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密室の浴室

 シャイナが僕の部屋に泊まる。

 ただそれだけのことであるはずなのに、告白どころか、段階を2つも3つもすっ飛ばしたような展開に、とても落ち着いてなんていられなかった。

 かといって、必要以上にそわそわしているのも変に思われるし、とりあえず落ち着くことが必要だと思い、お湯につかることにした。

 エルヴィラのお城の僕の自室には――父様と母様の部屋と、シェリスの部屋にも――浴室が備え付けられている。

 もちろん、大勢が入ることのできる大浴場もあるけれど、僕は普段そちらを使うことはあまりない。というのも、大浴場で入浴しようとすると、メイドさんたちに身体を洗われそうになったりするし、それはそれで嬉しいのだけれど、やはり恥ずかしい。

 伝えれば一応止めては貰えるのだけれど、あまりにもがっかりされるものだから、罪悪感というか、申し訳ない気持ちで、どうも落ち着かない。僕がそう思うことも、彼女たちにとっては後悔の対象になるのだろうから、極力、思わないようにはしているけれど。

 そんなわけで、自室の風呂ならば、誰に遠慮をすることもないし、のんびりとくつろぐことが出来るということで、クリストフ様を大浴場へと案内した後に、ゆっくりとお湯につかっていた。

 自室の風呂とはいえ、狭いわけではなく、手足を十分に伸ばすことのできるだけの広さはある。

 そういうことを意識しているわけではないけれど、シャイナとクリストフ様が同じ部屋でお休みになるのだから、髪も身体も、良い香りのする石鹸で、いつもよりも念入りに洗う。

 自室でも、大浴場でも、風呂は風呂だなあと、まさに至福にひたっていると、脱衣所の方から、物音が聞こえてきた。

 クリストフ様が戻ってきたのだろうか。

 僕が部屋の中に見当たらないから、探して回っている?

 まあ、今は気にしなくても大丈夫だろう。

 僕はここで逃げ出すようなヘタレではないつもりだし、クリストフ様も、僕がすっぽかすとは思っていらっしゃらないだろうから、僕が戻るまで待っていてくれることだろう。

 しかし、僕がいることは確認できただろうに、脱衣所から人が去る気配は感じられない。

 それどころか、かすかな衣擦れの音がずっと聞こえてきていて、やがて、脱衣所のドアが開かれた。


「わ!」


 気になって確認しようと、浴槽から出ようとしていた僕は、慌ててお湯に身体を沈めた。

 侵入者の方は驚いて、声も出せない様子だった。

 というよりも、シャイナだった。

 なんで? どうして、僕の部屋にシャイナが? それに、え? なんで、裸、というか、タオルだけなの?

 などという疑問が頭をめぐる暇もなく、頭に血が上るのが分かる。

 シャイナの方も、初めはきょとんとしていたのだけれど、僕と、自分の恰好へと、視線を交互に移しながら、見る見るうちに赤くなって、その場に小さな身体を抱えてしゃがみこんでしまった。

 おおお、落ち着け、れれ、冷静になれ。ここは自室が裸で、シャイナが風呂場で、タオルがすらっと真っ白な手足で――って、落ち着けるわけがない。

 

「ど、ど、どうして――」


 やっとの思いで、それだけ言葉をひねり出す。

 完全にパニックに陥っていて、風呂場から出て行くように示唆するまで頭が回らない。

 シャイナの方も僕のことをじっと見つめていて、その場から動けない様子だった。


「と、とにかく、そんなところに立っていないで、入ってきたら」


 ああああ!

 何を言っているんだろう僕は。声が裏返らなかった自分を褒めてやりたい。

 たしかに、そのままの恰好でいたら風邪をひいてしまうだろうことは確実で、だからといって、まだお風呂に入っていないであろうシャイナに着替えをさせるわけにもいかず、僕が先に出て行くこともまたできない。出入口は1つしかないのだから。

 シャイナは引き返すかと思っていたけれど、何を思ったのか、本当に入ってきた。

 いや、良いんだけどさ! 勧めたのは僕だし、浴槽は2人入るくらいのスペースはあるし、そのままだと風邪をひいてしまうし。

 いかん。全然、冷静じゃない。いや、冷静でいられるはずもないのだけれど。


「ク、クリストフが、その」


 ところどころ端折りながらシャイナが言い訳をするように語ってくれたところをまとめると、どうやら、シャイナはクリストフ様に促されてここへ入ってきたらしい。

 僕の着替えが置いてあったのは、僕が部屋の風呂を使った後に少し部屋を開けていて、まだ回収されていないからだと思ったかららしい。

 風呂の中は防音で、中から外の様子は聞こえるけれど、外からは中の音は聞こえない。少なくとも、この部屋は。貴賓室、というか、結婚した後の初夜を迎える部屋や、父様と母様、夫婦の部屋は違うらしいけれど、詳しいことは分からない。

 とにかく問題なのは、今、僕の目の前に、タオル1枚だけを纏った、ほぼ裸だといっても過言ではないシャイナがいるという事で。


「ぼ、僕は、もう出るから、シャイナはゆっくりしていって」


 こんな状況は、たしかに望んではいたけれど、いざ、なってみると、まだ心の準備が足りなかったらしいという事を思い知らされた。

 それで、浴室から出て行こうかと思ったのだけれど。


「あれ、ロックされてる」


 困った(嬉しい?)ことに、扉はロックされていて、少しも動かせる気配がない。

 よく見てみれば、魔力が感じられて、どうやら、固定か何かの魔法で閉じられていた。

 つまり、僕はシャイナと2人で浴室に閉じ込められていた。

 


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