたい状況だということだ。

 だからこそ、信じ込んでくれる人は少なからずいるはずだと踏んでいる。


「……どうかなさいましたか?」


「いや、何でもないよ」


 口を挟んで来ないシャイナを不思議に思って見つめていると、いつもと変わらない口調で淡々と返事をされた。

 当事者だというのに、随分と落ち着いているなあ。

 もっとも、僕が気になったのはそこではなくて。


「……『表向き』のところに突っ込まれるかと思っていたよ」


 今の状況に対して意味のある内容ではなかったけれど、シャイナの反応が見たかった。

 分かっていてスルーしたのか、そもそも気づいていなかったのか、それともどうでもいいと、取るに足らないことだと思っていたのか。


「一体何の話……っ!」


 どうやら、2つ目が正解だったらしい。

 シャイナの新雪のように真っ白は肌は、見る見るうちに、耳まで林檎のように真っ赤に染まってしまって、膝の上で硬く握り込まれた拳はプルプルと震えている。


「真面目な話の最中にあなたは一体何を考えていらっしゃるのですか?」


「もちろん、僕はいつだって、どこにいたって、シャイナの事だけを考えているよ」


 冗談のつもり――もっとも、嘘ではない――だったのだけれど、物凄い目で睨まれてしまった。

 もちろん、シャイナが思っているだろう表情からはかけ離れた、とても可愛いと思える顔で睨みつけられても、全く怖いとは思わないけれど。


「何がおかしいのですか?」


「いや、何でもないよ。悪かったね、脱線させてしまって」


 これ以上弄っていると、それはそれでとても有意義な時間が過ごせそうだけれど、シャイナが怒って口をきいてくれなくなってしまうかもしれないし、それはとても困るので、僕は話を戻した。


「それで、頼まれてくれるかな?」


「頼みなど必要御座いません。ただ一言お命じ下さい」


 忠義の厚い人達ばかりで、本当に父様、それにそれ以前の代のご先祖様の人徳が窺える。僕もこの名に恥じぬよう務めを果たさなければ。


「では、頼みました‥‥‥それじゃあ、僕達もお城に戻ってやるべきことに備えようか」


 デートは最後まで楽しみたかったけれど、この先、何十回でも、何百回でも、何千回でも、シャイナとデートするチャンスはある。


「それに……まあ、色々と片付いてからでいいか」


 とりあえず、今回の件の解決が先だ。

 僕は想定外のことが起こらない事だけを祈っていた。


 

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