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襲撃

 本来ならば、シャイナにエルヴィラの街を案内して回りたかった。

 けれど、確実に危険があると分かっているところを連れて回るわけにはいかないし、そんなことをすれば、僕達を信用してシャイナを預けてくださったメギオ様とファラリッサ様に申し訳が立たない。

 もちろん、ここでシャイナを帰してしまったのならば、それは反アルデンシア派の思惑通りになるということで、テロに屈するということになってしまうのだけれど、シャイナやシェリスの身が危険に晒されるよりはずっといい。

 とはいえ、連日の移動も大変だろうからと、今日のところは僕たちはお城の中で一緒に過ごすことにした。


「アルデンシアの方が心配?」


 せめてと、庭にテーブルと椅子を持ち出してお茶にしていたのだけれど、シャイナは東の方をずっと気にしていた。


「僕はアルデンシアの街を歩いていて襲撃されたり、悪い話を聞いたことはないから大丈夫だとは思うけれど」


 しかし、クリストフ様も生まれたばかりで、自衛能力は皆無に等しい。ファラリッサ様とメギド様、それからお城の騎士の方や魔法師の方がたくさんいらっしゃるとはいえ、心配なのだろう。


「……あっ、そうか、だから今なのかな」


 すでにシャイナは気付いていたみたいだったけれど、シェリスはそのことに関しては考えないようにしていたらしかった。


「どうしたの、兄様?」


「今、クーデターが画策されている理由だけどね。僕がアルデンシアまで出かけているのが周知の事であるのはその通りなんだけれど、今まではアルデンシアにはシャイナ姫しか跡取り、というか世継ぎがいなかっただろう。だから、アルデンシアの王宮が世襲を続けていくつもりならば、シャイナ姫は、気持ちは別にして、エルヴィラまで嫁いでくるのはなかなか厳しかったんだ」


 そこまでは僕だって分かっていた。


「でも、クリストフが生まれた‥‥‥」


 シェリスは、はっとしたように目を見開いて、確認するように僕の方を見るので、僕もそれに頷く。


「クリストフ様……ここでは分かりやすく殿下と呼ぶことにしようか。殿下が生まれたことで、世継ぎに関する問題はほとんど解消されたと言ってもいい。それはつまり、シャイナがこちらに嫁いでくるのに問題はなくなったということだよ」


「世間的に見ればのお話で、私の気持ちは考慮されていませんけれどね」


 シャイナがクールに厳しい言葉をかけてくれるけれど、ここでは敢えてスルーさせてもらう。あくまで話が拗れそうだったからであって、断じて僕の精神衛生上の問題から、話題を逸らしたのではない。


「……そんなわけで、せっかく来てもらったのに本当に申し訳ないけれど、シャイナにはしばらく、こっちに居る間か、問題が鎮圧されるまでは、城から出ないでいて貰えるとありがたいな」


「ユーグリッド様が悪いわけではないのですから、謝られる必要はないのではありませんか?」


 シャイナは静かにカップに口を付ける。まるで動揺していないのか、水面に波紋を浮かべたり、受け皿とカップが音を立てるようなこともなかった。

 僕がシャイナに求婚していることが問題の1つかもしれないので、一概に責任がないと言い切ることも出来ないとは思うのだけれど、企みを止めることは出来ても、企てること、それ自体を止めることは出来ない。


「シャイナ。元々そのつもりだったけれど、今日は一緒に寝ましょう。私のベッドで寝るまで一緒にお話ししましょう」


 僕はまだシャイナに婚約の申し入れを受け入れては貰っていないので、一緒の寝室に入ることは出来ない。

 正直なところ、シェリスとシャイナが一緒に居ても、不安が倍になっただけで、全く安心はできないのだけれど、シェリスがとても張り切っているので、余計な水を差したくはなかった。

 すくなくともこの場では。


「本当に大丈夫、シェリス?」


 下手な事を言うと気づかれてしまう恐れがあるので、あえていつもと同じように、シェリスを心配しているように声をかける。

 実際に心配しているのだから、声色や態度、表情から何かを感じ取ったりされることはないだろう。


「兄様は心配性ね。大丈夫と言ったら、大丈夫よ」


 シャイナに心を許し始めたのか、それともここがエルヴィラだからなのか、シェリスの口調は大分砕けたものに戻っていた。


「そうかい。なら、大丈夫だね」


 任せておいてと、シェリスは薄い胸を張った。


「もう。兄様が余計な事を考えているせいで、せっかくこうしてシャイナとお茶にしていたのに、楽しかった気分が台無しだわ」


 それから僕たちは一緒に庭に出て、母様とシェリスが一緒に手入れをしている花壇を見て回ったり、厨房に行きましょうと張り切っていたシェリスに付いていって、つまみ食いはいけませんよと注意されているシェリスを見て、シャイナが少し目を細めていたりしていた。

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