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オーリック公国 29 騒動 7

 ひとまずの危機的な状況は乗り切ることが出来たけれど、本番がこれからであるのは間違いない。

 地上はいまだに混乱していたけれど、幸いなことに、空中は混雑しようもないので、僕たちは楽に合流することが出来た。

 シェリスとクリストフ様の方も、シャイナとヴィレンス公子の方も、大きな問題はなく解決出来たようで、僕たちは全員、無事な姿で集まることが出来ている。

 しかし、こうして集まった顔を見ると、違う国の、それも世継ぎに当たるだろう人間がよくもこうして同じ目的のために集まったものだと感心する。

 髪の色も、瞳の色も、母国語も、どれも違う人間が、同じ1つの事を解決するために集っているのは、意外と凄い事なのかもしれない。

 それからしばらく、何故か誰も言葉を発することはなく、かといって、我先にと動き出すような事もなかった。

 互いが譲り合うようにして、ちらちらと互いの顔を確認し合っている。

 すると、シェリスに横からお腹へのパンチを貰った。

 一体どうしたものか、空中だというのにもかかわらず、ための入った良い突きだった。

 危うく情けない声を上げる寸前だった僕は、この理不尽な仕打ちに対して、抗議するようにシェリスの顔を見た。


「何するんだよ、シェリス」


「お兄様が……兄様がボケっとしているのが悪いのよ」


 一体何のことだと思っていると、どうやら、この後の陣頭指揮の問題らしく、シェリスは僕が執るのが適任なのだと思っているようだけれど。


「いや、それは僕じゃなくて、ジーナ公女の方が適任なんじゃ」


 エルヴィラならばともかく、ここはオーリック公国で、その国の事は出来るだけその国の人間が解決した方が良いのではないかと思っている。

 しかし、それではこの騒乱のさなかに、ジーナ公女に矢面に立ってもらうことになる。

 女性に危険な役割を任せて、後方に引っ込んでいるなど、それは紳士としてあるまじき行動だとは思う。

 手を繋いでいる方の、斜め横の方をちらりと窺うと、ジーナ公女が決意の光を宿した瞳をしていた。


「私もユーグリッド様のおっしゃる通りだと思います。これはオーリック公国の問題。私が率先して前に出るべきです」


 ほら、こんなこと言いだしちゃったじゃない、と、シェリスから念話は来なかったけれど、そんなことを言いたげな視線を感じる。


『シェリスは一体誰の味方なのさ』


『そんなの勿論、正義の味方よ……冗談よ。私は私の味方よ』


 ああ、それは冗談ではないのか。

 それは今は良いとして、問題は、いや、正確には問題ではない。


「私は……今すぐにでも、ポシス様のお屋敷へ向かうべきだと思いますが、皆様、いかがでしょうか?」


 しばらくの沈黙を挟んだ後、尋ねるような口調ではあったけれど、しかしはっきりとした強い意志を感じる声で、ジーナ公女は僕たちの顔を見回した。


「私も賛成だ。事の解決は早い方が良いと思う。しかし……」


「いえ、ヴィレンス様。僕は、このまま姉様たちも一緒に行動した方が良いと思います」


 シャイナ達はこのまま公家の邸宅に戻っているべきだと主張するヴィレンス公子と、一緒についてくるべきだと主張するクリストフ様が見つめ合ってしまい、どちらも自身の言い分を譲るつもりは無い様子だ。


「わざわざ前線に向かってもらう必要はない。私だけで、とは言わないが、私たちだけでも十分に解決は出来るだろう。それともクリストフ殿下は不安なのか?」


「いえ。僕も、僕たちだけでも事の収集は出来ると思いますが、流石にいくらか、短くない時間を必要とするだろうと思っています。それならば、いざというときに、一緒にいた方が対処もしやすいでしょうし、それに、ただ待っている側というのも不安にはなるものなんですよ」


 互いに譲れぬ主張があり、議論は平行線に思えた。それでは決着が着かず、行動することが出来ない。

 そう、この場に2人しかいないのであれば、だ。


「ユースティア王子。貴殿はどう思っている?」


「お義兄さん。どう思われますか?」


 お義兄さん、というクリストフ様の言葉に、ヴィレンス公子がピクリと眉を動かす。

 本心では、というよりも、表情からも何か言いたげであることは明白に見えたけれど、流石にこの場面では自重された様子だ。

 女性陣の顔を見ると、やはり目が留まったのはシャイナのところだった。

 ミクトラン帝国の時には一緒に行動したし、今だってこうして前に出てきて貰っていて、それが随分と助けになってくれている。

 僕としては、シェリスやシャイナ、それに今この場ならばジーナ公女もだけれど、彼女たちには出来る限り平穏無事に過ごしていてもらいたい。

 しかし、ただ待っているだけというのは辛いものだと以前言われたような記憶もある。

 それに、どうして呼んでくれなかったのかと、お小言を言われたこともある。

 僕は一度目を閉じると、小さく深呼吸をした。


「皆で行きましょうか。そうすれば解決も早くなると思いますから」


「あら、お兄様。今日は随分と素敵なことをおっしゃるじゃないですか」


 シャイナがどこかほっとしたように目を瞑り、ジーナ公女が意気込んでいるように頷く中で、シェリスが嬉しそうに、そして楽しそうに僕の顔を見てきた。


「うん、まあ、ちょっと思い出しちゃったからね」


 シェリスは、僕の言葉が分かったのか、分からなかったのか、わずかに、楽しそうに目を細めた。



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