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襲撃 3

 夜番の他のメイドさんとは限らずとも、他の人に見つかって、一々説明するのも手間がかかる。

 シャイナとシェリスに悟られないようにするために、明日の朝までにはしっかりと睡眠もとって、はっきりと目覚めていなくてはならないのだから。


「じゃあ、話して貰おうか。時間もないから手短にね」


 話しといっても、すでに概要は分かっている。

 ここエルヴィラ王国はアルデンシア王国と東の国境で接しているけれど、西側の国境はレギウス王国と接しているし、北はオーリオック公国、ゼノリマージュ山脈を挟んだ北東にはミクトラン帝国がある。

 エルヴィラは、自慢ではないけれど、大陸でも歴史のある強国であり、他の国と戦争になるようなことは滅多にない。僕が生まれる前、それこそ100年とか、それ以上の単位での昔話でなら戦争の歴史も少なくはないけれど、今、どこかの国から積極的に攻撃されているようなことはないし、こちらからも仕掛けることはない。

 対して、他の国のスタンスは必ずしも平和的なだけではない。

 エルヴィラの内部にだって派閥は存在するし、彼らからみれば、まさに友好国の象徴としての姫君、アルデンシアの第一王女であるシャイナは格好の標的だったというわけだ。

 こちらから断ったのでは角が立つ。しかも、僕が毎月会いに出かけている相手だ。さっきはああ言ったけれど、直接僕達への強硬手段に出るには分が悪いと判断したのだろう。


「––それで、シャイナを誘拐して見せて、そのことをアルデンシアに触れ回り、完全に断ってくれるのを期待したということだね」


 信頼して預けている娘が危険な目にあったとなれば、メギド国王でなくともこちらを信用することは出来ないと判断することだろう。結果、向こうから国交の断絶を告げてくるかもしれない。

 しかし、それはどう考えても短絡的だと言わざるを得ない。

 噂の伝達速度は馬車が走るよりもずっと速いものだ。

 しかも、他でもない、押しも押されぬエルヴィラ王国の醜聞である。

 その噂は、あっという間に大陸中に轟いて、自国内の派閥などを気にしている場合ではなくなってしまう事だろう。そのこと自体は歓迎されるべきことかもしれないけれど、あまりにも失うものが大きすぎる。


「そういった苦労をすることになるのは僕達だから自分たちは大丈夫だろうと考えているのかもしれないけれどね、そこまでいけば、すでに問題は王室の事だけではなく、国としての醜聞になってしまっているんだよ」


 極端過ぎる話かもしれないけれど、可能性が全く、これっぽっちもないと確実に言い切ることは出来ない。

 そして、僕達は王族に生まれた者の責任として、エルヴィラに暮らしている人たちの生活、生命の安全を保障しなければならない。

 それゆえ、万が一、そんなことは絶対に避けてみせるけれど、この国を離れた後、その人たちが後ろ指を指されるような、そんな態度、対応をとることは絶対に出来ない。


「それとも君たちは戦争を望んでいるのかな」


 それならば、理解は出来ないけれど、納得は出来る。

 戦争になれば同盟どころではないからね。

 そして始めてしまった瞬間から、すでに他国からの評価なんて小さなことを気にしていられる状況ではなくなる。


「滅相もございません」


「でも、君たちがやっていたのは、戦争という最悪の結果もあり得たかもしれない、そういう事だよ」


 僕だって、自分よりも年上である彼らに偉そうに説教できるほど、何でも分かったり、考えたりしているわけではないけれど。

 精々、大切な人たちの笑顔が消えないようにと願って、日々精進をすることくらいだ。


「シャイナと結婚したって、アルデンシア以外の国との国交がなくなるわけではないんだから、そう躍起になる君たちの思考が僕には少し難しいと思えるよ」


「では! 何もあの––失礼致しました。何もシャイナ姫ではなくともよろしいのではないでしょうか。殿下のおっしゃりようでは、他の国にも通じることかと愚考いたします。例えばミクトラン帝国の––」


 彼らの言いたいことは分かったけれど、聞きたくはない話だったので、片手を出して遮った。何を言われたところで、僕の気が変わることはないけれど。


「僕がシャイナが良いんだよ」


 もちろん、最後はシャイナの気持ち次第ではあるけれど。

 他の女性を知らないだけだと言われてしまうかもしれないけれど。

 初めて会った、ひと目見たその瞬間から、恋という言葉の意味を知ったんだ。

 月光のように冴えわたる美しい銀の髪だとか、宝石よりも輝いて見える綺麗な紫の瞳だとか、初めは外見だけだったかもしれないけれど、というより、ひと目で内面なんて分かるはずもないけれど、アルデンシアを訪ねた時にはいつだって僕を待ってヴァイオリンを弾いていてくれるところだとか、勉強があると言いつつ、諦めかもしれないけれど、邪魔なはずの僕を邪険にしつつも追い出さずにいてくれるところとか、一緒に居るほどにますます彼女に惹かれているのが分かる。

 シェリスと一緒に美味しそうにお祭りの食べ物を食べていたり、年相応とでもいうのか、輪投げで少しむきになっていたりするところとか。

 まだほんの少ししか知らないけれど、それでも全く知らないわけじゃない。そしてこれからもっと知っていきたいと思っている。


「だから、派閥とか関係なく、しっかりとシャイナ自身を見て貰いたいな。そうすれば、シャイナがとってもいい子で、可愛い女の子なんだってことが分かるはずだよ。シャイナに聞かれたら、僕が何を知っているのかって言われてしまいそうだけれどね」


 もちろん、惚れてしまわれたら困るけれど、それくらいにシャイナの事を好きになってくれたら嬉しい。


「とにかく、今回は事前に僕が察知できたし、意志はあったにせよ、まだ未遂。今回の事は––甘いと言われるかもしれないけれど––この胸の内に止めておくから、もう少し、僕とシャイナの事を見ていてくれるかな。出来れば君たちのお仲間にもそう伝えておいて貰えると助かるよ」


 僕は明日早起きしなくちゃいけないから。

 そう言って彼らとは別れた。

 話し合いに応じてくれたことからも、少なくとも今日この後シャイナとシェリスが危険にあうことはないだろう。



「ユーグリッド様。ご無事でしたか」


 2人の寝室に戻って来ると、随分と気合の入った表情をしていたフェイさんが安堵したように溜息を漏らされた。


「多分今日は大丈夫だと思うけれど––」


「いえ。ユーグリッド様のお言葉を疑うわけではございませんが、交代するまでは、私はここの番を務めさせていただきます」


 お礼を告げると、感謝など勿体なく思いますと言われてしまった。


「じゃあ、最後に1つだけ。シャイナとシェリスには悟られないようにね」


 心得ておりますとばかりに深く頭を下げられたフェイさんに見送られながら、僕は2人の部屋を後にした。


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