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エルヴィラの車窓から 6

「冒険者同士でなら、基本的に何かもめ事やら面倒事が起こっても自己責任で解決してもらうのが、各冒険者ギルド間での、まあ、暗黙のルールとでも呼ぶべきものなんだけど、流石に他の職の人との揉め事は、うちのギルドとしては目を瞑っているわけにはゆかないんだよね」


 うちのギルド、と彼女はそう言った。

 つまり彼女がこの冒険者ギルドの責任者という事なのだろう。

 見た目的には、とても大人の女性とは言えない。身長だって、こうして並んでいるところを見ても、シェリスとそう変わらない。

 細い肩紐だけの、両肩を露出した、縁に白いフリルの付いた黒い、所謂キャミソールと呼ばれるシャツに、同じ色のショートパンツとストッキングを履いている彼女は、にっこりと笑顔を浮かべてはいたけれど、怒っているのだという雰囲気は隠し通せていなかった。

 彼女は、男性から、シェリスとローティス様、そしてノエルさん、リフィーノさん、ミナさんへと視線を移し、最後に僕たちの方へと一瞬顔を向けられた。

 それから、男性たちの方へと視線を戻されて、


「この状況では、ボクは、ギルド長として彼女たちに味方するしかないんだけど、何か言い分があるなら聞こうじゃないか」


 冒険者らしき男性たちは、小さく舌打ちを1つすると、ギルドの中へは戻らず、こちらを睨むようにした後、連れ立って歩いて行った。

 とりあえずは争いを回避出来て、ほっと一息ついてはみたけれど、まだ問題を根本的に解決できたわけではない。


「騒がしくして、果ては貴女のお手を煩わせるような事態になってしまい、申し訳ありません」


 必要以上に彼女に畏まられても話を進めるのが遅くなってしまうと思い、こちらから先に膝をつき、彼女の手を取る。

 彼女は反対の手で困ったような顔でぽりぽりと頬を掻くと、小さな苦笑めいたものを漏らした。


「ははは……あの、いくら冒険者組合は国家のあれやこれとはある程度独立しているからとはいえ、殿下にそのような態度をとられると、ボク――私も困るのですが」


 僕としてはこの程度何でもないことだと思っているけれど、彼女を困らせるのは本望ではない。


「とはいえ、こちらも冒険者間の争いにシェリスが介入してしまったことは事実ですから、よろしければ事情をお聞かせ願えると嬉しいのですが」


 シェリスが抗議するような眼を向けて来たけれど、言いたいことは分かっているし、僕だって本心では仲介したかったというのは事実だ。

 僕だって見過ごすつもりは無かったとはいえ、余計なトラブルの元を造ってしまったかもしれないことは事実。今後、このギルドに同じ用件で迷惑がかかることは、エルヴィラの第1王子としてもそうだけれど、一個人としても放っておくことは出来ない。

 それに、すでに関わってしまった案件を途中で放り出すことなど出来るはずもない。


「……分かりました。ですが、殿下」


 わずかな沈黙の後、吐き出されるような言葉に続いて、後ろを窺うように視線を移動される。


「お客人のお相手はよろしいのですか?」


「彼女たちの事なら心配はいりません、と本来であれば言いたいところなのですが……」


 大人しく馬車で待っていてくれるのならば良いのだけれど、多分、そうはならないのだろうと、半ば諦めたような気持ちで振り返る。

 やはりというか、ジーナも、エルマーナ皇女も、そしてシャイナも、馬車へと戻るような素振りを見せず、ついてくる様子だった。

 無駄だろうなとは思いつつも、一応、声だけはかけておく。


「出来れば3人とも馬車の中で待っていてくれると僕としては非常に助かるのですけれど」


 すでに遅いかもしれないけれど、必要以上に注目を集めることは避けたい。それに、どんな危険なことがあるかもわからないため、安全な馬車の中にいて貰いたかったけれど。

 

「ユーグリッド様……私にも何かお役に立てることがあればと思っていたのですけれど、やはり私ではお邪魔ですよね……すみません」


 エルマーナ皇女は、寂し気というか、悲し気な顔で、俯かれてしまった。


「ユーグリッド様が心配してくださるお気持ちはとても嬉しいですし、お立場も理解しているつもりですが、私は目の前のことから目を逸らしていたくはありませんし、しっかりと、自分の耳で聞いて、目で確かめておきたいです」


 一方、ジーナは強い、信念を感じられる瞳で真っ直ぐに見つめてきていて、引き下がるつもりは無いらしい。

 

「シャイナ……」


「私は……以前もそうでしたが、この程度の事でユーグリッド様のお気持ちを利用したくはありません。ですが、ユーグリッド様ならば、私のことは分かってくださっていると思っています」


 シャイナはオーリック公国でのことを気にしているらしかった。

 最終的に決めたのは、というよりも許したのは僕なのだから、シャイナが気にすることなんて何もないのに。

 でも、それを言うと、シャイナはもっと気にしてしまうだろうから、僕は黙ったままでいた。


「……というわけなのです。申し訳ありませんが、彼女たちも一緒で構いませんか?」


 殿下も大変ですね、と、声には出されなかったけれど、ギルド長は苦笑めいた笑みを向けられて、ギルドの中へと案内してくださるみたいだったので、僕たちは、何故だか緊張されている様子のノエルさん、リフィーノさん、ミナさんの後ろについて歩いてゆく。

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