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庭でお茶会

 到着されたばかりでお疲れかとも思われたのだけれど、ローティス様はそのような素振りは見せられず、ただ、今日移動していらして、また馬車での移動は大変だろうという配慮の結果、庭で一緒にお茶をいただくことになった。

 よく晴れた空の下、穏やかで暖かな風が吹く芝生の上、丁度木陰になっているところへ、白いテーブルと椅子が用意されて、シャイナとクリストフ様を含めた僕たち5人は、揃って座っていた。


「クリストフ・エルフリーチェです」


 僕たちは順番に挨拶を済ませていったのだけれど、昨夜シャイナを追い詰めていた時とはまるで違う、とても親しみやすさを感じられる笑顔で挨拶されたクリストフ様に、ローティス様も、きっと主婦層の方を虜にしてしまいそうな笑顔を浮かべられた。


「ローティス・グランシアールです。よろしくお願いします、クリストフ様」


 一応、クリストフ様とシャイナには、迎えに行ったときにローティス様の方の事情は話してあった。

 僕は全くそっちの方に考えを働かせてはいなかったのだけれど、クリストフ様は、シャイナとローティス様が仲良くなることを危惧されていらしたみたいで、まだ完全にはその警戒を解いてはいらっしゃらないらしかった。

 僕にとってはありがたいことだけれど、クリストフ様はファラリッサ様寄りの考え方で、僕とシャイナの中を取り持ってくれようとしてくださっている。そのため、出来ることならば、この場では、ローティス様にはシャイナではなく、シェリスといて欲しいと思っていらっしゃるのだろう。

 一方のローティス様は――僕の思い違いかもしれないけれど――そんなことは全く気にするどころか、想像すらしていらっしゃらない様子で、わずかに首を傾げられた。


「ユーグリッド王子がシャイナ姫に想いを寄せていらして、アルデンシアまでよく遊びにいらしているというのはレギウスでも有名ですけれど、本当に皆さん、仲がよろしいのですね」


 その話ってそんなに有名だったんだ。

 エルマーナ皇女も、ジーナもそこまでは……いや、知っていたっけ? それとも、その2人とのことがあったから余計に、ということかもしれない。

 意図していたわけではなかったけれど、こういうのをあれかな、既成事実とかっていうのだろうか。

 僕としては、そういう風にして周りに認知されるというのは、あまり本意ではないのだけれど。

 しかし、こうして実際に会って話してみると、


「ローティス王子は、別にシャイナやクリストフ王子の事をどうこうと思っていらっしゃるわけではないのですね」


 そう尋ねると、ローティス王子は少し困った顔をされた。


「……僕個人としては、こうしてお話をさせていただいても、シャイナ姫やクリストフ様に思うところはありません。それどころか、おふたりとも、とても素敵な方だと思います。けれど、その、僕の家族は」


 そこで言葉を濁された。

 なるほどね。


「政略結婚ですか」


 つい声の持ち主の方を凝視してしまった。

 僕は思っていただけで、まだ言葉にはしていないはずだった。しかし、僕と全く同じことを思っていたらしいシャイナは、臆することなく、言葉を飾ることもなく、はっきりと言いきった。

 たしかに、公式の場ではないし、遠慮する理由も――少なくとも僕たちの側には――ないのだけれど。


「……信じていただけるか分かりませんが、僕がシェリス姫をオーリック公国でお見かけしたのは事実です。ですが、笑顔が素敵な女の子だなあと思ったくらいで、ここまで大胆なことは思っていませんでした」


 シェリスの素敵なところなら、シャイナと同じくらいには語ることは出来たけれど、それは今の話題の中心ではないので控えておいた。

 それはともかく。

 だとすると真相は。


「……おそらく、母様が原因でしょう。もちろん、僕がシェリス姫に見とれていたり、ポロリと話してしまったせいだということも多分にあるのでしょうけれど――もちろん、母様にではありません――まさかここまでの事になるとは思ってもいませんでしたから」


 つまりこういう事だろう。

 オーリック公国のギルドで働いていたシェリスを、偶然、オーリック公国を訪れていたローティス王子が見かけられる。

 道中、あるいは、帰ってから、ふとシェリスの事を思い出して、可愛かったとか、そんな感じの感想を漏らされる。

 護衛の方、もしくはお城で働かれている方のどなたかがつぶやきを聞いてしまう。もしくは、直接王妃様が。

 それが、王妃様、ローティス王子のお母様の耳に届けられる。

 大分話を盛ったか、誇張された表現の手紙が書かれ、エルヴィラへ届けられる。

 あの手紙はおそらく、ローティス王子本人が書かれたものではなく、別の人が書かれたもので、後は僕たちも知っている通りの流れだった。

 とまあ、簡単にするとこんな話なのだろう。


「一目惚れや、運命の相手、などと言ったことを否定するつもりはありませんし、ロマンチックだとは思いますが、僕個人としては、やはり、よく相手の事を知ってから、そういうことは話を進めたいと思っていますから」


 この場に集まった、ローティス様以外の視線が一斉に僕へと向けられる。

 たしかに僕はシャイナに一目惚れで、その場ですぐに告白したけれども!


「一目惚れでも何でも、ずっと想われているのは素敵だとは思いませんか?」


 クリストフ様がフォローを入れてくださる。


「はい。それは僕もそう思います。ずっとその人1人の事だけを想い続けていらっしゃるのは、とても素敵だと思います」


 もしかして、と、ローティス様が僕とシャイナの顔を交互に見比べられる。


「ユーグリッド様はシャイナ姫に一目惚れされたのですか?」


「ええ」


 それは事実だったし、別に恥ずかしいことだとも思っていないので、僕ははっきりと言いきった。


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