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クリストフの誕生と、シャイナの気持ち 

「どうしてこんなに可愛いのかしらね」


 ファラリッサ様の腕に抱かれた赤ん坊を見ながら、シェリスがとろけそうな笑みを浮かべている。

 夏が始まったばかりであるドーシの月の終わり、アルデンシア王国のお世継ぎであるクリストフ様が誕生された。


「これでシャイナも安心してエルヴィラまで嫁いで来れられるね」


 今までアルデンシアの王家には、ご懐妊こそ分かっていたとはいえ、シャイナしか世継ぎの姫がいなかった。

 つまり、アルデンシアの王家を、ひいてはアルデンシアという国家を存続させてゆくためには、そもそも、エルヴィラの次期王位を継ぐであろう僕のところには嫁いでくるわけにはいかなかったというのも、僕の求婚を断っていた理由の1つにはあったのだろう。それが分かっていながら求婚を続けていた僕も僕だけれど。


「そうですね」


 シャイナは僕の方など見向きもせずに、どうでもいいような口調で生返事をしつつ、クリストフ殿下をあやし続けている。

 うわー。これ、僕の言っていることに全く興味を持っていないときのあれだ。パーティーとかに出席したとき、言い寄ってくる男性にシェリスが浮かべる笑顔とは違うけれど、そもそも今、シャイナの視界にすら僕は存在していなかった。


「おーよしよし。お父さんだぞー」


 僕は全く気にしていないし、むしろ微笑ましい光景を見ることが出来て得だとすら思っているけれど、メギド様も、いつものような厳格なお顔ではなく、シェリスと同じ、デレデレな、威厳も何もないお顔でクリストフ様を抱きかかえられた。


「国王様。公務のお時間です」


 メギド様が駄々をこねられながら、侍従の方に執務室に引っ張ってゆかれていた。

 シャイナもファラリッサ様の寝室で本を広げていたけれど、それはは学術書などではなく、育児、というより赤ちゃんに対する接し方に関する本だった。初めて出来た兄妹に、シャイナ自身、喜びを隠そうとはしていなかったし、そのつもりもなかったのだろう。

 クリストフ様が誕生されてから、僕は少しアルデンシアに来る頻度をあげようかと思っていた。

 理由は、僕もシェリスが生まれた時に少し思ったことだったけれど、嬉しいことは憂いかったのだけれど、ほんのわずかに寂しさも感じていたからだ。

 シェリスが生まれた時、当然のことながら、父様も母様も、お城の他のメイドさんたちも、皆シェリスにかかりきりだった。

 それまでは僕しか子供がいなかったのだから当然と言えば当然なのだけれど、それまで––今でも––虚空である父様の後継者として、大分甘やかされて過ごしてきたという自覚はあった。

 しかし、シェリスが生まれて、それはとても嬉しいことで、実際に僕もとても喜んだのだけれど、父様や母様、お城の皆がシェリスにばかり気をとられているようで、なんだか放って置かれているような、そんな気持ちになったりもしていた。


「でもそうか、男の子か……」


 意識してのつぶやきではなかったので、特にないように注意を払っていた訳ではないのだけれど、シェリスとシャイナが呆れたような目で僕の事を見つめていた。


「もしかして嫉妬ですか、ユーグリッド様」


「兄様。家族にまで嫉妬していてどうするのよ」


 シェリスとシャイナ姫はすっかり仲良くなっていて、それはとても喜ばしいことだったけれど、エルヴィラに居る時はそうではないにしろ、アルデンシアに来ると、僕の疎外感が増すような感じもする。

 女の子2人に僕は男だから仕方がないのかもしれないけれど、早くクリストフ様が育って、僕の味方になってくれることを切に願う。


「あら。シャイナだって以前、シェリス姫に嫉妬していたじゃない」


 ファラリッサ様の一言が、室内の空気を凍らせる。


「それでユーグリッド様を追い出して、それでも足りずに、エルヴィラまで追いかけていったりもしたり」


「お母様、何をおしゃるのですか!」


 シャイナが真っ赤な顔で、ファラリッサ様に詰め寄って抗議していたけれど、ファラリッサ様に敵うはずもなく、顔を林檎のように染めたまま、僕の方までつかつかと歩み寄ってきた。


「ユーグリッド様。別に、私はユーグリッド様とシェリス姫の中に嫉妬していたわけではありませんから」


 へー、そうか。あの時、シャイナは嫉妬、やきもちを焼いていてくれたのか。

 もちろん、意図してそうしたわけではなく、結果論だけれど、何だか嬉しい気持ちになる。

 嫉妬させて喜んでいるなんて、悪い奴の発想だから、あまり素直に喜び過ぎない方が良いのだろうけれど、どうにも口元が緩んでしまった。


「聞いていらっしゃいますか?」


「うん、聞いてる聞いてる。シャイナが僕とシェリスの仲に嫉妬して、怒ってエルヴィラまで様子を見に来てくれたってことだよね」


 全然聞いていらっしゃらないではないですかと、シャイナが怒っている風の顔でグイっと顔を近づけてくるのだけれど、その顔はまったく怖くなく、むしろ可愛かった。


「全然、聞いていらっしゃいませんね」


 僕とシャイナが言い合いをして(じゃれ合って?)いる間、シェリスはずっとファラリッサ様と一緒に、クリストフ様の寝顔を鑑賞していた。

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