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オーリック公国 45 ここからが本当の闘いだったとは想像していなかった

 その夜、公家のお屋敷に戻った僕たちはヴィンヴェル様とミーリス様に事の結果を報告させていただいた。

 もちろん、ヴィンヴェル様も、ミーリス様も、お屋敷に詰めかけられた方たちの対応を為されていたのだから、僕たちがわざわざ報告しなくとも事の顛末をご存知ではあっただろうけれど、僕たちが宣言していたことだし、お話しすることは義務だっただろう。

 しかし、今回はどこのギルドも自身のギルドを収めるのに手いっぱいだったようで、議会を招集されることはなかった。それはまた後日、僕たちが帰ってから行われるという事だった。


「決して貴殿らを信用していないなどという事ではないのだが、今はこの国も手いっぱいでな。許して欲しい」


 最初にヴィンヴェル大公はそうおっしゃられて、頭を下げられた。

 僕たちは十分に状況について理解していたため、そのことに対して、何か言うべきことはなかった。

 それに、元々、他国の中枢とも呼べるだろう会議に僕たちが参加するべきではないと思っていた。たしかに非常事態ではあったけれど、その件には僕たちが必ずしも参加する必要はないだろう。


「代わりと言っては何だが、各ギルド長に確認を取ってみたところ、やはり一言でもお礼を申し上げたいと、全員の意見が一致していてな。私たちが普段開催している会議でも、満場一致というのは実に珍しく、出来ればこの機会を有効に利用したいと考えているのだが、どうだろうか」


 お気になさらないでください、と言いたいところだったけれど、国家元首の代理としては、オーリック公国の各ギルドの長と顔を繋いでおくというのは重要な案件でもあった。

 とはいえ、おそらくはいつもと同じような感じになるのだろう。

 有力ギルドの長の方たちが、他国、それも近隣の大国であるエルヴィラとアルデンシアの次期国王候補と、それからもちろん、先のミクトラン帝国での見事なステージを演じたシェリスと、すでに各国で素晴らしいヴァイオリンその他の評価を得ているシャイナに対して、アプローチがないはずがない。

 そしてそれはエルヴィラやアルデンシアにとっても有益な話であるので、僕の一存で止めることは出来ない。

 それに、名目上は僕たちの帰国に合わせたお礼のパーティーということになっているので(ヴィンヴェル様は申し訳なさそうなお顔をなさっていた)こちらの公家のためにも、断るわけにはゆかないだろう。


「ありがとうございます、ヴィンヴェル様」


 僕とクリストフ様は揃って頭を下げた。



 事態の収束には4日ほどを要した。

 すでに、公家の客人というだけではなく、身分を明かしてしまっていた僕たちはおいそれと外へ出歩くわけにもいかず、公家の敷地内で一緒に勉強をしたり、魔法や体術の鍛錬をしたり、もちろん、双六だったり、あやとりだったり、追いかけっこだったりを遊んだりもして楽しく過ごした。

 ヴィンヴェル様とミーリス様にだけ事後処理の事務をお願いしてしまって、僕たちはこんなことをしていて良いのだろうかとも思ったけれど、僕たちに手伝えることがあるわけでもないし、もちろん、ここに国での仕事を持って来ているはずもない。

 何より、シェリスやクリストフ様が、僕やシャイナを遊ばせたがったので、ジーナとヴィレンス公子とも一緒になって、滅多にない休暇を楽しむことにしたのだけれど。


「見方によっては僕たちは毎日遊んでいると言えなくもないけれどね……」


 確かに僕たちはお城で、たまには公務を手伝い、勉強に、魔法や体術、それから芸術なんかをしながら過ごしてはいるけれど、それらは王族としての基礎教養であると同時に、やらなければならないことであり、また、僕たちが望んでいることでもある。

 それによって利益を得ているわけでもなく、街中の視察だって、毎日ではないし、僕たちがしなくてはならないことであるのと同時に、したくてしていることだ。

 まあ、今は、エルヴィラにいるのとは違い、シャイナやクリストフ様、それにヴィレンス公子やジーナも一緒にいるわけで、そういった意味では特別と言えなくもない。


「兄様は固く考え過ぎよ」


 そんな風に考えていると、シェリスが可愛らしく呆れた感じに僕を引っ張っていった。

 今日は天気も良く、他の皆は庭の木陰にシートを敷いて、お皿に山盛りになったクッキーや、白いクロスのかかったテーブルに置かれた紅茶、サクランボのゼリーやオレンジのパウンドケーキ、苺のタルトなんかを、次々にメイドさんたちが作っては持って来てくださる。

 

「兄様はシャイナと遊びたくないの?」


 シャイナと一緒に、と言われると弱いので、僕は仕方ないかなどと言いつつも、シェリスに手を引かれるままについていった。

 我ながら単純だとは思うけれど、仕方ない。

 つい先日も、同じような手口に引っかかった――頷かされた記憶もあるけれど、シャイナと一緒にという誘惑は僕にとってはいつだって有効なのだから、僕がシェリスに勝てないというのも道理ではある。

 シートの上にジーナが広げていたのは、毎度おなじみの、例のファーレン聖王国の恋愛双六だった。ただし、こちらはオーリック公国版となっていて、あらためてこの双六の人気が伺えた。


「待って、これって恋人同士が2人でやるものじゃないの?」


「これは大人数でやるタイプのやつよ。好きな人や気になる人が、他の異性と仲良くしているところを見られることで、より燃え上がりますよ、って説明書きに書いてあるわ」


 いや、その理屈はおかしい。

 要するに、恋人が、あるいはそこまで進展していなくとも、好きとか、気になっている人が、他人と仲良くしているところを眺めなくてはならないなんて、それはちょっとした拷問じゃないの?


「そんなに言うなら、兄様はやらなくてもいいわよ。その代わりに、私たち5人でやるから」


 シャイナもこれをやるのを承服したという事だろうか。

 ちらりとシャイナの顔を見ると、目が合ったシャイナは、少しばつの悪そうな顔をしていた。それを見ながらシェリスが得意げになっているところを見ると、どうやらはめられたらしい。

 クリストフ様はにこにことしているし、ヴィレンス公子もやる気は十分にありそうだ。そしてちゃっかり、シャイナの隣に腰を下ろしている。

 

「ユーグリッド様。せっかくですから、ご一緒してはくださりませんか? もうすぐエルヴィラへ戻られるのでしょう? そうしましたら、しばらくお顔を見られなくなってしまいますから」


 ジーナが寂しそうな顔を浮かべるので、女性にそんな顔をさせるわけにはいかず、僕は開いていたスペース、ジーナとシェリスの隣に腰を下ろした。



 

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