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オーリック公国 24 騒動 2

 伝令を聞いて、僕たちは一斉に立ち上がった。


「どこへ……」


「決まっております。これを暴動にしてはなりません。鎮静へ向かいます」


 ヴィレンス公子がはっきりと言い切り、駆け出す、あるいは飛び出そうとした僕たちの背中に、再度、ヴィンヴェル大公の声が掛けられる。


「ま、待ってくれ。それならば貴殿らに動いて貰わずとも――」


「いえ。私たちが動くべきでしょう」


 一刻を惜しむようにシャイナが途中で言葉を遮り、被せる。


「私たちがこちらの議会へ直接介入するわけにはゆきません。大公家には議会の招集という役目がありますから、このことに人手を出される余裕はないはずです」


 議会を招集する以上、集まられた方たちの安全は保障しなくてはならない。

 となれば、議会場への案内に、会場に着いてからの護衛、そして騒動に巻き込まれることのないようにするためには、それなりの人員と時間が必要になるだろう。

 そのうえで騒動の方にまで人手を割いていたのでは、どっちつかずで、招集が遅れ、さらに巻き込まれてしまうという事にもなりかねない。


「お待ちください」


 空色の瞳に決意を秘めた光を灯したジーナ公女が、思いつめた顔で、手を硬く握りしめていた。


「私も参ります。自分の身を自分で守ることは出来ますが、ここへ残った場合、もしかしたら、お父様たちのご迷惑になってしまうかもしれませんから」


 確かに、ジーナ公女がいてくれた方が説得力は増すと思う。

 しかし、離れたら離れたで、そちらのことが気になるのではないだろうか。ジーナ公女も、ここへ残られるヴィンヴェル様、ミーリス様、そして警護をしてくださっている方たちも。

 そして、もし、万が一の事態がジーナ公女の身に起こってしまうと、この騒動が成功してしまう。

 とはいえ、ジーナ公女が付いてくるというのであれば、それをヴィンヴェル様とミーリス様が承服なさるというのであれば、僕たちはそれに反対することは出来ないし、そもそも、強い意志を持った人間の考えを翻させることはかなり難しい。

 どちらにしてもリスクはあり、今確実に分かっていることは、時間がない、状況が逼迫してきているという事だけだ。


「ヴィンヴェル様。私が口をお出しすることをお許しください。ジーナ公女のことは私どもにお任せ願えませんでしょうか。ご心配なさるお気持ちはよくわかります。会って間もない私に、ジーナ公女を任せることに、かなりのご不安もあることでしょう」


 シェリスとシャイナが、ジーナ公女のことを抱きしめてくれる。


「しかし、公女殿下は私の妹の友人です。ならば、彼女たちの笑顔を曇らせないために、私は――申し訳ありませんが、命を懸けることは出来ませんが――私に出来る限りの全力を持ってお守りすると、セラシオーヌ様にかけてお誓いいたします」


 真っすぐに見つめる僕の瞳と、ジーナ公女たちの方へと、ヴィンヴェル大公の視線が向けられる。

 しばしの沈黙と、考えるように一瞬目を瞑ったヴィンヴェル大公ではあったけれど。


「――分かった。娘を、ジーナを頼む。私たちも可能な限り速やかに会議をまとめる」


 頭を下げ、食室を抜け出す。

 オーリック公国はエルヴィラやアルデンシアほどには国土としての広さはない。東西がゼノリマージュ山脈とオルストロ山地に囲まれているからだ。

 もちろん、周辺国家と比べてというだけで、決して狭すぎるなどということはないのだけれど。


「じゃあ、兄様はジーナをお願い」


 別れて事に当たるとなったときに、当然、1人になるのはリスクが高いという事で、6人いる僕たちは2人ずつで3方向に分かれようとなったわけだけれど。


「そうですね。1番危険があるのはジーナ公女でしょうから」


 シャイナの言うことはもっともで、現在の公家に不満があって暴動が起きている場合、その公家の担い手として、ジーナ公女に危険があるというのは当然だ。

 というよりも、僕を入れて他の5人にはあまり――こちらから干渉さえしなければ――危険はないのではないかとも思える。まあ、今からその干渉をしにゆくわけなのだけれど。

 クリストフ様とヴィレンス公子も頷いている。

 僕は膝をついて、そっとジーナ公女の手を取った。


「ジーナ公女。顔を合わせたばかりの私では不安もあることでしょうが、御身の安全を守らせていただけるという光栄を私に与えてはいただけますか」


「……よろしく、お願いいたします」


 少し大袈裟にし過ぎたようで、ジーナ公女の頬にはわずかに朱が差していた。

 シェリスはやれやれと言いたそうに肩を竦めていたし、シャイナは無表情に、じっと僕とジーナ公女のことを見つめていた。


「兄様。くれぐれも注意してね」


「ありがとうシェリス。でも、僕は大丈夫だから、シェリスこそ注意するんだよ」


 何故だろう。

 心配しただけだというのに、シェリスは「わかってないわね」とでも言いたそうに眼を細めて、わざとらしくため息をついてみせた。


「はあ。まあ、私は兄様が良いなら良いんだけれど。兄様の問題だし。それはそれで面白そうだし」


「シェリス?」


 シェリスは話は終わりとでも言いたげに、僕の身体をジーナ公女の方へとくるりと押しやり、自分はクリストフ様の手を取った。


「じゃあ、姉様。僕は先に行きます」


「ええ、クリストフ。貴方も気を付けて」


 クリストフ様はシャイナに挨拶をした後、僕たちの方へもぺこりと頭を下げられた。


「で、では、シャイナ姫。私たちも参りましょう」


 ヴィレンス公子がやや緊張気味にシャイナへと手を差し出す。


「シャイナ。気を付けて」


「……ユーグリッド様も御気をつけください。くれぐれも無茶はなさらないでくださいね」


 わずかに間があった後、シャイナがこちらを振り向かずに告げて、そのままヴィレンス公子と一緒にシェリスたちとは違う方へと飛び上がっていった。

 心配ではあるけれど、クリストフ様も、ヴィレンス公子も一緒なのだから大丈夫だろう。


「ジーナ公女。私どもも参りましょう」


 公家を中心に、シェリスやシャイナ達の向かった方と丁度等間隔になるように、三角を形成するような方向へと向かう。

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