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オーリック公国 42 騒動 20

 路地を抜け、広場が見えてくると、何事かと振り返る人たちの間を抜けて、真ん中まで一気に駆け抜けた。

 噴水の前で立ち止まると、何事だろうかと、広場にいた人たちの視線が集まり、ジーナだということに気づいて驚くような声も聞こえてきた。


「おい、あそこにいるのはもしかしてジーナ様じゃないのか?」


「さっき騒いでたやつらが探してなかったか? 堂々とこんなところにいらして大丈夫なのか?」


「隣にいるのは護衛か何かか? それにしても1人というのは……」


 そんな周囲のざわめきをかき消すように、追っ手の皆さんも広場に姿を現した。

 当然、武装しているようにも見える彼らが出てきたことで、周囲のざわめきも大きくなる。

 しかし、彼らもこんな空気の中でいきなり仕掛けてくるような事もないだろう。というよりも、出来ないだろう。


「おい、そこのお前。悪いことは言わないから、そちらの女性を引き渡して貰おう」


 これだけ衆目のある中で直接要求するなんて大した度胸だ。

 たしかに、今ここで見守っていらっしゃる方たちは、当たり前だけれど、武装しているようには見えないので、彼らがその気になればすぐに制圧――黙らせることは可能だろう。

 おそらくそんな手段はとらないはずだけれど、こうして人目についてしまった以上、彼らの計画は大分崩れてきているに違いない。そもそも、僕たちが現れたということが想定外なのだろうから。

 

「あなた方に引き渡すつもりがあるのなら、わざわざこんな風に逃げ回っていたりはしなかったはずですが?」


 リーダーらしき男性が、面倒くさそうな表情で頭をかきながら、ため息をつき、地面を蹴る。


「いいか、坊主。俺達にはな、そこの女を捕まえる必要がどうしてもあるんだ。お前だって、くだらない正義感で死にたくはないだろう?」


 彼らが懐からナイフを取り出すと、周囲から少なくない悲鳴のようなものが上がった。

 その話は先日もしたと思うのだけれど、もしかして、組織内で連携をとったりはしていないのだろうか? それとも、別の組織だということだろうか?

 それは分からないけれど、今はどちらでも違いはない。

 僕はジーナを安心させるように、強くその手を握った。


「女性に対して、大の大人が複数で、しかも武器まで持ち出さなくてはならないような話とは、一体、どのようなご用件なのでしょうか?」


 彼らにだって言いたい事、やりたいことはあるのだろう。そうでなければ、こんな騒動まで起こす理由はない。

 しかし、だからといって、何をしても良いという事にはならないだろう。

 自分たちよりも随分年下の女の子を、複数人で追い回す。それだけでも、年頃の女の子には恐怖であるはずだ。

 たまたま、今回は僕がついていたから良かったようなものの、断じて許せることではない。


「何だと?」


 彼らとの会話をのらりくらりとかわして時間を稼ぎながら、シャイナやシェリス達に連絡を取る。

 

『公家邸宅で落ち合うということになっていたけれど、僕たちはそちらに行かないことにしたから。皆は先に戻っていて』


 とはいえ、理由くらいは説明しなくてはならないだろう。

 しかし、ここで今の状況を説明してしまえば、皆、こっちへ来ると言い出しかねない。

 僕のせいかもしれないけれど、今、この広場はいつ均衡が崩れてもおかしくない状況だ。

 それは戦力的な意味ではなく、精神的な問題だ。

 今は、僕とジーナ公女しかいないという状況だけれど、流石にこの後にシェリスとシャイナ、クリストフ様十ヴィレンス公子まで来てしまっては、流石にこちらの身元も明かさなくてはならなくなるだろう。

 現状の彼らの優位性を崩してしまえば、どんな行動に出られるか、予測がつかなくなる。少なくとも、ジーナと、僕みたいなのが1人いるだけだと思わせておけば、彼らも変な行動には出ないかもしれない。

 まあ、一応念話は送ったのだけれど、素直に戻っていてくれるとは考えていない。ついた時に僕たちがいないことを心配させないための保険のようなものだ。


『僕とジーナは広場に集まられた皆さんと話し合うことにしたから』


『ジーナ?』


 シェリスがそういったかと思うと、急に念話を遮断してしまい、代わりに、ジーナが何だかわちゃわちゃしだしたから、おそらくシェリスはジーナに念話を送りなおしたのだろう。何の話をしているかは知らないけれど。

 ジーナがシェリスと話している間に、僕は集まっていらした人たちが、こちらに対していきなり飛びかかって来たりしないかどうか注意していた。


「お前は一体誰なんだよ!」


「お前のような護衛で話になるものか!」


 僕は護衛ではないけれど、まあ、この状況では似たようなものか。

 一応、ざっと見回した中には、僕がお世話になったギルドの方たちはまだ戻られていないみたいだし。


「ええ。皆さんがそう思われるのも無理はありません。しかし、ご覧の通り、彼女はあなた方に追いかけられて大分疲れています。そんな状態でそれ以上に無理を重ねさせるわけにはゆきません。とりあえず、彼女にも言葉は届いていることですし、この場は私が皆さんの話を聞くという事で納得してはいただけませんか」


 ジーナから、自分が受け答えをしますという念話が届いたけれど、彼らの興奮が収まるまでは僕が相手をしていた方が良いだろう。奇襲がないとは言えないし、正面に立ったというのに、あからさまに防御魔法を展開するわけにもいかないだろう。その点、僕ならばあまり心証が悪くなることもないはずだ。

 

 

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