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襲撃 2

 ◇ ◇ ◇



 異変はシャイナを招いたその日の夜に起こった。



 シャイナ姫と初めて会った父様と母様は大層温かくもてなしてくれた。

 元々、話だけだったとはいえ、話だけは本当に何度もしていたため、他人という気は全くしていなかったらしい。

 実際に顔を合わせたのは到着の挨拶と食事の際だけだったとはいえ、僕から見てもそれは少しやり過ぎではないかと思うくらいだった。

 そしてお城のほぼ全員が––夜警の方を除いて––寝静まったころ、闇夜に紛れるようにそれは起こった。


「……ここで間違いないんだな?」


「ええ。ここがシェリス様とアルデンシアの王女がお休みになっている部屋です」


 そう会話が聞こえてきたかと思うと、ガチャリという鍵の開く音と共に、慎重に、ゆっくりと寝室の扉が開かれる。当日に決行とは、随分と思い切ったことをしたものだ。その方が、毎晩待っていることもせずに済んで、僕的には助かったというところだけれど。もちろん、何もなければそれが1番だったのだけれどね。


「じゃあ、手はず通りに」


「はい、そこまで」


 はっきりとした証拠を掴んでからの方が正しいのかもしれないけれど、そんなことのためにシャイナとシェリスの安眠を妨げるわけにはいかない。


「ユーグリッド様っ! なぜこちらに––」


 彼らがぎょっとした顔で、扉のすぐ隣の壁にもたれかかっていた僕の事を見る。


「へえ。僕には『様』と敬称をつけるんだね」


 月の明かりだけが優しく差し込む部屋の中で、彼らが手にしている銀のナイフが怪しい光を放っている。

 見たところ、侵入してきた賊は3人か。いや、侵入してきたというよりは、帰っていなかったという方が正しいのかな。うちの門番の方達は優秀だから、外からの侵入を許すとは思えないけれど、内側に、すでにいる人たちに関しては侵入を防ぐとかいう話ではないからね。それに、顔見知りの彼らなら、なんとでも言い訳はできるだろうし。

 もっとも、彼らだけでの計画とは思えない。

 大人数過ぎても危険性は増すだろうし、おそらくはこの後どこかで合流する予定だったのだろう。シャイナを、或いは交渉材料のためにシェリスも一緒に捕えてから。

 そっちの方は後で他の人に任せることにして、ベッドの中のシャイナとシェリスの方へちらりと目を向けると、2人ともこちらの様子に気付いているような素振りはなく、規則正しい寝息と、規則正しく布団が上下しているのが確認できた。取りあえずは安心して胸を撫で下ろす。


「まあ、君たちが何者なのかは……とりあえず聞かないでおくよ。それは僕の仕事じゃないからね」


 それは捕らえた後、引き渡した先で取り調べがおこなわれることだろう。最初は今日の夜警の人たちかな。まあ、同僚を尋問するというのも少し躊躇うかもしれないけれど。


「ま、とにかく、今君たちがここに居るということがすでに犯罪なんだよね」


 凶器を持って王女の、他人の寝ている部屋に静かに入って来るというのは、それが王城や王女の部屋ではなくとも、十分犯罪と言えるだろう。

 それに、国宝級とも言えるだろう、2人の寝顔を見た、正確には見ようとしたことが許せないよね。

 別に彼らに嫉妬したわけではないけれど、独占欲というか、つい欲望を抑えきれなかったというか(それが嫉妬なのではという反論は受け付けないでおく)、僕は彼らと、シャイナとシェリスが寝ているベッドの間まで歩いていって、2人が静かに眠っていることを確認する。さっきも確認したけれど念のためだ。

 そう、あくまで念のため。

 断じて、僕が2人の寝顔を見たかったという理由ではない。


「うん、よく眠っているね。本当に可愛らしい、天使のような寝顔だよ‥‥‥さて」


「お、お待ちください、ユーグリッド様」


 僕が戦闘態勢を整えながら振り向くと、闇に紛れやすいためか、黒いフード付きのマントで全身を覆っていた彼らが、フードを脱ぎ、僕の前に膝をつく。


「御身と闘う意思はございません」


「どうか我々の話を聞いてはくださいませんか?」


 ナイフを持ったまま––今は床に置かれているけれど––そんなこと言われてもね。

 大体の予想はつくし、そもそもこんな手段をとるような相手の話なんて聞く必要はないと思うけれど。

 シャイナとシェリスがこの部屋を使っているのは分かっていたことだし、幼い、とは言えないかもしれないけれど、まだ子供である女性の部屋に複数の男女が夜中に押し入ってきた、その事実だけで十分過ぎるほどに犯罪だ。というより、それは別に女子供の部屋に限ったことではない。

 とはいえ、ここでなくとも、いずれは話を聞くことになっていただろうし、どうやら彼らは語りたがっているようにも見えた。


「いいよ。聞くだけは聞いてあげる。城で働いてくれている君たち、ひいてはエルヴィラに暮らしている人たちの不満を聞くのも僕たちの仕事だしね。だけど、ここじゃあだめだ。2人の安眠を妨害してしまうからね。外に出ようか」


 仕方はないけれど、それも僕の務めだ。

 直接言いに来てくれればいいのに、まったく余計な仕事を増やしてくれたものだよ。まあ、2人の寝顔を鑑賞する機会をくれたことには、ほんの少し思うところがないわけではないけれど。

 冗談はさておき、窓と扉に完全に鍵を掛けたことを確認して、さらに部屋の内側には結界と障壁を作り出し、夜番のメイドさんと夜警の騎士の方に、廊下側の扉と、ベランダ、テラスから、何人たりとも通さないようにお願いする。


「ユーグリッド様はどちらへ向かわれるのでしょう? このような夜中に」


 そっちの理由については聞かれなかったけれど、僕の方の理由に関してはそういうわけにはいかなかった。


「私もご一緒させていただきます」


 職務に忠実なのか、僕の事、それからシェリスとシャイナの事を心配してくれているのか、おそらくは両方だろう、フェイさんがそんな風に申し出てくれる。

 気持ちはありがたいけれど、個人的な気持ちの問題の他にも、ここでやっていて貰いたいことがある。


「心配しなくても大丈夫。ちゃんと護衛もついているでしょう?」


 本当は護衛ではないけれど。

 案の定、同僚とはいえ、夜中に本来は居るはずのない人たちの顔に––しかも全身を黒いフード付きのマントで覆っているという不審っぷりだ––肩の辺りで左右に広がっている亜麻色の髪の彼女は訝しんだ顔を向けていた。


「頼んだよ、フェイさん。2人の事、よろしくね」


 心配してくれていることがわかる、少し眉を顰められたメイドのフェイさんに、微笑んでそう頼むと、何も言わずに頭を下げてくれた。


「それから、無理かもしれないけれど、父様と母様には説明する必要はないからね」


 

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