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僕たちの目指すべきもの

 僕も出発する前に2人に言っておくべきことがある。


「言わなくても分かっているだろうけれど、シャイナも、シェリスも、自分の身の安全を第一に考えること。わずかにでも危険な状況だと判断した場合、すぐに離脱すること」


 僕は、オースティン家やこの城、そしてクリストフ様の護衛に就かれる部隊の方を除き、僕たちと一緒に潜入する部隊の方にも聞こえるように、作戦に参加する皆の先頭に立ってぐるりと見回した。


「捕虜、あるいは人質として捕まってしまったとしても、決して自らの命を絶とうとしないこと。1人で行動せず、常に連絡は取り合うこと」


 基本的に、シャイナとシェリスは僕と一緒に行動させるつもりだけれど、そうでなくとも少なくとも2人は一緒にいさせるつもりだけれど、そうも言っていられない場面は来るかもしれない。

 2入りが捕まってしまうような真似は僕が絶対にさせないけれど、僕が捕まる可能性は全くないわけではない。

 もちろん、それがひどく身勝手なのは分かっているし、そうならないようにはするつもりだけれど、万が一があった場合に、2人が僕のことを構わず、自分の身を第一に考えて行動するようにと釘を刺しておく。


「僕が捕まった場合にも、無理だと判断した場合、もしくは僕が命令した場合には、僕を見捨ててその場を離脱し、即座に王城まで撤退すること」


 僕は1人だけならば、たとえ捕まってしまったとしても、どうとでもする覚悟はある。仮にも王位継承権第1位の王子だ。即座に殺されることはないだろう。

 しかし、シャイナやシェリスが捕まってしまった場合、確実に後手に回ることになる。というより、かなり致命的だ。

 

「兄様――」


「これが守れないようなら、クリストフ様と一緒にここへ置いてゆく。僕とシェリスが2人とも捕虜になってしまう状況には、絶対に陥るわけにいかない。それは分かるよね?」


 シェリスがもの言いたげな表情をするけれど、僕は反論を許しはしなかった。

 父様と母様がこの先お子を授かるかどうかが分からない以上、このエルヴィラを存続させるためには僕たちの2人ともが――死んでしまうということは避けなくてはならない。

 そして、シェリスをそんな状況に陥らせることは絶対にないので、あるとすれば僕の方だけだ。


「今更、本当は連れていきたくないとか、そんな議論をするつもりはないよ。そんな時間もないからね。だから、分かったかだけを聞かせてくれるかな」


 守れないなら置いてゆく。

 たとえシェリスが頷こうとも、それが本気かどうかは、生まれた時から知っている僕にはわかる。

 卑怯だとは思う。

 シェリスやシャイナには僕を見捨てるように言っておいて、僕自身は絶対に2人を見捨てることはないのだから。

 しかし、妹を守るのは兄である僕の為さねばならないことだし、シャイナに何かあったらなんて想像すらしたくはない。


「そんな顔をしないで、シェリス。僕だって自分の立場を忘れているわけじゃないよ。言った事は絶対に守る。それにシャイナも。僕は一緒に降誕祭を回ろうと約束したよね。今の僕にとっては、本当はこんな事より、何より大事なことだから、こんなところで倒れるわけにはゆかないからね」


 2人は納得してくれていない様子だったけれど、話は進めなくてはならない。

 

「じゃあ、昨日のパーティから得られた情報をもう1度確認するけれど」


 城門の脇、外からは丁度死角になる位置で、僕は反転して皆の方を振り向いた。


「昨日のパーティーまでに皆さんが得られた情報は、昨夜、僕の方で目を通して、シェリスとシャイナ、クリストフ様にも確認して貰いました。すでに分かっていらっしゃるとは思いますが、今日、僕たちが向かうべきは3つ。カナル侯爵家、そして次男のオーニスさんがお城の騎士団に勤めてくださっているラクリエイン伯爵家、それから豪商のコントール家。以上3家で間違いありませんね?」


 フェイさんの方に確認を取るべく顔を向けると、畏まられたまま、首肯してくださった。

 他の人もたくさん集まるパーティー会場で何とも大胆な、と思わなくもないけれど、向こうからしてみれば僕たちに露見しているなどとは思ってもいなかっただろうから、仕方ないとも考えられる。

 もっとも、こうして僕たちに露見する事自体が罠である可能性もなくはないけれど。

 もちろん、このことはオーニスさんにも伝えて確認を取っている。

 僕たちが、オーニスさんの自宅へも伺うと告げた際には、


「私は国王陛下に、唯一絶対の主としてこの剣を捧げております。私に限らず、騎士団の者は、団長を含め、皆、陛下に誓っている者ばかりです。それがたとえ血を分けた兄弟であったとしても、この国に仇名すつもりであれば、この剣の元、切り伏せる覚悟はできております」


 そして、疑われるのでしたらと、腰に挿した剣を僕に差し出された。


「殿下。その際は私が責任でもって介錯致します」


 そして、共にその場で話を聞いていらしたサーモルド団長が厳かな表情で告げられたのを、僕ははっきりと聞いている。

 

「もう1つ。これは今のところ、個人の問題であり、その家に暮らす、あるいは仕えている全員に責があるわけではありません」


 ここにいらっしゃるオーニスさんのように。

 例えばそのお屋敷でメイドさんが働いていらっしゃるとして、関わっている可能性が全くないわけではないけれど、現時点ではそこまでは不明だ。なので、確実に分かっている3人以外は、極力手を出さないようにと――もちろん抵抗にあった場合などは除く――まあ、今更僕が言うまでもなく分かっていらっしゃるとは思うけれど。


「では――」


「お兄様とシャイナが何の憂いもなく降誕祭でデートをするために!」


 僕の代わりに、シェリスが声をかけると、出向かれる騎士団の方と、諜報部の方が大きく賛同の意を示された。

 まあいいというか、そのためではあるのだけれど、。

 今回の任務は、何も降誕祭に限った事ではなく、エルヴィラに暮らしている人たちの平和と安心を願ってのことなのだけれど。

 

「こっちの方が皆の士気も上がるのだからいいじゃない」


 そういうことなら僕にだって、と少しだけ、こんな時だというのに対抗心が沸いた。


「シェリスとローティス様が楽しくお祭りを回れるように!」


「兄様!」


 今度はメイドさん、主に諜報部の方から、先程の声に劣らない歓声が上がった。

 何故だか騎士団の皆さんはげんなりなさって、メイドさんたちに睨まれて、やけくそ気味に声を張り上げていらした。

 

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