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結婚の報告やらその周辺の事 5

 ジーナが来てくれた翌日には、エルマーナ皇女とローティス様が到着された。

 久しぶりに顔を合わせたらしいジーナとエルマーナ皇女は、再会を喜んでいた。

 

「シャイナ姫が今いらっしゃらないのが残念ですけれど、取り急ぎ来てしまったものですから。春にはまた国で開花祭が開かれる予定で、私もそれに出席致しますので、打ち合わせ等考えますと、ユーグリッド様とシャイナ姫の結婚式には、来られるとしても、本当に直前となってしまいますから、今のうちにと」


 エルマーナ皇女はミクトラン帝国の開花祭で大トリに歌声を披露するという大役を受け持っている。

 それはエルマーナ皇女の母上様でいらっしゃるフェアリーチェ様から受け継いだことで、代々の帝国王妃、あるいは皇女としての大切なお役目で、国民の皆さま、そして他国からもその歌声を楽しみにいらっしゃる方も大勢いる。

 僕もまた――今度は直前に何事もなく、平穏無事な――あの舞台を観たいと思っているけれど、今回は残念ながら観にゆくことは出来ないだろう。


「エルマーナ皇女の舞台を今年は観ることが出来ないのは残念です」


 誤魔化しや、お世辞ではなく、僕は本当にそう思う。

 あの時僕たちは出番を控えていたから舞台袖からの鑑賞になってしまったわけだけれど、出来ることならば、今度は是非、客席側から聞いてみたい。


「それは、シャイナ姫のヴァイオリンの演奏よりもでしょうか?」


「シャイナのヴァイオリンは、いつでも特等席で聴くことにしていますから」


 それは、シャイナがどこそこに招かれたパーティーの舞台とか、そういうことではなく、僕がアルデンシアまで会いに行ったときに聴かせてくれる、シャイナの部屋のテラスの上空から……ということだったのだけれど。

 これからは出来なくなってしまって、すこし残念だ。


「それは私も是非聴きに行ってみたいです。あのユーグリッド様がシャイナ姫のヴァイオリンとお比べになられるほどだなんて」


 ジーナは純粋に興味を示している様子だったけれど、何となく言葉の中に僕への攻撃性を感じるのだけれど。

 しかし、当のジーナとエルマーナ皇女は、そんなつもりは無いらしく、ジーナ公女は楽器の演奏は何かされるのですか、などと普通に話を始めて盛り上がっていた。


「感じるも何も、ジーナは兄様を馬鹿だと言っているのよ。本当に恋は盲目というか」


 シェリスの言葉は辛辣だったけれど、そんなことないよね、という期待を込めてジーナを見つめていると、


「ユーグリッド様? 私の顔に何か……?」


 きょとんとした様子で、可愛らしく小首を傾げるジーナの表情からはとてもそんな感情は読み取ることは出来なかった。

 それからジーナはわずかに頬を赤らめて、僕はシェリスに頭をはたかれた。


「兄様。女性の顔をそんなにじろじろ見つめるものじゃないわよ」


 それはたしかにその通りだ。

 

「ユーグリッド様。私は別に、気にして……いえ、嬉しかったですから」


 僕が謝罪すると、ジーナは口元を綻ばせながら、顔の前で両手の指を合わせた。

 その姿を可愛らしいとは思ったけれど、どきりとしたりはしなかった。

 

「では招待状を……今お書きしてお渡しいたしますね」


 丁度、こちらへ来てくださったフェイさんにエルマーナ皇女が頼まれると、フェイさんは「承知いたしました」と頭を下げられた。


「それから、ユーグリッド様、シェリス様。ご報告です。レギウス王国より、ローティス様がお見えになられました」


 こちらにお通ししても? と許可を求められたので、構いませんと答えた。

 ローティス様とここにいる全員はすでに面識があるので、今更紹介などの必要はなかった。


「ユーグリッド王子。この度はご成婚、誠におめでとうございます」


 ローティス様はレギウス王国の第2王子ではあるけれど、何故ローティス様がいらっしゃって、ローティス様の兄上で、レギウス王国の第1王子でいらっしゃるヴァーリウム殿下がいらっしゃらなかったのかは、今更確認するまでもないだろう。

 祝言をくださったローティス様は、今しがた、ローティス様の案内と同時にフェイさんが増やされた椅子、シェリスの隣の席に落ち着かれた。

 

「本当は兄様――兄がこちらへお祝いに来るはずだったのですが、僕が無理を言って代わって貰ったんです」


 ローティス様はシェリスの顔をちらりと見てから、さっと視線を逸らし、ジーナとエルマーナ皇女に事情を話していた。

 シェリスの出したという招待状はおそらくローティス様宛だったのではないかと思ったけれど、近隣国の、それも王子の結婚と戴冠という重要な催事に、招かれるにしろ、いらっしゃるにしろ、第1王子ではなく第2王子というのは、かなり珍しい。両方、もしくはそれ以上、ということはあるかもしれないけれど、今回はローティス様おひとりだ。

 

「私は個人宛には出していないわよ。『グランシアール王家』へ宛てて書いたのよ。兄様、とシャイナの結婚を祝ってくれる人は多い方が良いでしょう」


 ツンとそっぽを向いたシェリスを、エルマーナ皇女とジーナは微笑ましいものを見守るような瞳で見つめていた。

 そんな変なところでひねくれなくてもいいのに。

 

「それでも嬉しかったです。ありがとうございます、シェリス姫」


「兄様とシャイナのためよ。他意はないわ」


 うーん。

 あのデートの時にはそれなりに上手くいっているように見えていたのだけれど。

 でも、ローティス様は残念そうな顔をしてはいらっしゃらないし、むしろ、嬉しそうなご様子だったので、あまり僕が心配するまでもないことだろうけれど。




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