デート 4
国の中で反乱分子、と言うと聞こえが悪いけれど、現状に不満を持っている人たちがいるというのは、国政を預かる僕達城の人間に問題があるということだ。
昨日しっかりと話し合うことが出来たと思っていたのだけれど、やはり1日で説得するのは無理だったようだ。
「こういうことをしてくれると、大臣や団長たちがうるさくなるんだよね。だから護衛をつけてくださいと言ったではないですか、とか何とか小言を言われたりさ」
何が悲しくて、せっかくの好きな女の子とのデートにお目付け役を連れて行かなくてはいけないんだ。
そもそも、あの襲撃がなければ空を飛んで出かけることが出来たので、本当に2人きりになることができたというのに。
降誕祭のときはリーチェだったから、今日のお出かけがシャイナとの初デートだったというのに。
そもそも、他人の結婚、しかもまだ婚約ですらなく、ただデートをしているだけだというのに、口を出してくるなんて、本当、いい度胸をしているよ。
「僕が誰を好きになって、誰に結婚を申し込もうと、そんなの僕の勝手だよね。それに君達も、こんな暴力的な手段で僕が屈服するとでも、本当に思っているわけではないだろう?」
今日はこの後、お城に戻って、シャイナと、シェリスと一緒に双六をしたりして遊ぶ予定を立てているので、こんなところで無駄な時間を費やしている暇はないんだ。
もちろん、シャイナが僕の婚約の申し出を受けてくれれば、ずっと一緒に居られるから、何も1日を急ぐ必要はないのだけれど、現状はまだ、シャイナを説得出来てはいないため、こちらへの滞在には期間がある。
その、シャイナと一緒に居られる時間を、1秒たりとも無駄にはしたくない。
「だから、今ならまだ未遂ということにしておいてあげるから、今日はこのままお帰り願えないかな。それから、今後も出来れば口や手を出さないでくれると嬉しい」
僕も余計な戦いは避けたいし、暴力に訴えるなどというのは、考えたり、話し合ったりすることを放棄した結果の最終手段なので、出来ればもっと穏便に解決したいと思っているのだけれど。
「殿下がアルデンシアなどではなく、帝国と契りを結んでくだされば、我々としてもこのような手段に出ることはないのですが」
姿を見せた数人の襲撃者に、あくまで穏便に事を進めるために忠告したのだけれど、どうやら引いてくれる気はなさそうだ。
ミクトラン帝国は経済国家として大国であり、関係を強化することが出来たのならば、財力と、労働力を手に入れることが出来ると考えているのだろう。彼らは経済に関して無頓着である傾向の強い芸術家気質の人達に対して、あまり良い感情を抱いていない。
他にも、例えばレギウス王国派の意見としては、武力が強化されると考えられているらしいということは、何となく知っている。レギウス王国といえば、騎士の国として知られていて、本当なのかどうかは知らないけれど、野生の熊を素手で、魔法も使わずに仕留める猛者が軍の曹長を務めているなどというとんでもない噂があったりもする。
余談ではあるけれど、学問や芸術の都として名高いレンザレアを首都とするアルデンシア王国派の意見では、我々を軟弱だと罵るが、繊細な美をこれっぽっちも理解できない野蛮な共和国派の連中よりはずっとまし、などと、表立ってはいないけれど、互いが互いを快く思ってはいない。
国内だけでも大きく分けて3つの勢力がぶつかっているというのにも関わらず、仕事をすれば、同じ仕事をしていても上々過ぎる成果を上げるのだから何とも不思議な事だとは思っている。対抗意識を持っているからこそ、高め合っていて、それがエルヴィラという国を支える元になっているのは、まあ、真実ではあるけれど。
しかしまあ、言わせて貰えれば、当の国を放っておいて、自国内だけで何を馬鹿な事を争っているんだという気持ちは強いけれど。
「政治の決定権を握っているのは、今のところ父様––国王様で、僕には特に権限とかは、おそらく結婚して位を継ぐまでは、ないんだけれどね」
それに、城に忍び込んできた、おそらくは彼らの仲間だろう人達にも告げた事だけれど、シャイナと結婚したからといって、アルデンシア以外の国と疎遠になるわけでは決してない。
僕の意思など関係なくても、商人の方達は、ミクトラン帝国でも、オーリオック公国でも、レギウス王国でも、もちろんアルデンシアやエルヴィラでも、変わりないことだろう。
「僕がシャイナと結婚したいと思っているのは、そんな政治とか、経済的な関係の話などではなくて、純粋に恋心からだよ。だから、君たちに何と言われようとも、何が起ころうとも、この意思を変えるつもりはない」
「‥‥‥そうですか。ならば致し方ありません」
彼らが腰の得物を抜き放つ。
それを見せれば僕が引くだろうと思っていたのか、まさかそんなわけはないだろうけれど、もちろん僕はその程度で引き下がるつもりなどこれっぽっちもない。
自国の、本来ならば僕たちが護るべき人達と、それも暴力的な手段で争うことは出来る限り避けたかったけれど、致し方ない。
「僕はこの後、予定があるんだ。シャイナと双六をして遊ぶという大切な用事がね」
「何を」
僕にとっては、それこそが今日この後で最も重要な用事だ。むしろそれ以外はすべてが雑務といっても過言ではない。
「だから、手早く済まさせてもらうよ。加減は出来ないだろうけれど、君たちも覚悟があってこの場に立っているのだろうし、まあ、その辺はお互い様ということで」
治癒の魔法こそあれど、余計な怪我を負ったりしてシャイナやシェリスを心配させたくはない。特にあの妹は、僕の事になると、普段にも増して、妙に勘が鋭くなるからね。
僕が、この人数を相手にして、自分が負けるなどとちっとも思っていないところを見てだろうか、彼らの顔がわずかに曇る。
とはいえ、こちらを警戒しているといった感じではない。
僕たちが魔法や武術なんかを嗜んでいるのは、本当に言葉通り嗜んでいるだけだとでも思っているのだろうか。城の中にも彼らの仲間がいるのだとしたら、知らないはずはないと思うのだけれど。
「まあ、細かいことは後で考えるとしようか」
時間も勿体ないし、彼らは武器を構えていて、大義名分もある。こちらから仕掛けていこう。




