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侯爵家のパーティー 7

 ではどうするべきなのか。

 

「とにかく、今の状況――ここにいる人達の安全が全く保障されていない状況では、あなた達の要求を聞くことは難しいわね。私と交渉がしたいのなら、まずは今縛られている参加者の身の安全と自由を保障しなさい」


 扉の向こうからなので、多少くぐもった声が聞こえてくる。

 

「それは出来ない相談だ。彼らの安全を保障した場合にそちらが我々の要求に応えるかどうかの確証がない」


 シェリスとローティス様、そしてクリストフ様だけだったとしても、おそらくは彼らを制圧することは可能だろう。人質さえ捕られていなければ。

 クリストフ様とローティス様は分からないけれど、少なくともシェリスは僕と一緒に毎日魔法や武術の訓練をつけて貰っている。

 僕は兄として、妹を心配しないということはあり得ないのだけれど、客観的に判断した場合、多少武器を持っていて、格闘や、もしかしたら魔法の腕に覚えがあるという程度の相手であれば、シェリスはほとんど苦にしないはずだということは分かっている。

 それは相手も何となく感じ取っているのだろう。だからこそ、強引な手段に出てはいないのだ。

 

「私にはお父様とお母様、そしてお兄様の家族として、この国と、そしてこの国に暮らしている人たちを守るべき責任があるの。それは、あなた達テロリストに対して決して屈してはならないという事よ。だから、たとえあなた達がどのような脅しの手段を持っていたとしても、私の一存であなた方の要求に応えるわけにはゆかないの」


 シェリスが全く怖がっていないのだとは思わない。

 しかし、それでもこんな状況下で堂々と、内心の恐怖など微塵にも感じさせない態度で応じているシェリスのことは本当に誇らしいと思うし、本当に僕なんかには出来過ぎた妹だと思う。


「シェリス姫の自信の源は、すくなくとも今の状況では、ユーグリッド様がお近くにいらっしゃるという事も関係していらっしゃると思いますよ。もちろん、シェリス姫ご自身の気質という事も十分におありなのでしょうが」


 僕の心の内を読んだかのように、シャイナが声をかけてくれる。


「じゃあ僕も少しは兄として、兄らしいところを見せてあげないとね。これから先もずっとシェリスが誇ってくれるような」


 そう言って格好良く扉を開けて登場しようと思ったのだけれど、取っ手に手をかけたところでフェイさん達に止められてしまった。

 完璧なタイミングだったと思うのだけれど。

 

「申し訳ありません、ユーグリッド様。シェリス様の想いに応えられようとなさるお姿は大変ご立派ではありますが、むざむざ武装している相手の前へと主君をお送りするようでは、私共の存在理由がなくなってしまいますので」


「他区画の敵勢力はほぼ制圧しておりますが、万が一、奇襲などが全くないとも、申し訳ない限りではありますが、言い切ることは出来ません」


「ユーグリッド様にはこちらでシャイナ王女をお守りしていていただけますでしょうか」


 まるで予想でもされていたかのように、完璧に返されてしまった。

 ここでごねていても時間の消費にしかならない。それも分かっていて言われているのだろう。つまり、形式上は頼まれているのだけれど、事実上、僕に選択権はないのだった。

 たしかに、シャイナを守る役目は誰にも譲りたくはない。その辺りも織り込み済みなのだろうから。


「ユーグリッド様。いつまでも、私共の魔法が魔法師団の方に後れを取っているままだとお思いですか?」


 しかし、やはり武装した男性を相手に女性を送り出すことに僕が戸惑っていることを見抜かれてしまったのか、扉に手を添えられたフェイさんが振り向きざまに尋ねられる。


「えっ? でも、魔法師団の方が、たしかに危険な任務に就くことは多いけれど、お給料も良いし、憧れられることも多いのかなあと」


 お給料のためにやってくださっている、という面が全くないとは思わないけれど、流石にそれだけではなくて、僕たちの事を心から思ってくださっているのだろうことは、普段から十分すぎるほどに伝わってきている。


「たしかに、魔法師団の方の方が実践へ赴かれることも多く、セキア様の授業を普段から受けられているユーグリッド様が、師団の方の方が実力があるとお思いになるということは不思議ではありません。そして、実際、魔法力のみでの勝負をすれば、私共が負ける確率は高いでしょう」


「ユーグリッド様が私共を心配してくださっているという、そのことだけでも、ありがたい幸せにございます。主君の心の内を察することの出来ないようでは、とても務まりませんから」


「しかし、この場は私どもの事を信用してはいただけますでしょうか。たしかに、ユーグリッド様にとっては、取るに足らない実力しかないのかもしれません。しかし――」


「分かりました。お願いします」


 フェイさん達の事を信用していないわけではない。むしろ、信頼しているといってもいい。

 それでもやっぱり、女性だからというわけではないけれど、彼女たちの主として、仕えてくれている身として、心配していたのだったけれど、フェイさん達の瞳には、強い光が灯っていて、きっとフェリスや、中にいる人たちの事を任せられると思わさせられた。

 いや、元々信頼していたのだけれど、きっと大丈夫だろうと、すっと理解することが出来た。


「お任せください。御身と、シャイナ王女の警護も怠ることはございません」


 いつの間にやら、僕たちの背後に、数名のメイドさんたちが控えていらした。僕とフェイさんが話している間に戻ってこられたのだろう。中にいる以外の、犯人グループとみられる人たちも、縛られて、捕らえられている。


「申し訳ありません、ユーグリッド様。シャイナ姫様の前で御身の恰好良いところをお見せする邪魔をしてしまいまして」


 直前に振り向かれたフェイさんは、そんなことをおっしゃられた後に、扉を押し倒された。

 いや、たしかに少しは思っていたけれど、そんなことよりシェリスたちの安全の方が十二分に大切だから! そんなことにこだわっている場合じゃないから!

 


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