オーリック公国 23 騒動
◇ ◇ ◇
翌朝。
少し心配してはいたのだけれど、シャイナはシェリスたちと一緒にちゃんと起きてきた。
しかし、流石に朝は起きられなかったのか、僕が鍛錬をしていても、シャイナがヴァイオリンなんかの稽古をしに起きてくることはなかったけれど。
シャイナは、寝顔を見られたのが恥ずかしかったのか、それとも自分でついてくると決めたのにも関わらず眠ってしまったことを後悔しているのか、僕と目が合うと、わずかに頬を赤く染めながら、そっと視線を逸らしてしまった。
「兄様とシャイナ、何かあったの?」
朝食の席で、隣の椅子に座っているシェリスが、ちらりと僕とシャイナの顔を見比べながら声を潜める。
何かあったかといえば、確かにあったのだけれど、多分、シェリスが想像していることとは違うだろう。
「朝食が終わってから話すよ」
話してしまえば、今夜からはシェリスやクリストフ様、ヴィレンス公子とジーナ公女まで付いてくると言い出しかねないので、というよりも確実に言い出すはずなので、あまり話したくはなかったけれど。
仕方がない。
こうなるだろうことは昨夜に2人で抜け出すと決めた時から分かっていたことだし、今日の昼の間中に決着をつけてしまえば何も問題はないのだから。
どちらにせよ、今日はギルドに働きに出かけることはやめようと思っていた。
元々、日雇いで働かせて貰っているので問題はなかったし、出来れば諜報部の方達の進捗の方も確かめて、すり合わせをしておきたい。
「ヴィンヴェル様、ミーリス様。朝食の後、報告したいことがございますので、少しばかりお時間をいただいてもよろしいでしょうか?」
「私たちの代わりに、私たちの出来ないことまでしてくれている貴殿らの話を聞くために時間をとることに、何の無理があるというのか」
ミーリス様も「その通りです」とおっしゃってくださって、朝食を終えた後、僕たちは部屋へは戻らずに、そのまま昨夜のことを報告した。
シャイナが少しばかり眠そうにも見えたけれど、もちろん、こんなところでうつらうつらとしてしまうような女の子ではなく、僕が話しながら確認を求めると、相槌を打ってくれていた。
「――以上が昨夜までの進捗を含めた報告です。実際に追求する際には、ヴィンヴィル様の署名の入れられた令状を持ってゆくと事が簡単に進むと思うのですが、一筆、認めてはいただけますでしょうか?」
「勿論だ。すぐに認めよう」
打てば響くように、一切の迷いも、躊躇いもなく、ヴィンヴィル様は頷いてくださった。
自分で言い出したことだとはいえ、ひと悶着くらいはあるだろうと覚悟していたので、はっきり言って拍子抜けした感は否めなかった。
「そのように不思議そうな顔をなされるな。たしかに、本来であれば議会を招集し、そこでの決定をもって、ギルドへの立ち入り調査を認めさせる必要があるのだろうが、今回はそういったことを言っていられない、火急の用件であるのだからな」
オーリック公国では、公家の役割というのは、エルヴィラほどに強いわけではない。
それだけ責任能力の分担も図られているという事だし、国事決定権を1つに集約させず、いざという場合に、頭が倒れても動けるシステムは良いことだと思う。
もちろん、エルヴィラも、すべての決定を国王の独断でしているわけではない。ちゃんと、査問機関もあるし、議会だってある。
しかし、今回のような場合に、強行するに際しての問題が生じてくるのも事実だ。
例えば、この件が解決した際に議会が招集されることになるのだろうけれど、その際、確実に、僕たちが強行で捜査を行ったことに対する糾弾が、事実とは関係なく行われることになるだろう。
公家の意思だけでそのような態度に出ることが出来るのであれば、限りなく平等に近い議会制を敷いている意味がなくなるからだ。
「そう心配そうな顔をなさらずとも、言ってしまえば、これは我が国の問題であり、貴殿らは自国への被害を防ぐという名目ではあるものの、無償でこの国の問題を解決しに来てくれているのだ。感謝こそすれ、文句などは出ようはずもない」
それに、それを言うのであれば、今回のような事態を招かせてしまった、ギルド側にも互いの監視という役割があるというのに、とおっしゃられた。
「それに、このところ起こっている街中での諍いも減るのであろう?」
まあ、まだ確定はしていないけれど、おそらくはそうなるだろう。
こちらの推測で、証拠となるものがあるわけではないのだけれど、情報を整理する限り、対立を煽っている人物を止めれば、彼らの間には元々悪感情などないに等しいのだから――あくまで僕が話し合って感じたものではあるけれど――大公陛下のおっしゃる通りに、諍いは沈静化されることだろう。
「大公陛下。これは、私たちが勝手に乗り出して来て、勝手に動いていることです。陛下がそのようにおっしゃられる必要はございません」
感謝してもらうために出てきたわけじゃない。
むしろ、自国を守るためという、当然と言えば当然だけれど、個人的な事情からだ。
「もし、それでもとおっしゃられるのでしたら、仮に、今回のことで少しばかり派手なことになってしまっても、ある程度はお目を瞑っていただければ幸いです」
「分かった。貴殿らの裁量にお任せしよう」
何故かシェリスがぐっと拳を握り締めていたけれど、僕たちは喧嘩をしに、取り繕わずに言えば、武力行使することを前提に行くわけじゃないからね?
そういった意図を込めて視線を送ったのだけれど、シェリスは気づかないふりをしていた。
なんとなく、そう、なんとなくだけれど、わずかに不安な気持ちが残るのは何故なのだろう。
「失礼いたします!」
そんな不安を現実のものとするかのように、伝令の方が部屋に入っていらした。
「ご報告申し上げます! 市内で騒動が!」




