オーリック公国 30 騒動 8
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結構な大所帯だった僕たちだけれど、街の人たちは自分たちの事で手いっぱいだったようだし、僕たちの説得の後を引き受けてくれたヴィンヴェル大公とミーリス様のおかげもあって、誰に見とがめられることもなく、苦も無く、ポシスギルド長の屋敷へとたどり着くことが出来た。
やろうとしていることは不法侵入だけれど、すでに1度やっているわけだし、今、街中で起こっている騒動に比べれば大したことはないだろうと無理やり正当性を考えてみたりもした。
「ここまで来ておいて、何を今更、常識的なことを考えているのよ」
兄様が先へ行かないのなら、と先頭に出ようとしたシェリスの手を掴んで引き留める。
まさか、黒幕らしい人物のところへの侵入の先鋒を妹に任せるようなことは出来ない。
しかし、先日シャイナと一緒に調査に来た時とは違い、見張りの人物が屋敷の入り口に立っている。やはり、警戒させてしまったか。
「こんなところで立ち往生するつもりじゃないでしょうね?」
どうしようか話し合おうと振り向いたところ、シェリスと、そしてクリストフ様が、僕たちが静止する間もなく、飛び出してしまった。
「クリストフ」
シャイナがわずかに眉を寄せる。
「姉様。ここは僕たちに任せてください。大丈夫です、危険な事にはなりませんから」
クリストフ様はこの場の状況にそぐわない、さわやかな笑顔を浮かべると、速足気味に、先へ歩いていたシェリスに追いつかれた。
「どうしたんだい、お嬢ちゃんたち。ここはお嬢ちゃんたちみたいな子が来るようなところじゃないよ。夜も遅いし、今街は大変な騒ぎになっているから、巻き込まれてお父さんお母さんを心配させないように早くお家へ帰りな」
追い返そうとする門衛にシェリスは、
「あの、私たち、街の中の争いに巻き込まれないように逃げてきたんだけど、途中でお兄ちゃんが怪我をしちゃって。お医者さんも、誰も、話を聞いてくれなさそうで、それで、その、人がいそうなところがここしかなくって」
顔を見合わせて頷き合うと、僕は地面を転がって良い感じに服を痛めつけて、それだけでは物足りなく感じたので、
「ヴィレンス公子」
「ああ、分かっている」
まさか、シャイナやジーナ公女に、すぐに治すことが出来るとはいえ、怪我など負わせるけにはいかない。
せっかく、お城のメイドさんたちが縫製してくださった服だったし、申し訳ない気持ちで一杯だったけれど、ところどころを焦がし、焼き切り、裂き、破り、汚してゆく。
先に出たシェリスやクリストフ様、シャイナとジーナ公女の身体には何もないというのは、些か不自然に思われるかもしれないけれど、僕たちが身を挺して守ったという事にして貰おう。実際、そのような場面に遭遇したら、そうするだろうし。
僕とヴィレンス公子が偽造工作を終え、仕上げにと壁に寄りかかってしゃがみ込んで、地面に腰を下ろしたところで、シェリスたちが「こっちです」と誘導して来てくれたのが分かった。
シェリスの事だから、他に見張りの人がいないかどうかもチェックしていることだろうし、連れてきて問題ないと判断したのだろう。
「――兄様」
『本当に怪我してみせることなんてないのに。ごめんなさい』
表情は演技で心配していたのだけれど、念話からは心底謝っているのが感じられた。
『シェリスが気にすることじゃないよ。本当は、怪我なんてしなくても制圧出来たと思うし、シェリスもそう考えていたんだろうけれど、こっちの方がやりやすいだろうと、勝手に判断した結果だから』
「おい、あんた、大丈夫か。しっかりしな」
門衛の方は2人ほどいらしたと思うけれど、シェリスとクリストフ様と一緒にこっちまで付いてきたのは1人だけだった。
「今、包帯とか取りに行かせているからな」
中に入り込めるかと思ったけれど、そこまでは甘くなかったらしい。
どうせ入るのだから、あまり関係なかったけれど。
今の彼らがやっていることがどうであれ、少なくともここまでは親切心で来てくれたのだろうに心苦しかったけれど、僕たちには使命がある。
そして、無駄な戦闘は出来る限り避けるというのも大切だ。
「すみません」
「いや、良いってことよ。気にすんな」
おそらく、根は良い人なのかもしれないし、何も知らされずに、雇われているだけなのかもしれない。
いずれにせよ、今は関係ないけれど。
「いえ、別の事――貴方を騙してしまったことに対してです」
「は?」
突然、騙してしまったなどと言われて、目を白黒させていた男性が、僕の方へと倒れ込んでくる。
クリストフ様が当身か何かで気絶させられたらしい。
「おい、薬と包帯を――」
わざわざ、お屋敷の中から持って来てくださった男性の前にシャイナとジーナ公女が身を現す。
「は? え? なんで、ここに、それに――」
「すみません」
シャイナは一言謝ってから、広げた手を前へと突き出した。
直後、包帯と薬と手にしていた男性は、くらくらとしながら倒れ込んできて、それをジーナ公女が受け止められて、静かに壁へ、先程の男性の隣へと静かにもたれかけさせられた。
「さあ、行きましょう。時間もありませんし」
僕とヴィレンス公子は、浄化の魔法と、治癒の魔法を使って、即座に治療をして、流石に女性のいる前で服を着替えるわけにもいかず、収納している上着を取り出して羽織り、屋敷の中へと足を向けた。




