誕生日パーティー シャイナ姫の10歳の 2
プレゼントを渡して、シャイナに挨拶を済ませた後、僕とシェリスはたくさんのご婦人方、紳士の皆様に囲まれてしまった。
こういったパーティーなんかに参加させていただくたびに思うのだけれど、例えば今回ならばシャイナ姫の誕生日を祝うために集まっていらっしゃるはずなのに、僕達のところに集まっているのもどうかとは思う。
まあ、僕が出席すればこうなるだろうことは予想がついていたわけで、ある程度は仕方ないと、受け入れるしかないとは思っているけれど、何となく思うところはある。
僕がシャイナ姫に結婚を申し込んでいるというのは、実際ならエルフリーチェ王家とそこに仕えていらっしゃる方々、そして僕の家族と、お城に皆さんしかご存知ではないはずだけれど、例えばこちらのお城のメイドさんの噂話だったり、仕えていらっしゃる方がお家でなさるお話の伝播だったりで、結局はアルデンシアの多くの方がご存知だという状況らしい。
もちろん、僕は初めて彼女に心を奪われた日から、シャイナの事ばかりを考えてはいるけれど。
壇上で、すました顔で座っているシャイナは、特に僕の事を気にしている様子は見られず、会場が広いということもあるのだろうけれど、中々顔を合わせることが出来ないでいた。
「ユーグリッド様」
少し失礼と、壁に寄りかかりながらどうしたものかと考えていると、ファラリッサ様がお声をかけにいらしてくださった。
「今日はシャイナのためにありがとうございます」
身重なファラリッサ様を心配したのだけれど、お気遣いありがとうございますとおっしゃられただけで、腰掛けられようとはなさらなかった。
「私こそ、招待していただき、大変感謝しております」
形式的な挨拶をさせていただくと、ファラリッサ様は少し嬉しそうなお顔を浮かべられた。
「先程、本当はユーグリッド様とシェリス姫だけをお呼びするつもりだったと申し上げましたけれど、結局こうしたパーティーになってしまったのは、貴族の方達からの横やりが入ったとか、そういう事ではないのですよ」
何故だかお分かりになりますか? と尋ねられ、僕は首を横に振った。
他に、どなたがファラリッサ様のご意思を留まらせることが出来るというのだろう。
メギド様? いやいや。ファラリッサ様やシャイナ姫に激甘なメギド様には無理だろう。もしかしたら、僕とシャイナ姫の事を離そうとお考えだったかもしれないけれど、本気でそこまでなさろうという方ではないはずだ。
「私もシャイナのお部屋で、2人きりで過ごしていただければと思っていたのですけれどね。あの子、そんなことをしたら恥ずかしくて死んじゃうなんて言うんですよ」
多分、ファラリッサ様のおっしゃられたような言葉、言い方ではなかったのだろうけれど、シャイナ姫が僕の事をそんな風に思っていてくれたのか。
というか、それは僕に聞かせてしまっても良かった話なのだろうか。
もちろん、僕は嬉しかったけれど。
「お祭りのときのこともとても楽しそうに話していましたよ」
「……あの時、私が案内させていただいたのはシャイナ姫ではなく、リーチェさんとおっしゃられた可愛らしいお嬢さんでしたけれど」
「そうでしたね」
ファラリッサ様がくすりと笑われた。
もっとも、シャイナ姫には僕が気づいていたことにも気づかれていて、種明かしはとっくに終わっていたのだけれど。
「ご歓談中のところ、まことに申し訳ありません。ファラリッサ様、ユーグリッド様」
それからファラリッサ様が、このパーティーへの招待状を書かれてからのシャイナ姫の様子を語ってくださろうとなさったところで、メイド服に身を包んだ女性が話しかけてこられた。
「ファラリッサ様。そろそろ……」
「あら、もうそんなに経ってしまいましたか?」
ファラリッサ様が会場の壁に取り付けられている、大きめの時計を見上げられる。
「すみません、ユーグリッド様。あまり長い間立ち上がったりすることは止められていまして。もうすぐだとは思うのですけれど」
ファラリッサ様が愛おしそうに大きくなったお腹を撫でられる。
「この子が生まれてきてくれた時には、ユーグリッド様と、シェリス姫もお祝いに来てくださいますか?」
是非もない。願ってもないことだ。
「よろしければ是非」
男の子だろうか。それとも女の子だろうか。
シェリスが生まれてくるときにも僕はとても楽しみだったけれど、シャイナに弟妹が出来るのも、とても嬉しいことだ。
「それではすみませんが。あまりあなたを独り占めにしていると、シャイナに怒られてしまいますから」
ファラリッサ様が、僕に頭を下げてくれたおそらくはお医者様と思われる方達と会場を後にされたのを見送り、振り向くと、すぐにシャイナ姫の事を見つけることが出来た。
隣にはシェリスもいて、2人は楽しそうに––少なくとも笑顔を浮かべて––話し込んでいるところだった。
お祭りのときに、シェリスは正体を知らなかったとはいえ、仲良くすることが出来ていたのだから、本当は仲良くできるはずだと思っていたけれど、どうやら問題なかったようだ。
「お兄様」
周りに人が、他人がいるからだろう。シェリスがいつもとは違う、お淑やかそうな声と態度で僕に声をかける。




